第6話 異世界の幼馴染と一夜を過ごす元勇者
「遅くなってごめんねー。陽菜ちゃんがオムライスを作ってくれたのね。颯太、今度何かお礼を……」
母さんが独り言のように喋りながらリビングへ入って来て、マリーを見た途端に固まった。
見知らぬ少女が家に居るからなのか、暫くマリーを凝視した後、
「……もしかして、マリーちゃん? あらやだ、大きくなったのねー。十年振りくらいかしらー?」
意外にもフレンドリーに話し掛ける。
だけど、おそらくこれも女神様の辻褄合わせなのだろう。
そうでなければ、マリーを見て、十年前に会った切りの女の子だと気付ける訳が無い。
まぁ、そもそも十年前にマリーと会っていないんだけどさ。
「ところで、マリーちゃんはどうしてそんな格好をしているの?」
「ちょっと服が濡れちゃってさ。さっき乾燥機に入れたんだ」
「そうなの? 今から乾くかしら? 乾燥機って、二、三時間は掛かるわよ?」
キョトンとするマリーに、小声で俺の母親だと告げると、マリーが深々と頭を下げる。
「あの、ソウタのお母さん。今日、泊めてください」
「いいわよー」
どストレート!
というか、母さんもいいのかよっ!
これも女神様の力の影響か?
いや、前から普通に陽菜や楓子の友達を泊めているし、元々細かい事を気にしない性格か。
しかし、マリーには俺の家族に見つからないように……と、釘を刺しておいたけど、今となっては隠れてコソコソするより良かったな。
ただ、女神様による辻褄合わせがなければ、到底無理だったけど。
それから、単身赴任で数ヶ月帰って来ていない父さんの部屋がマリーにあてがわれ、俺も寝る準備を済ませて自分の部屋のベッドで横になる。
ぐるりと辺りを見渡せば、懐かしい勉強机や本棚に並んだ漫画とラノベ。スマホもあれば、パソコンだってある。
本当に日本へ帰って来られたんだ。
これでもう、いつ来るか分からない魔物の襲撃に備えて、交代で見張りをしながら眠らなくてもよい。
常に周囲に気を張り巡らせながら食事をとらなくてもよい。
無限に湧き続ける魔物と命のやり取りをしなくてもよい。
慣れ親しんだベッドに寝転がり、一人になってようやく日本に帰って来たのだという実感が湧いてくる。
久しぶりに陽菜の顔を見て、陽菜の声を聞き、陽菜に触れる事が出来た。
異世界の違い過ぎる文化に戸惑う事はなく、再び陽菜に会う事が出来るのかと不安に駆られる必要もなく、魔力の残量を気にする事もない。
明日からは陽菜と同じ時間を過ごす、学校生活が始まる。
放課後、陽菜を誘って屋上で告白しよう。
日本と異世界で生きた数十年間の想いを伝えて、互いの関係を幼馴染から恋人に変えるんだ。
陽菜と一緒に過ごす楽しい時間を想像しているうちに、俺の意識は夢の世界へ入っていった。
……
「ソウタ様。魔王を倒したら、私と結婚して一緒にこの国を立て直してくれませんか?」
王城の一角、第二王女であるリディア様の私室で、その部屋の主が翡翠色の瞳で俺を見つめてくる。
俺の中では答えが決まっているのだが、相手が相手だけに、どうやって断るべきかと慎重に言葉を選んで居ると、リディア様が胸に飛び込んできた。
「ソウタ様。リディアはソウタ様の伴侶として生涯を共にし、一生お傍に居たいのです」
「ですが、俺……いえ、私とは身分が……」
「そんな事関係ありませんっ! 王族も貴族も平民も、ただ生まれが異なるだけ。現に、ソウタ様の前においては、リディアはただの一人の少女に過ぎません。ですから、ソウタ様……どうかリディアに子供を授けてくれださいませ」
「――ッ!? リ、リディア様っ!?」
「リディアも今年で成人となります。リディアには未だ経験はありませんが、ソウタ様に何をして差し上げれば良いか、侍女たちから教えていただきました。実際にするのは初めてですので、拙いかもしれませが、お許しくださいませ」
そう言うと、いつの間にかドレスを脱いでいたリディア様が、年齢に似合わぬ大きな胸を押し付けてきた。
俺は困惑しながらも、リディア様の細い腰に腕を添え、優しく抱きしめ……
「……ちゃん! お兄ちゃんってばっ!」
楓子の声と共に目を覚ました。
「お兄ちゃん、もうとっくに朝だよ。朝ご飯も出来てるよっ!」
「ん……あぁ楓子、おはよう」
薄らと目を開けると、楓子の小さな顔が視界いっぱいに広がっている。
どうやら異世界に居た頃の夢を見ていたようだ。それも、物凄くリアルな夢を。
まぁ途中までは夢というより、実際にあった思い出だけど。
実際はリディア様がドレスを脱ごうとした時点で止めたし、あんなに胸も大きくなかったしね。
しかし夢に出て来たのが、よりにもよってリディア様か。
どうせなら陽菜とイチャイチャする夢を見たかったなと、少しだけ残念に思いながら身体を起こそうとすると、何故か身体が重い。
というか、何かが俺の右腕に乗っているようだ。
一体、何だ? と思いながら、自由な左手で布団をどけると、
「……え? なんで!? どうなってんだ!?」
何故か俺の隣で、ほぼ全裸のマリーがスヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた。
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