第4話 異世界の全裸幼馴染と元勇者
「ところで陽菜。何か俺に用事があったんじゃないのか?」
「えっ!? 私? ううん。別に用事があった訳ではないよ?」
「そうなのか? じゃあ、どうして俺の部屋に居たんだ?」
「あー、それはね、病院から楓子ちゃんと一緒に帰ってきたんだけど、せっかくだから上がってって言われちゃって」
楓子が陽菜を家に……というか、俺の部屋に上げたのか。
だけど、楓子はどうして俺が居ないのに、陽菜を俺の部屋へ誘ったんだ?
我が妹は何をしたかったのかと考えていると、
「あ、そうだ! 颯ちゃん、今日もお母さんお仕事なんでしょ? ご飯作ってあげようか?」
「ま……マジで!? いいの!?」
「ご飯くらいで、大袈裟だよー。何か食べたいものある?」
「陽菜の作ってくれるご飯なら何でも嬉しいけど……じゃあ、オムライスで。材料もあるし」
「あー、楓子ちゃんも好きだもんね、オムライス。じゃあ、キッチン借りるねー」
陽菜が夕食を作ってくれると言って、一階へ降りて行った。
まさか、異世界から帰って来たその日に、陽菜の手料理が食べられるなんてっ!
GJだ、楓子! よくぞ、陽菜を家に呼んでくれたっ!
後で、いっぱい撫で撫でしてあげよう。
「……むー」
「ど、どうしたんだ? マリー」
陽菜のオムライスを想像して期待に胸を膨らませていると、ジト目のマリーが俺を見つめていた。
「ソウタが物凄くニヤけてた。ウチ、あんなソウタの顔、見た事ない」
「えっ!? べ、別にニヤけてなんてないし」
「そう言いながら、今も口元が笑ってるもん」
そう言うと、マリーが俺に抱きついてきて、頬を膨らませる。
とはいえ、仕方ないじゃないか。
大好きな陽菜が俺の為に手料理を作ってくれるんだからさ。
しかし、マリーもこれで分かっただろう。
俺は陽菜の事が大好きだという事が。
「マリー。公園でも言ったけど……」
「さっきの女の子だよね。ヒナって呼んでたけど、ソウタが好きだって言う女の子」
「あぁ。俺は陽菜の事が好きだ。非常に申し訳ない事を言うが、俺が魔王を倒したのはティル・ナ・ノーグの平和の為じゃない。陽菜に会う為だ」
この言葉をマリーに伝えるのは、二回目だ。
一度目は、異世界ティル・ナ・ノーグではっきりと伝えている。
それに加えて、マリーの告白を断った時点で、俺とマリーが恋仲になる事が無いと理解してくれれば良かったのだが、今更それを言っても仕方が無い。
一先ず、マリーを元の世界、ティル・ナ・ノーグへ帰す方法を探さなければ。
「わかった」
じっと目を見つめて話したからか、マリーがようやく納得してくれたらしい。
何やらジッと考えた後、静かに口を開く。
「じゃあ、ウチもソウタが好きな料理を作る。待ってて。ヒナには負けない」
全然、わかってなかった。
「ちょっと待った! そういう問題じゃないからっ! それに、マリーは日本の料理とか、調理器具とかの事を知らないだろっ! というか、それ以前に楓子と面識が……」
俺の制止を聞かずにマリーが階段を駆け降りてしまったのだが、陽菜とは女神様の力で顔見知りになっているけれど、楓子とはどういう状態になっているか分からない。
暴走しているマリーを止めようと、急いで追いかけようとした所で、リビングから三者三様の声が響き渡る。
「えぇっ!? ちょ、ちょっと……お兄ちゃーん! この女の人は誰なのー!?」
「な、何これっ!? 火の精霊の制御がこんなに簡単……こっちは水の精霊までっ!」
「ま、マリーちゃん!? セイレイってなぁに? 蛇口を覗きこんでどうしたの!?」
聞こえてくる言葉から察すると、マリーが異世界にないガスコンロや水道に興味を持って居るのだろう。
