第3話 競走得点0点の僕

 今日は準決勝戦だ。だが僕はまだ一度しか走っておらず、しかも落車失格だったため、点数は0点。他に準決勝戦に乗る同期は前場所で完全優勝を決めているほどで、あいつの点数なんて見たくもない。


 昨日はあいつ以外の同期連中がことごとく4着以下を取り、準決勝戦に出場する新人は、僕とあいつだけ。

 比べ物にならないことぐらい、他の誰よりもこの僕がいちばんよく知っている。

 『地元三割増』なんて言葉もあるが、僕の実力を1.3倍したところであいつの実力の半分にも及ばないんじゃないだろうか。



 ***




 5レース6号車の僕の後ろには、同地区とはいえ中国地方なのでよく知らない先輩が付くことになっていた。2車ラインだ。


 構えての号令にも号砲にも少しは慣れを覚え始めていた僕は、今日も誘導員の後ろを取る――はずだった。が、スタートと同時に外側からオレンジ色の勝負服の選手が飛び出していった。


 並びは75/62/134となり、僕がどこから仕掛け始めればいいのか悩みながら走っていると、誘導退避前に後ろから白い勝負服が近づいてくるのが視界に入った。

 僕は先に前を切って逃げた方がいいかとも思ったが、それで1号車に中団のいい位置をプレゼントしてしまうことになる気がしたので、そのまま前を切らせた。

 6番手に追いやられてしまった僕は慌てて踏もうとしたが、逃げ態勢に入った1号車の外に7号車が出て並走状態、隊列が短くなって絶好のまくり頃が訪れた。


 ジャンの音を聞きながら僕は思い切り踏んだ。どんどん激しさを増すジャンの音が鳴り終わる頃、僕は先頭で風を切っていた。


 最終周回の3コーナーで僕は『決勝戦に先輩を連れて行かなければ』と気付いて慌てて後ろを見た。が――黒い勝負服はどこにも見当たらなかった。いや、黒い勝負服どころか、誰の姿も見えなかった。


 僕は何が起きているのかよくわからないまま走り、そのまま2連勝目となる1着入線を果たした。


 勝利者インタビューで僕は、「先輩にはご迷惑をおかけしましたが、決勝戦に出られる以上は完全優勝を狙います!」と答えた。

 お客様からの野次とも声援とも付かぬ声に愛想笑いをしながら、明日の決勝戦にあいつが出るであろうことを思い出し、敢闘門の方へ戻りながら大きなため息をついていた。

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