第3話 安全策

3ゲーム目開始直後、イワビーは投票室へ向かった。

「パイナップルをあるだけ出してくれ。」

「わかりました。」

カタカケフウチョウは箱からパイナップルのカードをすべて取り出した。イワビーはそれを受け取ると、数え始めた。

(…8、9、10。ちゃんと5枚投票されてる。やっぱりやりやがったか、コウテイ!)

「ありがとう、戻してくれ。それと…」




しばらくして、イワビーが投票室から出てきた。ジェーンが駆け寄る。

「どうかしたんですか?」

「いや、さっきの投票を見てたんだ。プリンセスは確かにパイナップルに投票してた。でも結果はバナナ。…自分のスタンプ、ちゃんと自分で持っとけよ?」

「はい。やっぱり投票が見えるんですね、イワビーさん。」

「簡単だよ。…それより、オレは今回の投票でもう一回パイナップルに投票してみたいんだ。」

「でも、そしたらまたさっきみたいに…」

「オレはさっきの投票も、全部コウテイが仕組んだと思ってる。ただ、確証がないんだ。」

「だったらなおさら、パイナップルに投票する必要はないですよ?わざわざ危険を冒さなくても、投票が見えるなら出方に合わせればいいだけじゃないですか?」

「…そう簡単じゃないんだよ。」

イワビーはゆっくりと、隅でうずくまっているプリンセスの元へと向かった。


1ゲーム目同様、全員がばらけており、会話など一切なかった。流れる空気は1ゲーム目よりも確実に重苦しかった。プリンセスを嵌めた者が、この中にいて、次の獲物として自分を狙っているかもしれない。

(イワビー…投票が見えているのだとしたら、もうバレているのかもな。一か八かの賭けも失敗した。初めから彼女を狙っておけばよかった。だけど、今この場で一番怪しまれているのは間違いなく私だ。うかつには動けないな…。)

「みなさん!聞いてもらえますか?」

部屋の中央で静寂を破ったのはジェーンだった。

「もう一度集まって、今度はちゃんとみんなで誰が何を投票するか決めませんか?」

(それはもう意味ないだろう…。)

「私に、考えがあるんです。」

みな、とりあえずジェーンに注目した。ジェーンもそれを確認してしゃべり始める。

「一回投票するごとに、イワビーさんに投票を確認してもらえばいいと思います。」

「それじゃあイワビーが反則で減点されちゃうんじゃ…。」

「フルルの言うとおりだ。現実的じゃないな。」

「いえ、反則にはなりません。禁止されたのは投票したプレイヤーの入室なので、イワビーさんには最後まで投票しないでもらいます。」

「あ、そっかー。…じゃあ、私はそれでいいかなー。」

「待ちなさい、ジェーン。それじゃあ意味がないわ。さっきの結果を見ていなかったわけではないでしょう?私は確かにパイナップルに投票したけど、結果は違った。それはあなたがイワビーの透視を信じるなら分かるわよね?」

「はい…。」

「つまり、私が投票するより前に誰かがどうにかして私の名前で投票したのよ!そしてそれができたのはコウテイとイワビー、それから…、ジェーン、あなたよ。」

「そんな…」

「いい加減気づきなさい。これはただのゲームじゃない。嘘つきのゲームよ。」

そうだ。嘘をついてはいけないなんてルールは存在しない。

「…じゃあ、プリンセスさんは何か案があるんですか?」

「それは…、何を目指すための案が欲しいの?残念ながら全員が勝つ方法なんてないわよ。」

「その聞き方だと、誰かが勝つ方法はあるみたいだな。」

「もったいぶらないでオレらにも教えてくれよ。」

「コウテイ、イワビー…言ったでしょう?あなた達は私を嵌めた犯人かもしれない。それもはっきりしてないのに、言うわけにはいかない。それに、誰か一人を勝たせることができる方法なら、私が優勝するように動いてもらうわよ。」

「それじゃあ、私たちはジャパリまんを食べられないの?」

「フルル、どうしても勝ちたいなら、投票した後に何に入れたか宣告しなさい?」

それにいれた、と言われてわざわざかぶせに行くのは自滅行為だ。また、宣告する側も勝ちたいならば真実を宣告しなければいけない。仮に嘘をついてしまえば、誤爆する可能性が高まる。

「ジェーンも、イワビーに見てもらうよりもそのほうが早いわよ。」

「じゃあ、それでもいいです…。とりあえず、もう時間もないですし。」

「私から行くぞ?」

「待ちなさい。」

プリンセスがコウテイの腕をつかむ。

「あなたは私の後よ。」

そう言ってプリンセスが先に投票室へと入っていった。そして、出てくると「イチゴに入れたわ。」と言い残し、モニターの前でカンザシフウチョウが用意してくれたであろう椅子に座り込んだ。

その後も、コウテイ、フルル、イワビーと続いた。

「コウテイがモモでフルルがバナナ…ちゃんと投票されてるな。じゃあオレはリンゴだな。」

投票を済ませ、投票室を出ると不安な面持ちのジェーンが待っていた。

「ジェーン…安心しろって。大丈夫だよ。」

「でも、私、マイナスにいるのがすごく怖くて…。」

「みんな宣言通りに入れてる。俺もリンゴに入れた。あとはジェーンがメロンに入れるだけだよ。そしたら、マイナスから脱出できる。」

「…そうですよね。ありがとうございます。いってきます。」

おう、とジェーンの背中をポンと押してやった。

ジェーンが投票室から出ると、程なくして結果が発表された。


バナナ    1

リンゴ    1

メロン    1

モモ     1

イチゴ    1

パイナップル 0


A 1

B 1

C 3

D 3

E -8


「やった!」

「言ったろ?大丈夫だって。」

「良かったわね、揃って。」

「でもプリンセスがまだマイナスだよ?」

「わたしはみんながつぶし合ってくれないと勝てないもの。それだったらこのままこれを続けてマイナス脱出でいいわよ。」

このまま+2を続ければ、勝ち負けは抜きにしてあと4ゲームで借金はチャラだ。

「それでは、第4ゲームを開始するのです。」

助手が砂時計をひっくり返す。

フルルはそれを眺めていて、その光景に違和感を覚えるのだった。


「それじゃあ、もう一回これでお願いします!」

「もう終わったも同然だな!」

やればできると分かったせいか、先ほどよりも空気が和らいだ。

また先ほどと同じように、各々が投票したものを宣言していく。

「バナナに入れたよー。」

「リンゴに入れたわ。」

「イチゴに入れた。」

「メロンに入れたぜ!さ、ジェーンの番だぜ。」

「はい!」

今回の投票は5分とかからなかった。これであと6ゲーム。今日中に帰れそうだ。


…と、簡単にいくほどこのゲームは単純ではなかった。

「結果を発表するのです。」


バナナ    2

リンゴ    0

メロン    0

モモ     1

イチゴ    2

パイナップル 0


A 2

B 0

C 2

D 2

E -9

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