旅の途中で野宿する際は、火も水も精霊魔法で制御するのが普通だったので、魔法が使えないマリーにとっては、かなり衝撃的だったと思われる。
「きゃあっ!」
だが突然、そのマリーの悲鳴が聞こえてきた。
ようやくキッチンに辿り着くと、
「ま、待って! タオル持って来るからっ!」
「颯ちゃん。マリーちゃんをお風呂へ連れて行ってあげて」
「ソウター。ビショビショー」
何がどうなったらこうなるのか、大量の水を被ったマリーが泣きそうな顔で立って居た。
茶色い髪の毛から、可愛らしい顔や大きな胸に至るまでびしょ濡れで、一部はスカートにまでかかっている。
「マリー。どうして、そんな事になったんだ?」
「ソウタ……水の精霊がとめどなく水を流していたから、どこに精霊が居るのか調べようとして、変なレバーみたいなのを触ったら、こうなったのー」
何が起こったのかを陽菜に聞くと、マリーが蛇口を覗きこんだり、触ったりしていたのだが、あろう事か蛇口の先に指を突っ込んだ上に、水量を最大にしたのだとか。
見れば、マリー程ではないが、陽菜も少し濡れてしまっている。
一先ず巻き添えをくらってしまった陽菜に謝り、走って戻ってきた楓子からタオルを受け取ると、マリーの顔や頭を拭いていく。
「颯ちゃん。風邪をひいちゃうかもしれないから、お風呂とかを貸してあげられないかなー?」
「そうだな。確かに陽菜の言う通りだ。マリー、ついて来て」
猫耳が濡れ、心なしかしょんぼりしているようにも見えるマリーの手を引き、我が家の脱衣所へ。
「マリー。服を脱いで、シャワーを浴びておいで」
「わかったー」
「って、脱ぐのは俺が脱衣所から出てからにしろって!」
「どうして? 少し前までは一緒に水浴び……」
「わーわーわーっ! いいから、とにかく早くっ!」
ティル・ナ・ノーグに居た時の様に、マリーが躊躇なく上半身裸となったため、綺麗な白い膨らみを思いっきり見てしまった。
あの頃は、魔物避けの結界の効果が効いている内に水浴びを済ませなければいけなかったから、パーティ全員で急いで入っていただけだ。
結界が狭い事もあり、俺は女性陣に背を向けていたし、仲間の裸を覗いたりなんて事は全く……いや、ほんの少ししかしていない。
一先ず、日本では急いで服を脱ぐ必要もないし、慌てて入浴を済ます必要もない事を告げて、速やかに脱衣所から出て扉を閉めると、すぐにマリーの助けを求める声が聞こえてきた。
「ソウター。このスカートって、どうやって脱ぐのー?」
「横にホックとかがあるんじゃないのか? というか、俺だってスカートの脱ぎ方なんて知らないよっ!」
「えぇー。ホック? って言われても、よくわからないよー。ソウタ、助けてよぉー」
思い返してみると、異世界にもスカートはあったが、腰の部分に紐を通して留めていたので、ホックなんて物は無かった気がする。
そのため、マリーが脱ぎ方が分からないというのも、文化が違い過ぎるので仕方が無いのかもしれない。
とはいえ、このまま待っていても何も解決しないし、陽菜が心配した通り風邪をひかれても困る。
「……マリー。スカートを脱がすから、あっちを向いていて」
仕方なく脱衣所へ戻ると、背中を向けさせたマリーのスカートを手探りで調べ、何とか下ろす。
「パンツは自分で脱いで、シャワーを……って、だから俺の前で脱ぐなよ」
ツルンとした真っ白なお尻と、ふさふさした尻尾を見せたマリーを浴室へ押し込み、ようやく一息吐いたのだが、
「ソウター。ここで何をすれば良いのー?」
中から聞こえてきたマリーの声で、頭を抱える事になってしまった。
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