少しくらいのトラブル

三日目終了時点の状況

(5000ジャパリコイン=1袋)


アライグマ

5袋

フェネック

4袋



4日目。

この日は目的地が高山ということもあり、出発は日の出よりも早かった。


もしこの調子で遠くなっていったら、最終日は寝れないんじゃないか?


とは言え、頭が働かなくなっては意味がない。まだ勝つための準備は終わっていない。


「疲れたのだ…」


「なかなか着かないねー。」


もう日が昇ってからしばらくロープウェイのペダルをこぎ続けているが、一向に山頂は見えてこない。


「でもアライさん、山頂にはカフェがあるよ?」


「そうなのだ!フェネック!急ぐのだ!はやく美味しいお茶を飲みたいのだ!」


「焦らなくてもお茶は逃げたりしないよ。」


アライさんの足の動きがまた速くなった。




「ぐぅ、もう1歩も歩けないのだ…。」


「いやー、さすがに疲れたね~。」


日は既に頂点に達し、また傾き始めていた。


「フェネック、とりあえず取るもの取ってしまうのだ。そしてカフェで休むのだぁ…。」


「そうしよっか。」


疲れてはいるが、 まだ気は抜いていない。


「今日は、アライさんが黄色で私が赤と青だよね。」


「そうなのだ。」


今、箱の開け方は2つの日と1つの日を交互に回している。ただし、日数は初めの2日を除いて5日。このローテーションの1回目で1つしか開けられなければ、最終日の時点で相手より1つ少なくなる。


それを覆すために今日はやらなければいけないことがある。


「これでよし。」


うまくいった。アライさんにはバレていないようだ。


「それじゃあアライさん、カフェに行こうか。」


疲れもあり、長いことカフェでくつろいでしまった。日はもう大分傾いている。


「楽チンなのだ!」


「軽いねー。」


帰りのロープウェイはかなり楽だった。パークの、そのさらに先の水平線に沈む夕日に照らされながらペダルを漕いでいると、あっという間に降り口に着いていた。


その日はそれ以上、何もなかった。いつも通りご飯を食べ、いつも通り寝る支度を済ませた。


どうして急にこんなことになったのだろう。誰がこんなことをしているのだろう。アライさんが敵になるなんて。「いつも通り」がこんなに嬉しいなんて。


「フェネック?どこか痛いのだ?」


「えっ?」


いつの間にか、涙が流れていた。


「…今日の夕日が、綺麗だったのを思い出しただけだよ。」


「なら良かったのだ。確かにあの夕日は綺麗だったのだ。フェネックと一所に見られて良かったのだ!でも…」


「アライさん、明日はもっと遠い雪山だし、もう寝ようか。」


「…それもそうなのだ。おやすみなさい、なのだ。」


「おやすみなさい。」


そうだ。アライさんは敵じゃない。たまたま誰かのイタズラに巻き込まれただけなんだ。それに、もうすぐこれも終わる。


明日で、その準備が整う。


アライさんが眠ったのを確認して、フェネックは音を立てぬよう外へ出た。




向かったのはジャングルだ。これまでの目的地が遠かったせいで、かなり近くに感じる。


そこでは、1人のフレンズがフェネックを待っていた。


「あ、こっちっす!」


「お待たせ~。」


「いえいえ!そんな待ってないっすよ。あ、それで、これなんですけど。」


待っていたのはアメリカビーバーだ。傍らには、箱が3つ置かれている。


「おー、これはすごいね、バッチリだよ。」


「我ながら良い仕事ができたっす。」


「ありがとう。それで、場所は雪山なんだけど…。」


「ずいぶん遠いっすね…。いや、半端な仕事はできないっすね。わかったっす!」


「ごめんね。無理言っちゃって。お礼は何が良いかな?」


「いいんすよ、そんな。…でも、そうっすね。どうしてもって言うなら、理由を聞かせてほしいっす。」


「理由かぁ。」


「あ、もちろん今からじゃないっすよ?もう真っ暗ですし、また今度で。」


「分かった、今度話しに来るよ。」


アメリカビーバーは荷物を持って雪山の方向へ歩いていった。それを見送って、フェネックも帰路についた。




5日目。体が慣れてしまったのか、日が上る前に自然と目が覚めた。


「アライさーん、雪山はすごーく寒いよー。」


「分かってるのだ!アライさんはその辺バッチリなのだ!」


見ると、アライさんは既に厚着になっていた。


「いやー、今から着込むと汗をかいて雪山では余計に冷えるんじゃないかなー。」


「ぐぬぬ…確かにそうなのだ。」




最早、長距離・長時間の移動は慣れてしまった。気がつけば、雪山の麓まで来ていた。


「着いたのだ!」


「着いたねー。」


「でも、この手紙は本当に不親切なのだ。もうちょっと詳しい場所を書いて欲しいのだ。」


「確かに、雪山も広いからねー。」


と、相手のわからない愚痴を言っていると、山からキタキツネが下りてきた。


「あ!キタキツネ!丁度良いのだ!」


「えっ、それって丁度悪いやつじゃ…」


「赤とか青の箱を見なかったか?」


「あー、見た。ここから少し登った所の温泉で。」


「案内するのだ!」


「えぇ、やっぱり丁度悪いやつじゃん…」


「ダメだよアライさん。困ってるよ。」


「うう、確かに急だったのだ。ごめんなさいなのだ。」


キタキツネと別れ、山を登って温泉までたどり着いた。そこには確かに、3色の箱が置かれていた。


しかし…


「無いのだ!!封筒しか残ってないのだ!!」


「こっちも入ってないね。」


「どうしてなのだ!」


「うーん、今までは良かったけど、今回は誰かが持っていっちゃったのかなぁ。」


「それだとジャパリコインをいっぱい返さなきゃいけなくなるのだ…危機なのだ…。」


最終日には、誰かがこのゲームで使ったコイン全てを回収しに来る。誰かに持ち去られれば、それはそのまま負債となってしまう。


「一大事なのだ~!!!」




その後、解決策を考えている間に日が暮れてしまった。仕方がないのでその日は雪山の旅館に泊まることにした。


「うう、どうすれば良いのだ…。」


「やっぱり、回収に来た人に説明するしかないんじゃないかな。」


「アライさんもそれ以外思い浮かばないのだ…。もしもの時の『ぷらんびー』が欲しいのだ…。」


「もしもの時ねぇ。その時は2人で頑張って返そう?」


「うぅ、フェネックぅー!」


「よしよーし。」


アライさんは、いつも元気で引っ張ってくれる。大抵のことは許容できる。だからこそ、それを超えてしまうとどんどん悪い方へ考えてしまう。だから、私が守らなければ。




「そのために…。」


その夜も、アライさんが寝たのを確認してから寝床を抜け出した。


向かったのは、昼間の箱…ではない、『本物』の箱。


「上手く、いったかな?」


フェネックは赤と黄色の箱の中身を取り出し、寝床に戻った。











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