第11話 ベッドの下にある本と元勇者
和馬がロリコン認定された所で、次の授業である数学教師がやってきた。
陽菜と話せなかったのは残念だが、一先ずキャンベルちゃんには昼休みに話すと伝えたし、断る事も確定しているので、これ以上悩む必要もないだろう。
授業に集中しようと教科書とノートを開き、教師の話を聞き、シャーペンを走らせる……が、ここで重大な事に気付いた。
十数年振りの数学の授業に、全くついていけない。
二次関数って何だ? グラフの頂点? ヤバい。全くと言っていい程、内容が分からない。
「じゃあ、期末試験も近いし、この辺りはしっかり勉強しておくように」
全然理解出来ないまま授業が終わり、不吉な言葉を残して教師が退室していった。
期末試験……そうだ。俺が事故に遭ったのは、高校一年生の七月の上旬だから、数週間後には試験がある。
せっかく陽菜と学校生活を満喫出来るハズだったのに、成績が悪くて留年なんてしてしまったら、目も当てられない。
陽菜と一緒に過ごす時間を作りたいが、勉強もしないとマズい事になる。
異世界に学校はあったものの、貴族だけが通う場所だったし、平民は数学どころか算数が出来れば優秀な方だった。
読み書きは生きる上で必須だったので親が子供に教えるけれど、物理や化学なんて、概念自体が存在しない世界で過ごしてきたんだ。
非常に危険な状態ではあるが、しかし俺はこんな状況にピッタリなイベントを知っている。
その名も、勉強会。
陽菜に家へ来て貰い、一緒に勉強しつつ、時折イチャイチャする……勉強も出来て、陽菜と一緒の時間も過ごせる。
良いじゃないか! 早速陽菜に家で勉強しようと誘いに行こう。
そう思って立ち上がった所で、マリーが俺の前を塞ぐ。
「マリー、どうかしたのか?」
「ソウタ……試験って何? 何か試されるの?」
あー、自分の事で頭がいっぱいだったけど、マリーも分からない事だらけだよな。
そもそも、数学っていう概念すら……って、これはマズくないか!?
「マリー。さっきの授業、ノートって書いてた? というか、筆記用具って持ってる?」
「ノート? 筆記用具? 何それ?」
「ぉぉぉ……マリー、ちょっとこっちへ来て」
俺とマリーが話しているだけでもクラスから視線が集まるので、一旦廊下に出て、ダッシュで校舎の屋上へ。
クラスメイトに聞かれると変に思われるであろう、そもそも学校が何をする場所なのか、筆記具の使い方、期末試験が何なのか、という基本的な事をかいつまんで説明していく。
「えっと、つまり試験で成績が悪いと、ソウタと一緒に居られなくなるって事?」
「そういう事。今日の授業って内容どれくらい分かった?」
「最初の文字ばっかりのは大丈夫だよー。読み書きは出来るし。それに、さっきの数学? っていうのも大丈夫ー」
「え? 大丈夫なの? 現代文は女神様の力でティル・ナ・ノーグの文字に変換されるとしても、二次関数なんて知ってたのか?」
「うーん、言葉としては知らなかったけど、何故か理解出来るんだー」
女神様の力かぁぁぁっ!
いや、確かにマリーが高校生として生きていく上で必要な知識だけど……この様子だと、マリーは物理や化学なんてのも大丈夫なんだろうな。
女神様、どうせなら俺にもその力を付けて欲しかったよ。
これから毎晩勉強漬けだなと考えていると、突然視界が真っ暗になり、顔に柔らかい感触が触れる。
というか、後頭部が抑えつけられているし……これはマリーの手か? じゃあ、顔に触れているのは何だ?
「マリー!? 何してんだ!?」
「え? だって、ソウタが何だか辛そうな顔だったから」
「いや、そうじゃなくて、俺の頭をどういう状況にしているんだ?」
「あ、ウチのおっぱいに当ててるんだよー。ソウタのベッドの下にあった本に、辛そうな男の人にはこうしてあげると良いって書いてあったし」
あの本、すぐ取り上げたはずなのに、ベッドの下で読んでたのかっ!
いや、確かに元気は出るけどさ。
勉強しようと思っている時のこれは、むしろダメになる奴だろ。
一先ず、マリーの手と胸から抜け出し、
「あのな、こういう事は好きな人同士でしかやっちゃダメなんだ」
「じゃあ、大丈夫だよー。ウチはソウタの事が大好きだもん」
「俺はマリーじゃなくて、陽菜の事が好きなの」
「今はヒナが一番かもしれないけど、これからウチがソウタの一番になるから良いんだよー」
注意したのだが、全く聞いてねぇ。
「それより、ソウター。あの本には、おっぱいに顔を埋めさせた後、男の人がそのおっぱいを触っていたけど、そっちはしなくて良いのー?」
「しなくて良いんだよっ! というか、あの内容は忘れるんだ。今すぐ」
身体は大人なのに、十歳児レベルの性知識しか持たないマリーが、年相応の性知識を身に着けたらヤバい……けど、身に着けてないのもマズいよな。
あれ? これ、どうすりゃ良いんだ!?
流石にこれは陽菜にも相談出来ないし、俺の手に余る問題じゃないか?
どうしたものかと困っていると、再びマリーの胸に顔を埋めさせられてしまった。
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