第8話 必勝法

「『陣取りゲーム』!?」


ラクエンが告げたゲーム名は、馴染みがありすぎて逆に拍子抜けしてしまう響きだった。


「ルールを説明させていただきます。」




「このゲームは2人1組で行っていただきます。チームは皆様のコインケースに描かれた絵、空・海に従っていただきます。」


ふと横を見ると、確かにフウチョウたちの持っているコインケースには雲と太陽のような絵が描かれており、空を表していることがわかる。


「本番では今皆さんの左右に見える扉の奥にあるそれぞれの控室で待機していただきます。」


ラクエンの言うように、左に空、右に海の絵が描かれた扉があった。

つまり、ゲーム中は相手チームとは接触できないということだ。


「それでは、ここからは実際にチュートリアルを行いながら説明いたしますのでそれぞれの控室にお入りください。」


「もうか…2人とも、気は乗らないけど、恨みっこなしだからな?」


「はい!」


「お互い様なの。」


軽く会釈し、それぞれの控室に分かれた。


扉の先は、さながら海の中のような、なんとなく落ち着く雰囲気だった。

状況的には落ち着けることなど何もないのだが、それにしても、あまりにも準備が良すぎる。


「先ほども伝えましたが、ゲーム中は基本的にそちらで過ごしていただきます。次は、先ほどの扉の隣にある扉の先にお進みください。」


指示に従って扉の先に進むと、そこには真ん中に仕切りのある正方形のテーブルと、それを挟むように椅子が設置されていた。

そして、その向こう側の扉からはフウチョウたちが入ってくる。


「あ…また会いましたね。」


「あはは…」


気まずさをよそに、ラクエンは説明を続けていく。


「ここが実際にゲームを行っていただく部屋になります。本番ではこの部屋には各チーム1人ずつ入室していただきます。では…カンザシ様、イワビー様、ご着席ください。」


2人が席に着くと、2人の間の仕切りがテーブルの中に沈んでいく。


「机に書かれた21のマス目、これが今回皆様に取り合っていただくものになります。」


手前と奥、それぞれの側に書かれた21のマス目。すべてのマスが相手側のマスと線でつながれている。そして、お互いの右手側に、お互いのチームのモチーフが描かれている。 


「それでは、カンザシ様、イワビー様。チームのマーク側からお好きなマスまで、すべてのマスに同じ枚数ずつ、お手持ちのコインを置いていただけますか?」


「…これで良いか?」


カンザシは5マス、イワビーは11マス目までコインを置いた。


「ありがとうございます。今回のゲームでプレイヤーの皆様に行なっていただくことは以上になります。」


「これだけ!?」


「えらく簡単なの。」


「はい。本番では先ほどの仕切りを付けた状態でこれを行なっていただき、両者のセットが完了した時点で仕切りを外し、勝敗の判定となります。」


「分かりやすいですね…」


「それで?勝敗はどうやって決めるんだよ。」


「勝敗についてですが…まず、今コインを置いたマス、それが『陣』、ということになります。この陣を相手よりも多く取った側が勝利、相手が場に出したコインをすべて獲得できます。今回であれば、11マスを取ったイワビー様が勝利となります。」


「それなら毎回端まで置いてしまえば良いんだな?」


「いえ、そうではございません。11マス目をご覧ください。」


全員がモニターからテーブルに視線を移す。


「マス目の色がそのマスを境に変わっていることと思います。」


確かに、マークから10マス目までは青、11マス目は赤と青半分ずつ、その先は赤になっていた。フウチョウたちの方はマーク側が赤から始まっている。


「その色は元々の領地を表しております。当然、相手の領地を奪うには相応のリスクが伴います。」


「リスク?」


「もし、相手側の領地まで陣を取りながら、相手と陣が重なってしまった場合、は相手側の領地に陣を取ったプレイヤーの負けとなり、先程と同様に、場に出したコインをすべて勝ったプレイヤーに渡すことになります。」


「両方が相手側に置いていたらどうなるの?」


「その場合はより奥まで進んだプレイヤーが負けとなります。」


「それだと、今度はわざわざ相手側に置く必要が無くなりませんか?」


「はい。ただし、次に説明する引き分けのルールまではあくまでも基本的なルールになります。」


基本的なルール、ということは特殊なルールも存在するのだろう。現に、ここまでのルールでは11マス目までコインを置いてしまえば負けがなくなる。


「では、引き分けについてです。両プレイヤーが同じ数の陣をとった場合がこれに該当します。この場合は、そのゲームでは場に出されたコインを分配せず、次のゲームの報酬に上乗せいたします。最終ゲームが引き分けの場合、勝敗が決まるまで延長いたします。」


