第4話 恨みの一撃

「第5ゲーム目、開始なのです。」

助手は淡々と仕事をこなしていく。

「どうして…。」

「リンゴとメロン…。イワビーとプリンセスだな。説明してくれないか?」

「よくそんなこと言えるわね。二度も嵌めておいて。」

「そうだぜ、オレらは確かにリンゴとメロンに投票した。でもそうなってないのはどうしてだ?」

「まさか、私がやったって言いたいのか!?イワビーはまだしも、プリンセスよりも後に投票したはずだ!」

「そうね。でも、もうあなたとフルルが組んでいることは知ってるのよ。」

「どういうことですか?組んでも賞品は独り占めですし、良いことないんじゃ…。」

「きっと特製じゃない、普通のジャパリまんを回してとでもいったんでしょう?」

コウテイの表情は一切動かない。

「もし組んでないというなら、次の投票、しっかりバラバラにしなさい?」

そう言ってプリンセスは投票室に消えていった。

「本当に、二人とも組んでいるんですか?」

「それを次の投票で確かめるんだろう?私もその結果を見てもらうほうが早いと思う。」

投票室から出てきたプリンセスは、歪んだ笑みを浮かべていた。

「……プッ、アハハハハハ、アハハハハハハハハアハハハハハハハ!」

「お、おい!どうしちまったんだよ!」

「フフッ…ああ、ごめんなさい、私はリンゴに入れたわ。ただ…。」

「どうか、したんですか?」

「ただ、気が変わってね。コウテイかフルルのパイナップルまで入れてきちゃった。」

「『!?』」

イワビーが投票室へ駆け込む。そして、出てきた彼女の顔は青くなっていた。

「確かに、パイナップルが投票されてる…。」

どういうことだ?どうやったんだ?

コウテイはポケットに自分のスタンプが入っているか確認した。ある。

「私のスタンプはここにある!投票なんてできないはずだ!」

「タネを教えてあげてもいいけど、あなたは知ってるはずよ、コウテイ?」

違う。私がやったのはもっと簡単なものだ。練習で配られたあのカード。それを使った。練習の時は全員分のスタンプが投票室にあったからそれができた。だが、プリンセスのそれは不可能だ。練習の時にパイナップルは使われていない。

「どうしよう、コウテイ。」

「フルル、プリンセスの言うことは嘘だ。」

「でも…」

「いいんだ。不安かもしれないが、普通にかぶらないように投票してこればいい。わたしが先に行ってくるよ。フルルは、そうだな…、投票しないで出てきてくれないか?」

「どうして?」

「それでプリンセスの言うことが本当かどうか確かめられる。」

自分でも大丈夫と言い聞かせるが、不安はぬぐい切れない。

言ったとおり、コウテイの後に入ったフルルはすぐに出てきた。

ジェーンとイワビーも、ごめん、と軽く頭を下げて投票室へ入っていった。

彼女らも投票を済ませたが、投票時間は終わらなかった。やっぱりだ。

「考えたわね。」

「気にするなフルル。普通に投票して来ればいい。」

「うん。」

フルルが投票室へ入っていくのを見計らったようにプリンセスが口を開く。

「でも私が入れたのはコウテイ、あなたのカードよ。ゲームが終わってないんだから、気づいているでしょう?」

「…嘘だな。」

「まだわからないの?ま、フルルが出てきたら分かることだわ。」

ちょうどその時、フルルが投票室から出てくる。

「…確かに分かったな。嘘だってことが。」

プリンセスは助手のほうを振り返るが、結果を発表するそぶりはない。

「私はまだ投票してない。それだけさ。」

そう言い残し、投票室へ向かった。


「…とは言ったものの、フルルが投票してしまったかもしれないな。」

コウテイはパイナップルの枚数を確かめる。8枚。

フルルが投票していたとして、まさかプリンセスは本当にパイナップルを投票したのか?だとしたらフルルが投票された。フルルがここで大幅な減点はまずい。そうなってしまえば、契約はなかったことになる。

だが、待て。もう一つ可能性がある。ここにはないだけで、プリンセスはパイナップルを投票していない可能性だ。

「どちらにせよ、フルルは…。」


「結果を発表するのです。」

コウテイが投票室から出てくると、すぐに助手が投票時間終了を告げた。


バナナ    1

リンゴ    1

メロン    1

モモ     1

イチゴ    0

パイナップル 1


「!?、嘘だ!私もパイナップルに入れた!」

コウテイが声を荒らげる。

「結果は最後まで聞くのです。今回は一人だけがパイナップルだったのです。それは…」

「コウテイ、ごめんね…」

「…。」

最悪だ。嵌められた。プリンセスが投票したのはフルルのパイナップル以外のカードだ。つまり、ペナルティは…。

「…コウテイなのです。」


A 3

B -10

C 3

D 3

E -8


「フフッ、コウテイ、あなたって…あなたって本ッ当に、おバカよねぇー!」

「プリンセスゥ!!!!」

「説明してあげるわ!簡単な話、あなたはフルルを信じられなかったのよ!どうせ投票室でパイナップルの枚数でも見たんでしょう?どうだった?減ってたでしょう?でもね…ここにあるのよぉ!!!」

二枚のカードをコウテイの足に投げつけた。

「うぅあああああああああ!!」

コウテイはカードを見て、膝をついてうなだれた。

「…私はもとから、自分以外のカードは投票してないのよ。フルルはあなたを信じて、パイナップルじゃないカードを入れた。でもあなたは疑ってしまった。」

「…なぜだ。私をつぶしても意味はないのは気づいていただろう?それなら仕掛けるのは逆でもよかったはずだ。そうすればチームは崩れる。」

コウテイを見下ろす彼女の顔は、冷酷だった。

「はじめはそのつもりだったわ。でも、私はどうしても復讐がしたかった。それに、このやり方ならどの道チームは崩れる。」

たとえフルルであれ、この状況でチームを続けるのは厳しいと気づくだろう。フルルはすでに、ジェーンの隣に陣取っている。

完璧にプリンセスに乗せられてしまった。挙句、契約もなしになった。完敗だ。

コウテイはしばらくそのままうつむいていた。

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