第2話 恥晒しな僕
弥彦競輪場でのデビュー戦を落車で終えた僕の次の斡旋は、地元小松島のモーニング開催だった。開催は明後日にせまっている。明日の前検日のことを考えると気が重いなんてもんじゃない。周りから何を言われるか、インタビュアーに何と言えばいいか――考えてもキリがないが、まるで学校に行きたくない小学生のように『おなかがいたい』と言いたいほどの胃痛がする。
***
前検日、足取りも重く向かった小松島競輪場の入り口で、デビュー戦を華々しく完全優勝で飾った同期と出くわしてしまった。
「よぉ、お前のデビュー戦、面白かったぜ!」
同期はそう言ってニヤニヤと笑った。僕は、悔しさよりも恥ずかしさを思い出して泣きそうになりながら、言った。
「お前こそ、デビュー戦面白かったな」
僕は力なくそう答えるのが精一杯だった。
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デビューして二度目の前検日、何も考えたくないと思えば思うほどイヤな想像をしてしまう。
また落車したらどうしよう。
自分だけではなく他の選手を巻き込んでしまったらどうしよう――。
おかげで、ロクに寝付けなかった。
モーニング開催だから、早寝したかったのに。
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今日は1レースの6号車で走ることになっていた。本音を言うと、デビュー戦――と言っていいのかどうかわからないが――のように、他の同期のレースの後に走らなくていいだけ気は楽だった。
僕は敢えてオッズを見ずにいた。人気を背負っていたら緊張してしまうし、人気がなければデビュー戦のことを思い出してしまうと思ったからだ。
僕をあざ笑うようなメロン色の勝負服に身を包んだ僕は、敢闘門から出て行った。
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僕の大好きなモムラーの声が聞こえる。
だけど、今の僕には――天気の話なんか、どうでもいい。早くレースを終えて、ラクになりたい。結果なんて、どうでもいい。
とにかく早く走り終えたい。僕はそう思っていた。
構えての号令が聞こえて、僕はできるだけ頭を空っぽにしながら前傾姿勢を取る。
号砲が鳴り、誘導員の後ろを取ることに恐怖を覚えてしまっていた僕は、ゆっくりと走り出した。――と、僕は何故か25m線手前で落車してしまった。再発走だ。
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幸いというか当然というか怪我もなく、僕もレースに出場することになった。お客様からの野次がひどく大きな声で聞こえる中、再発走の準備をした。
構えての号令が聞こえて、僕は『今度こそ』と強く思いながら前傾姿勢を取る。
号砲が鳴り、僕は勢い良く走り出し、誘導員の後ろを取った。
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誘導退避の直後、後ろから別線の選手が仕掛けてきた。
僕は一旦下がろうかとも思ったが、突っ張ってみることにした。
ちら、と後ろを見ると、突っ張り先行をする僕の番手の先輩が別線の選手と競り合いになっていた。――しまった、先輩に迷惑をかけるレースをしてしまっている――と思ったが、打鐘を迎えたときに僕は全力で踏んだ。
***
後ろの様子を見る余裕もないままひたすら踏んだ。ゴールが遠く感じた。1周半、600メートルとはこんなに長いのかと痛感した。
だが、気が付けば僕は1着入線を果たしていた。ジャンがましでの逃げ切り勝ちだ。地元選手が勝つと興奮するモムラーはきっと大興奮だろう。――これがデビュー戦だったらな、と僕はため息をついてしまった。
***
勝利者インタビューでは、こう答えた。
「デビュー戦では情けないところをお見せしてしまって申し訳ありませんでした。明日以降も頑張るので応援してください!」
確定オッズがどうなったのかも確認せずに僕は、『あぁ、僕は競輪選手になったんだ』という実感に包まれていた。
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