第2章 学校に通う異世界少女

第8話 悪友と再会する元勇者

「行ってきまーす」

「いってきまーす」


 朝食を済ませ、マリーと一緒に登校……というか、案内する。

 というのも、マリーが言うには、昨日は女神様に日本へ転移させてもらったものの、いきなり教室で自己紹介しろと言われ、何故か俺に話し掛ける事も出来ないまま、放課後になっていたのだとか。

 これも女神様の辻褄合わせの力なのだろう。

 なので、学校の場所も分からないというし、日本での自分の家も分かっていない。

 一先ず、俺とは旧知の仲となっているみたいだから、先生に聞けばマリーの日本での住所を教えて貰えるだろう。

 ……昨日は俺の家に泊めたが、今日は本来の家に帰ってもらわないと。

 そんな事を思いながら、珍しそうに周囲を眺めるマリーを連れて歩いていると、


「颯ちゃん、マリーちゃん、おはよー!」

「おはよう、陽菜」

「……おはよう」


 朝から陽菜に会う事が出来た。

 良かった。陽菜に再会出来たのは夢ではなくて、目の前に居る陽菜も幻じゃないんだな。


「そ、颯ちゃん? どうしたの? 私の方とか背中とかに何か付いてた?」

「え? あはは……何でもないよ。気にしないで」


 気付けば、無意識で陽菜の身体に触れて居た。

 その後、日本での生活を思い出しながら陽菜と喋り、俺の記憶と今の現状のすり合わせを行っていると、


「分かった。ヒナ……ウチと勝負して!」

「え? マリーちゃん? 勝負って?」

「どっちが、よりソウタの幼馴染として相応しいか。ウチはヒナに勝って、ソウタの一番になる」


 何故か少し不機嫌そうなマリーが、よく分からない事を言い出した。

 幼馴染の一番って何だ? 幼馴染に一番も二番も無いと思うのだが。


「ふぇっ!? わ、私が颯ちゃんの幼馴染なんだよっ!」

「残念。ウチもソウタの幼馴染。しかも、ウチは何度も激しい夜を過ごしてきた」

「それは昨日聞いたけど……激しい夜って?」

「そのままの意味。一緒に寝ていたのに、全然寝かせてくれなくて、朝を迎えた事が何度かある」


 マリーは何を言って……って、それはティル・ナ・ノーグで野宿している時に、魔物の大群に襲われた時の話じゃないか。

 確かに魔物の数が多過ぎて、全員で朝まで戦い続けた事があるけれど、言い方がおかしいっ!


「ちょっと待った! マリーが言っているのは魔物との戦……だぁぁぁっ! とにかく違うんだってば!」

「あの時は、激しくて足腰がフラフラに……んーっ!」

「うぉぃ! えーっと、あれだ。そう、ゲーム。マリーと一緒に夜通しゲームした事があったんだ」


 陽菜の誤解を解こうとして途中で気付いたけれど、魔物とか言っても話が通じないし、信じて貰える訳も無い。

 まだ何か言おうとしているマリーの口を塞ぎながら言い訳をしたけれど、子供の頃に夜通しゲームなんて、我ながら無茶苦茶だと思うのだが、一先ず陽菜は納得してくれたみたいだ。


 しかし朝から変に疲れたものの、無事に教室へ。

 十数年ぶりの高校……嬉しいけれど、ちょっと緊張するな。

 陽菜が居るから大丈夫だと思うけど。

 教卓の近くで自分の席はどこだったかと必死に思い出していると、


「ちぃーっす! 颯太。朝らから両手に花とはどういう事だ? 羨ましいなぁ、おい」


 軽薄なノリの男子生徒が話しかけてきた。

 ……誰だ? いや、何となく見覚えはある。

 よく、一緒に昼飯食べたり、ゲームの話をしたり、お宝の交換をしたり……あー、ダメだ。全く思い出せない。


「えーっと、鈴木……だっけ?」

「いや、誰だよ! 俺は和馬だよ! 森本和馬!」

「おぉ! そうだ、和馬だ! 久しぶりだなー!」

「久しぶり? どうした。可愛い幼馴染に再会して、浮かれて頭がおかしくなったのか? というか、マリーちゃんを俺にも紹介してくれよー」


 いろいろと思い出してきた。

 口を開けば彼女が欲しいと言いながら、自分一人では女子に話しかける勇気もなく、可愛い女の子なら何でも良いと豪語する、中学からの悪友だ。

 昨日転校してきたマリーに話し掛ける事が出来ず、俺をダシに仲良くなろうという作戦か。

 まぁ陽菜にちょっかいを出そうとしている訳じゃないから構わないけどさ。


「マリー。このバカは、森本和馬って言う俺の友達なんだ。仲良くしてやってくれ」

「バカは余計だ、バカは」


 悪友とのノリを懐かしく思っていると、


「えっと……ウチはマリー=コリガンです。ソウタと結婚するために、日本へやってきました」

「ふぁっ!? おい、マリー!?」


 マリーがとんでも無い事をサラっと言い放つ。


「おい、颯太! どういう事だ! お前……この外国産の大きなおっぱいを、もう手中に収めたって事なのかっ!?」

「待て! マリーも和馬も、いきなり話が飛躍し過ぎだ! それに、そもそもマリーはただの幼馴染だってば」

「颯太。どうだった? やっぱりおっぱいって柔らかいのか? マシュマロみたいって本当なのか? あと、ブラジャーってどうやって外すんだ? 畜生、どうなんだーっ!」

「話を聞けーっ!」


 久々に学校生活が始まったのだが、初日から大変な事になってしまった。

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