第2話 初動
1ゲーム目がスタートしてからしばらくは、誰も動くことができなかった。砂時計はすでに半分以上の砂を流している。開始直後、皆で相談し、最終的にはコウテイの発案したそれぞれ別のカードを投票する方法をとることになった。パイナップルを使わずとも、全員がバラバラならば+2ポイントで、最終ゲームまで続ければ少なくとも借金はなくなる。今一人だけプラスのDが優勝することについては、運がよかった、ということであとは触れなかった。
触れなかっただけである。だからこそ、やることが明白でもここまで誰も動けないでいた。
「特製ジャパリまん…。」
フルルはどうしても優勝したかった。賞品のプレイヤー間でのやり取りが禁止された以上、何としてでも優勝しなければならない。
必死に考えたが、どうしても勝ちの目が見えない。このゲームは、自分から仕掛けても絶対得をしないのだ。基本的には全員で決めてしまえばそこでゲームは終わり。今からDを落とす方法など考えられなかった。
「フルル、今回投票してほしいカードを伝えに来た。」
そんな折、現れたのはコウテイだった。
「今回はモモに投票してくれ。」
「わかったー。」
ここで気が付いた。なぜコウテイがこのやり方を提案したのか。なぜ自らみんなの投票を管理したがるのか。
「それと、頼みがあるんだ。」
「なにー?」
コウテイがDなんだ。だから、このまま全員が得点を重ねるというこのゲームのある種の必勝法を実行したかった。
「実は…ここからDに勝つ方法を思いついたんだ。」
「えっ?」
コウテイの口から出たのはまるで逆の言葉だった。
コウテイはその後、一人一人に今回出すカードを伝えていた。どうやらフルルのところに来たのは1番だったらしい。
…そんな手があったとは。
「時間がないな…、もう投票しようぜ?」
「そうだな。みんなも投票を済ませてくれ。」
最後に投票を伝えたイワビーとコウテイが先陣を切った。
そのあとにフルル、ジェーン、プリンセスと続いた。
1ゲーム目、投票は無事時間内に終えられた。
「それでは、結果を発表するのです。」
コウテイの作戦は、一人では実現できないものだった。
「今回の投票、私は誰か一人にかぶせて投票しようと思ってる。」
「そんなことしたら…」
「いいんだ。それで、Dのポイントが減れば特定できる。」
確かに特定はできるだろう。しかし
「一回で当てられないとどんどんポイントが減っていくよ?」
「大丈夫。そのために提案したんだ。勝つのは私じゃない。フルルだ。」
願ってもない話だ。勝たせてもらえるなら乗らない手はない。
「でも、私が勝ってもコウテイには渡せないよ?」
「禁止されてるのは特製ジャパリまんだけだろう?私には普通のを分けてくれればいいさ。」
何やら胡散臭いが、とりあえず乗ってみることにした。まだ1ゲーム目だ。それに、私がペナルティを受けるわけでもない。
「そうだな…、最初はジェーンと同じのを投票するよ。」
「結果はこうなったのです。」
作戦通りならどれか一つだけが2。それで、マイナスになったどちらかがジェーンだ。
しかし、そうはならなかった。
バナナ 1
リンゴ 0
メロン 3
モモ 1
イチゴ 0
パイナップル 0
A -2
B -2
C 0
D 0
E 0
Dのポイントは減ったが
「どうして…。」
かぶった数は3。これでは、誰がDなのか手掛かりが全くない。
「それでは、第2ゲームを開始するのです。」
「コウテイ!どうなってんだよ!?」
「そうですよ!みんなバラバラじゃなかったんですか!?」
「待ってくれ、私は間違いなくバラバラに伝えたぞ!」
「でもかぶってるじゃねーか!」
「今プラスになったのってCとEだけよね、そのどっちかがコウテイ、あなたなんでしょ!」
囲まれて糾弾されるコウテイ。まくしたてられる中、ゆっくりと口を開いた。
「聞いてくれ。今のはDを一人勝ちさせないための作戦だったんだ。」
「どういうことよ!」
「私は初めから、誰かと投票をかぶせるつもりだったんだ。それでDのポイントが減れば当たり、ダメでも候補が絞れる。」
「騙したってことか!それに、結局何もわからなかったじゃねーか!」
「それなんだ。今回、Dは自分から投票をかぶせて、手掛かりをつぶしてきた。気づかれたんだ。」
「そんな…」
「でも、目標の半分、Dのポイントを減らすのは達成できた。あとは…。」
そう言ってコウテイは投票室へ駆け込んだ。
「おい待てっ!…開き直りやがって。」
少しして、コウテイが投票室から出てくる。
「みんな、私は今パイナップルを投票してきた。もう1ゲームだけ私に付き合ってくれ!」
「『えぇ―!?』」
「どうしてそうなるんですか!」
「そうよ!説明して!」
もう一度問いただそうとするジェーンとプリンセスを横目に、イワビーは投票所へ歩き始める。
「イワビー、どうするの?」
フルルの問いかけに、イワビーはやさしく笑って答えた。
「オレにはコウテイが何に投票したかわかるんだ。それを見てくるよ。」
そう言って投票室に入っていった。
投票が見える?そんなことがあるのか。そんなことが可能なら、もう勝ったも同然だろう。
やがて投票室から出てくる。
「聞いてくれ!方法は言えないが、オレには投票が見えるんだ!それで、コウテイは確かにパイナップルに投票してた!俺も今パイナップルに投票してきたぜ!」
皆がその発言のすべてに驚かされる。
「投票が見える?どういうことですか?」
「だから、詳しいことは言えないんだけどよ、見えるんだ。」
言葉は曖昧だが、そこには妙な説得力があり、それ以上問うことは誰もしなかった。
「…じゃあ、そこまで言うなら私も投票してきますね。」
「…私もいくわ。」
「仕方ないね。」
ジェーンたちも投票室へ向かった。
「…それで、1ゲーム目でも聞いたが、投票が見えるってどういうことなんだ?」
「…半分ハッタリだよ。でも半分は事実だ。」
「半分?それって…」
パイナップルを投票するだけなのだ。そこまで時間はかからなかった。
「全員の投票を確認したのです。これから結果を発表するのです。」
「…オレには投票が見えることより、お前のほうがよっぽど恐ろしいよ。」
そう言い残し、イワビーはモニターの前へ行ってしまった。
「結果はこうなったのです。」
バナナ 1
リンゴ 0
メロン 0
モモ 0
イチゴ 0
パイナップル 4
全員に衝撃が走った。後ろで見ていたカンザシフウチョウさえも驚いた表情をしている。
「今回、一人だけパイナップルを投票しなかったプレイヤーがいるのです。それは…」
固唾をのむ。自分ではない誰かが投票したと、全員がそう思っていた。
「プリンセスなのです。」
A -1
B -1
C 1
D 1
E -10
プリンセスの顔がゆがむ。
「どうして!?私は確かにパイナップルに投票したわ!」
「プリンセスはバナナに投票しているのです。間違いないのです。我々は『ディーラー』なので。」
「どうしてよぉぉお!!!!」
怒号ともとれる叫びが反響する。プリンセスはそのままその場にうずくまってしまった。
「それでは、第3ゲームを開始するのです。」
無情にも、砂時計は再びその砂を落とし始めた。
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