思惑

アライさんは気づいた。

このゲーム、早起きゲームという名前の理由に。

2日目、ジャングルに向かう前のこと。この日もアライさんは日の出とほぼ同時に目を覚ました。そのままフェネックを起こそうとしたが、どうしても気になることがあった。昨日開けた箱である。あれは今どうなっているのか。


その箱は、今日も昨日と同じ場所で、同じように置かれていた。回収はされないようだった。


つまりこのゲームで早起きをしてすることは、新しい箱を探すこともそうだが、過去の箱を利用することである。

要するに、最終日に自分だけがジャパリコインを手に入れることができる状況を作ればいいのだ。取り出しにはルールがあるが、箱に戻すことにはルールはない。


アライさんはどうしても勝ちたかった。最近どうもフェネックにからかわれているような、悪く言えば馬鹿にされているような気がする。この勝負で勝って、見返すつもりだった。


3日目、アライさんは動き出した。

起きてすぐ、1日目に手に入れたジャパリコインをすべて同じ1日目の青の箱にしまった。


「フェネック起きるのだ!図書館に行くのだ!」


「うーん、やっぱり早いねー、アライさん。」


目をこすりながら準備を済ませたフェネックの「行こうか。」を合図に出発した。


「そういえば、昨日フェネックは全部開けちゃったから今日は何も開けられないんじゃないか?」


「あぁ、それなんだけど、実はそれに気づいて昨日は黄色の箱だけ取り出してなかったんだ。だから今日は黄色の箱を取るから、アライさんは青と赤を取っていいよ。明日からも交互に開けていこうか。」


「なるほどなのだ。わかったのだ。」


3日目の今日、箱を一つしか開けられないということは、このまま交互に開けていけば最終日も開けられるのは一つだけ。つまり合計で52500ジャパリコインに届かずに、負けが確定する。それをフェネックから提案してくるとは。運がいい。


「それと、図書館での用が済んだらジャングルによっていいかな。昨日の分も取っておきたいからね。」


「それは大丈夫なのか?」


「ルールは昨日取り出した色だから、今日黄色をいくら開けても大丈夫なのさ。」


「気づかなかったのだ。フェネックはやっぱりすごいのだ!」


図書館についたころには、日は真上まで登っていた。


「何しに来たのですか。」


「博士、箱を見なかったか?赤と青と黄色の箱があるはずなのだ。」


「これのことですか?」


助手が陰から箱を持ってくる。


「まさにその箱だね。これ、開けたりしてないよね?」


「今朝急に現れた箱を不用意に開けるほど我々は単純ではないので。」


「ぐぬぬ…」


「これはお前たちのものなのですか?」


「そうなんだ。正確には中身に用があるんだけどね。」


「なら早く持っていくのです。」


「ありがとうなのだ!」


「ありがとねー。」


箱を受け取り、アライさんは青と赤、フェネックは黄色の箱を開けた。例のように、明日の箱の場所を示す便せんが入っていた。つぎは…。


「次はこうざんだね。」


「今日よりは近いのだ。」


今日は博士たちが保管しておいてくれたおかげで、完全に日が昇ってしまったもののちゃんと確保できた。明日はこうざん。鳥類の力を借りたいものだ。


「それじゃあアライさん、ジャングルに行こうか。博士、ありがとねー。」


「待つのだフェネック!」


フェネックはアライさんを振り返ることなく行ってしまった。


「…喧嘩でもしたのですか?」


「喧嘩はしてないのだ。でも最近あんな感じでよくからかわれるのだ。」


「そうですか。追いかけなくていいのですか?」


「いや、ちょうどいいのだ。ちょっとお願いがあるのだ。」




アライさんが追いかけてこないことに気が付いたのはジャングルに着いたころだった。


「ちょっとやりすぎちゃったかなー。」


しかし、どこかですぐに来るだろうという確信があった。追いついた時になんて言おうか考えながら歩いていたら箱の前に着いていた。黄色の箱の中身を回収する。


既に空は茜色に染まっていたが、フェネックは箱の前でアライさんを待つことにした。しかしよくできた箱だ。この箱を準備したのは一体誰なのだろうか。普通に考えればスタッフだろう。もしアニマルガールで準備できる者がいるとするならば…


「あれ?珍しいっすね。フェネックさん一人っすか?」


「アメリカビーバー。ちょっと置いてきちゃってね。」


「…喧嘩でもしたっすか?」


「喧嘩はしてないけどね。ちょっとからかうつもりだったんだー。」


「そうだったんすね。安心したっす。」


やっぱり常に一緒にいるイメージなのだろうか。うれしくてむず痒い。


「あ、そうだ。アメリカビーバーにちょうど頼みたいことがあってね。」


「頼みっすか?」




結局、アライさんが追いついたのは日が沈んでしまってからだった。


「ようやく追いついたのだ。じゃんぐるは広すぎるのだ。」


「ごめんねアライさん。ついてきてると思って後ろを確認してなかっだんだ。」


「こっちこそごめんなさいなのだ。」


「?」


「フェネックなら待っててくれると思ってあまり急がなかったのだ。そしたらじゃんぐるの中で迷って日が暮れちゃったのだ。」


「そうだったんだ。じゃあ、もう暗いし帰ろうか。」


「そうするのだ。」


その夜、フェネックはアライさんに気づかれぬよう、1日目の黄色の箱にジャパリコインを隠すことにした。

最終日に開ける色もこの黄色。そしてあとは最終日にアライさんが箱を開けられない状況を作り出せば、少なくとも勝ちは確定する。そのための準備も整いつつある。


「うまく騙せるかなー。」




時は少し戻り、フェネックとアライさんが去った後の図書館。


「これでいいのですか?」


「ええ。博士、ミミちゃん助手、ありがとうございます。」


「まったく、少し理解に苦しむのです。なぜあの二人なのですか?」


「あの二人は大胆で、繊細で、どうしてもメンバーに加えたかったんです。」


「報酬をもらえる以上は協力してやるのです。」


「はい。まだまだ長くなるかもしれませんが、よろしくお願いします。」

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