勝負が決まるまで延長…ということは、決まらなければ何日でもかけるということだろうか。もっとも、レッスンもあるので早く終わらせてしまいたい。


「さて、ここからは特殊なルールとなります。相手の領地にコインを置く場合、1マスのみ2倍の枚数を置くことができます。そして、この2倍のコインを置いたマスが、相手の先頭のマスと一致した場合、相手よりも多くのマスを取っていても勝利となり、相手が場に出したコインの2倍を奪うことができます。」


「2倍…?たったの?」


これで相手の領地に手を伸ばす理由ができたと言うには、あまりにもリターンが小さすぎる。


「勝敗に関するルールは以上となります。取る陣を選び、コインを置き、勝敗の判定。これを1ゲームとし、5ゲーム1セット、計4セット行い、終了後にコインの総数が多いチームが、この陣取りゲームの勝者となります。」


「質問があるの。」


「なんでしょう。」


「もし、4セット終わる前にコインがなくなったらどうなるの?」


「その場合、その時点でゲーム終了、あるいは…」


「あるいは?」


「追加でコインをお貸しすることも可能です。」


「!?」


「お前…なんのつもりだ!!」

 

イワビーも我慢の限界だったのか、声を荒らげる。


「オレらを追い詰めて、争わせて、一体何が目的なんだ!」


「申し訳ありませんが、その質問にはお答えできません。では皆様、1度控室へお戻りください。」


「おい!待て!ラクエン!」


「イワビーさん!」


ジェーンがなだめるも収まることはなく、結局仮面に帽子のフレンズ達が取り押さえるようにして控室に戻ってきた。


「くそっ!」


「イワビーさん…」


「ジェーンはおかしいと思わないのか?」


「確かに、どう考えてもおかしいです。あんな、借金を勧めるようなこと…。それに、ラクエンって名前にも聞き覚えは全然ないですし。」


「…結局、勝たなきゃいけないのか?」


「はい…ですが」


「分かってる。賞金は相手の借金返済に充てる、だよな?」


「はい!」


疑問を抱えつつも目的を再確認したところで、海の絵を映していたモニターが切り替わり、ラクエンが現れた。


「それでは、第1セットの準備が整いました。空チーム、カンザシ様、海チーム、ジェーン様。会場へお入りください。」


「…あいつを止めるためにも、フウチョウ達や他のフレンズのためにも、勝つぞ。」


「はい!行ってきます!」


2人は拳を突き合わせた。




会場。


「ジェーンさん、よろしくおねがいします!」


「こちらこそ、よろしくおねがいします!」


「それでは、第1セット、開始です。」


(まずは…)


ジェーンは、このゲームのルールを思い出していた。

陣取りゲーム。その名に反し、多くの陣を取ろうとすると負ける可能性が高まる。…いや、ある意味では正しいのかもしれない。しかし、勝つためにはなるべく多くの陣が必要になる。つまり…


(自分の領地で一番多く取れる所…「10マス目」!)


ジェーンがコインを並べていき、準備完了の意思表示をしようとしたところで、カンザシがそれを遮った。


「待ってください!」


「えっ?」


「ジェーンさん…聞いてください。このゲームには、『必勝法』があるんです。」


「必勝法!?」


おかしい。必勝法ならば、相手チームにどうして話す必要があるのか。


「どうして必勝法を私に聞いてほしいんですか?それだと必勝法じゃないんじゃ…」


「違うんです。私達同士じゃなくて…ラクエンに勝つための、このゲームを無駄にさせるための、必勝法なんです。」






たくさんのモニターが並ぶ部屋。それには旧アミューズメント施設の様々な場所が映っていた。


当然、ジェーンとカンザシが戦おうとしている「会場」も例外ではない。


「ラクエン、覚悟はしていましたが…完全に敵視されていますね。」


「そうですね。」


「このゲームで、我々に勝つ…そんなことが可能なんですか?」


「どうですかね。…もしかして、今してる『必勝法』の話のことを言ってますか?」


「ええ。」


「それはあるかどうかは分かりませんよ。ただ、空チームはしっかりと勝ちを狙ってますよ。私達からではなく、海チームから。ですが…」


「?」


ラクエンは、会場が映ったモニターから海チームの控室が映ったモニターに視線を移す。


「海チームも、なかなか侮れませんよ。」


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