陣取りゲーム
第7話 招待状
その封筒は、5人を凍り付かせた。
イワビーとジェーン、それぞれに宛てられたそれは、封を切らずとも容易に内容が想像できた。
「開けますよ…?」
「あぁ。」「うん。」
ジェーンは恐る恐る開封する。中には黒い便箋と…
「これは…」
それはPPPだけでなくフレンズにとって馴染みのない、数字の書かれた1枚の紙。
「一、十、百、千…万の次って何だったかしら?」
「億…?」
「1億?1億…ジャパリコイン!?」
「どういうことなの?」
あまりにも大きすぎる数字に5人は戸惑うしかなかった。
便箋と同封されたそれは、人間の使う「小切手」そのものだった。
「……。」
「と、とりあえず便箋の方、読んでみよーぜ?」
「そうですね…」
ジェーン様
この度はフルルーツゲームの勝利、おめでとうございます。
ジェーン様には、第2回戦への参加権利が与えられました。
つきましては、以下の詳細をご確認いただきますようお願い致します。
第2回戦
会場:○○○○
日時:○月○日 午前10時より
持ち物:同封の小切手(必須)
身の回り品は適宜必要なものをご持参ください。
ご注意
ご参加される場合は開始時刻に遅れることの無いようお願いいたします。
参加を拒否される場合、後日1億ジャパリコインの回収に伺います。なお、同封の小切手は会場にて押印の後有効となります。
当日は1度入場された後はゲーム終了まで退場いただくことができません。ご了承ください。
第2回戦の内容は当日会場にて発表いたします。
「2回戦…」
「やっぱり続くんだぁ…」
「しかもこれって、ほとんど強制じゃない!」
「ジェーン、イワビー、どうするんだ?流石に悪いイタズラだと思うし、付き合わなくていいんじゃないか?」
「…。」
確かに、これは明らかに異常だ。ジャパリまんなんかとは比べ物にならない。そもそも額も大きすぎる。ジャパリまんの様に貸し借りではなく、確実に負債になる。参加しないという選択を選ばせない1億という数字は既に二人の脳を支配していた。
「私は…」
「俺は行くぜ。」
「え?」
「俺は行く。行って、こんなふざけたことしてる奴にガツンと言ってやるんだ。」
「…」
「ジェーンは無理に来なくていい。1億の回収も無しにするように言ってやるから。」
イワビーの目は既に覚悟のそれだった。いや、正確には恐怖も混じってはいたが、燃えているのには変わりなかった。
「私は…私は…!」
第2回戦当日。
ジェーンは、これから悪夢が始まる場所に立っていた。
区画整理やスタッフの体制変更により、現在は使われていないアミューズメント施設。以前は賑わっていたのだろう。しかしそこはカラフルな電飾で彩られており、黒く塗られた窓と取り囲むように設置された立入禁止のフェンスも相まって不気味さだけを醸し出していた。
「…行きましょう。」
「行くか。」
重い扉を押し開け、施設の中へと入っていく2人。明かりはあるものの、それは足元を辛うじて照らせる程度の明るさだった。
「不気味ですね…。」
少し奥へ進むと、受付役と思われるフレンズが立っていた。仮面と帽子を着けており、誰なのかは一切分からない。
「お待ちしておりました、イワビー様、ジェーン様。」
「…」
「まずはこちらで小切手と今回必要になる賭けコインを交換いたします。」
小切手を渡すと、波が描かれた大きなケースを渡された。中には大量のコインが詰められている。
「そちらのコインは全部で500枚ございます。ゲーム終了後、その500枚は回収させていただきます。回収後に余ったコインは1枚につき20万ジャパリコインと交換いたします。」
「!?」
余剰分は交換してもらえる。と言うことは…
「もし、足りなかったら?」
「不足分は余剰分と同様、1枚につき20万ジャパリコインとして回収させていただきます。」
「っ…!」
予想はできたが言葉に詰まる。やはり正常じゃない。
できることならば今すぐ帰りたい。だが、目の前の案内役はそんな恐怖心などよそに淡々と説明を続ける。
「今回は長時間のゲームになります。終了までの間、こちらの会場の外に出ることはできません。食事や睡眠等の必要がある場合、飲食物、寝具等はこちらで準備させていただきます。御用の際は会場内に設置された電話にてお知らせください。」
「随分と用意が良いんだな?」
「…ゲームはこの扉の先で行われます。お進みください。」
「…」
返答がないことにやれやれと思いつつも、親切に開けられた扉をくぐる。
その先には、見知った顔が待っていた。
「カンザシちゃん!?それにカタカケちゃんも!」
「ジェーンさん!!イワビーさん!!お久しぶりです!」
「お久しぶりなの。」
この2人と会うのもフルルーツゲームぶりだ。
知ってる顔を見て多少安心した。フウチョウ達もそのようだった。
だが、和気あいあいとしたのもつかの間、入ってきた扉は閉じられ、施錠される。
そして、4人の前に設置されていたモニターに一人の仮面を付けたフレンズが映し出された。
「皆様、はじめまして。私は今後のゲームの進行を務めさせていただきます、『ラクエン』と申します。」
「『ラクエン』?」
「そんなフレンズいたか?」
「少なくとも私は知らないの。」
4人で顔を見合わせたが、誰も知らない名前だった。
「早速ですが、今回のゲームを発表させていただきます。今回、皆様に行なっていただくゲーム、それは…」
画面が切り替わり、ゲームの名前が大きく映し出される。
「『陣取りゲーム』です。」
「『陣取りゲーム』!?」
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