第5話 気配2

 鍵を開ける音がしたとたん、じりじりと嫌な雰囲気になった気がして言葉も無く玄関を見つめる。扉を隔ててがいるが、だからと言ってそれは意味のない事だ。


 ぎぃっと軋んだ音がして、玄関扉が開く。


「―――っひ!」


 息継ぎを忘れたかのように、呼吸が苦しくなり、早鐘を打つかのように心臓が煩く鳴り響く。


「ただいまぁ」

「いやあああああああ!!」


 声がしたと同時に、耐え切れずに叫び声をあげてしまった。


「えっどうしたの!?」

「何があった!!」


 叫び声に驚いて玄関から急いで部屋に入ってきたのは、予想していた恐ろしい存在ではなく両親だった。何も知らず我が家に帰ってきた二人にしたら、叫び声を上げる娘の行動に意味が分からずとにかく落ち着かせようとオロオロする。頭を抱え込んで縮こまり、泣きそうになっている娘に困惑するしかない両親に、パニックに陥っている状態では説明どころか言葉すら出てこない。


「お・・落ち着いて、大丈夫、大丈夫だから!」


 分からないながらも、背中をさすってくれる母親の手の温もりに、ほっと息を付けたのは数分してからだった。


「いきなり、叫んでゴメン・・・・」

「本当、びっくりしたわ」


 やっと落ち着いた娘に、両親もほっと胸を撫で下ろす。

 叫んだ理由をしきりに聞いてくるが、何と説明したものか困ってしまう。

 とにかくドアを叩く音に驚いたのと、隣の太平さんから聞いた話をすると呆れたような、苦笑するみたいな顏で「驚かさないで」と母親に窘められてしまった。


「でも・・・お母さんだって私と同じことがあったら絶対に叫んでる!」

「もう、何かと思えば幽霊何かいるわけないでしょ。怖がりなんだから」


 扉の叩く音はきっと風の音か、誰かの悪戯だろうと本気にして貰えなかった。

 本当にそうだったら、どれだか良いか。

 扉を叩く音がして、両親が戻ってくるまでの間に、そんな素早く身を隠せるとはとても思えないが。考えたくなくて、母のいう事に頷いておく事にした。信じて貰えないのに、いくら話した所で無駄だというのも理由ではあったが。


 引っ越してから間もないのに、早く父親の転勤が決まれば良いのにとその日の夜は恐怖で一杯ながらも無理やり寝る事にした

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