アラフェネの嘘

早起きゲーム

さばんなのとある場所。


「フェネック?どこにいるのだ?」


まだ日が昇ったばかりだが、元気な声が響いてくる。寝起きだがイライラしない。むしろちょっと安心する。


「うーん、アライさん早いねぇ、今起きたよ。」


「当たり前なのだ!早起きは…えっと…何とかもんの得なのだ!」


「それじゃあ何が得なのかわからないよ」


「ぐぬぬ…えっと…あ!分かったのだ!ポ」


「駄目だよアライさん。それを言うなら『三文』じゃないかな。」


「そう!それなのだ!ってそんなことはどうでもいいのだ!」


「どうでも?」


「とりあえず外に来てほしいのだ!見てほしいものがあるのだ!」


そういわれ半ば強引に引っ張られていく。その先には赤、青、黄の三色の箱と、二通の手紙。手紙にはそれぞれ「アライグマ様」、「フェネック様」と書かれている。


「アライさん、これいつからあったかわかる?」


「わからないのだ。でも朝起きた時にはもうあったのだ。」


「そっかー。」


フェネック様と書かれた封筒を手に取る。




フェネック様

あなたはゲームへの参加権を獲得いたしました。

第一回として行っていただくゲームは「早起きゲーム」になります。


~ルール~

このゲームは1対1の対戦形式で行います。

ジャパリパーク内に1日ひとつずつ、計7日間、この手紙とともに置かれた箱を設置いたします。

箱の中身は5000ジャパリコインです。どの箱を開けていただいてもかまいませんが、前日に中身を取り出した箱と同じ色の箱を開けることはできません。また、ジャパリコインは袋に入った状態のまま取り出し、保管してください。一つの袋につき5000ジャパリコインが上限となります。

最終日に担当の者が5000×3個×7日÷2、計52500ジャパリコインの回収に伺います。その時点で指定の袋に入っていないジャパリコインおよび箱に残ったジャパリコインは無効となり、無条件で回収させていただきます。

返却数が52500ジャパリコインに満たない場合、自費による返却をしていただきます。52500を超える場合は、余剰分を賞金として贈呈いたします。


ルールは以上です。

あなたの対戦相手はアライグマ様となります。

また、参加権は放棄することが可能ですが、箱の開封をもって参加の意思表明とさせていただき、以降の棄権には52500ジャパリコインの支払いを命じます。


52500ジャパリコイン。物価を考えると相当な金額である。何か価値を付けられるような特技を持ったアニマルガール…、それこそアメリカビーバーなんかが家でも作ればあっという間かもしれない。しかし、需要に対して供給できる能力がないものには大変大きな数字だ。


「アライさん、やってしまったねー。」


「どうかしたのか?」


見ると、アライさんは既に全ての箱を開け、中身を取り出していた。


「手紙は読んだ?」


「手紙?なんのことなのだ?それよりすごいのだ!ジャパリコインがいっぱいなのだ!」


「流石だよアライさん。でも、知らない箱を勝手に開けるのはよくないよ。」


アライさん宛ての封筒を手に取り、読ませることにした。


「どういう、ことなのだ…?」


抱えられていたジャパリコインが入った袋は既に地面に横たわっていた。


「ちょっと厄介なことに巻き込まれたみたいだねー。そしてアライさんはもう抜け出せないのさ。」


「危機なのだ…。」


「危機だねー。」


箱は7日間で3個ずつ、計21箱。中身は二等分できるが、袋は等分できない。その時点でどちらか片方が確実に負債を抱えることになるが…。


「アライさんに付き合うよ。」


「…フェネック?」


アライさんの目は既に少しうるんでいた。


「でも、今日はアライさんが全部取っちゃったから、明日は私がもらうね?」


「フェネック、ありがとうなのだ…。」


とりあえず赤い箱を開ける。当然中身は入っていないが、そもそも取り出す必要もない。


「いったい誰がこんなことしたんだろうね。」


「わからないのだ。でも、いつもみたいに早起きして散歩してたらあれを見つけたのだ。」


「明日はじゃんぐるの方に置かれるみたいだねぇ。」


封筒にはルールの紙とは別に次の箱の場所を示す紙が入っていた。


「道案内は任せるのだ!」


「期待してるよ。」


初めは引き分けというか、最低額の2500ジャパリコインの負債で済ませるつもりだった。だが、場合によっては全額、52500ジャパリコインの利益を得る方法もないわけではない。もしアライさんが仕掛けてきたら、こちらもルールにのっとって戦うのも悪くないかもしれない。からかってみるのもちょっと楽しそうだ。そんな気持ちが芽生え始めていた。




「フェネック起きるのだ!」


2日目。

相変わらずアライさんの朝は早い。


「早くしないと誰かに取られちゃうのだ!」


「そんなに焦らなくても、あんなに怪しい箱を勝手に開けちゃうのはアライさんくらいだよ。」


「フェネック…。」


目に見えてしょんぼりしている。そこがいいところなのだが。


「さ、行こうか。」


じゃんぐるに着くと、何やら人だかりができていた。コンゴウインコがこちらに気づいたようで、振り返る。


「アライさんにフェネック、今日はじゃんぐるに探し物?」


「そうなんだ。箱を探しててね。」


「箱ってもしかしてあれのことかな?」


コンゴウインコの指す先には、昨日のと同じ3色の箱。


「あれなのだ!間違いないのだ!道を開けるのだー!」


アライさんがずかずかとアニマルガールたちをかき分けて箱の方へと向かっていく。


「コンゴウインコ、ありがとねー。アライさーん、そんなに急いでもその箱は私しか開けられないよー。」


あまり深くは考えていなかったが、確かにアライさんの言う通りだ。自分やアライさんよりも先に、誰かが箱を見つけて中身を持ち去ってしまうかもしれない。今日はたまたまジャングルで、移動にはそれほど時間はかからなかった。だが、雪山や砂漠ともなれば。だから「早起きゲーム」なんて名前なのか。


箱の中には例のようにジャパリコインの入った袋と、黒い便せんが入っていた。…全部の箱に。本当に誰が準備しているのだろうか。


「次はどこなのだ?」


アライさんが便せんをのぞき込んでくる。


「次は…」


案の定、嫌な想像は現実となった。


「『図書館』」


「だってー。」


「なのだ?」


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