第4話 気配

 お風呂から上がって、テレビを見ていると廊下が少し騒がしい気がして、玄関の方へ視線を移した。 テレビの音量を下げると、パタパタと誰かが廊下を走る音が聞こえる。


「こんな時間に、誰だろ?」


 時計を見ると、午後9時前くらいだ。

 暫く何度も往復して走るその足音に、子供の悪戯みたいだと思って顔を顰めた。


「子供・・・?」


 常識的に考えて、子供が外で遊ぶような時間ではない。そもそも、今日お隣の人が子供は殆ど居ないと言ってい事を思い出して、気味が悪くなってきて鳥肌が立った。

 窓を開けっ放しにしているが、それを閉めるために動く事すら怖くて、固まってしまう。


――ドンドン!!


「ひぃっ!?」


 急にドアが叩かれる音がして、変な声が出てしまった。

 ドアを叩かれているのは、自分の部屋じゃないらしい。

 規則的に何度も叩くと暫く何も音がしなくなるが、今度は違う部屋のドアが叩かれている音が響く。


「・・・」


 怖くて声も出せず、カーテンがはためくその様子すら不気味で、足が鉛のように重い。

 さっきまで部屋の中が熱くてだれていたのに、まるでクーラーで冷やされたかのように寒気すらする。


――ドンッドン!


 誰も居ないのが気に入らないかのように、今度聞こえた音は苛立ちをぶつけたような叩き方をしている音が響いた。


「嘘、隣の部屋?」


 どうやら音は、借りているマンションの左隣の部屋のドアを叩いてる音らしい。確か大平さんの部屋は、右隣だ。


「大平さんが引越しする理由って・・・まさか」


 嫌な考えに至って、無理やりテレビの方へ意識を集中しようとする。

 もしかしたら、自分が知らなかっただけで、毎日このドアを叩く音が響いていたのかもしれない。

 いつもこの時間は、母がいてテレビがついていて、談笑したり食べた後の食器を洗う音が響いている。

 ドアが叩かれるくらいじゃ、気が付かない程度には煩い。


「・・・・もぅ、やだぁ!」


 怖くて耳を塞ぐと、まるでそれを見越したかのように音がやんだ。

 暫くジッと身を潜めるように静かにしていると、明らかに自分の居る部屋のドアが叩かれる音がした。


「―――っう!?」


 悲鳴にもならない言葉が出て、叫びたくなるのを堪える為に両手で口を覆い息を止めてドアを見る。

 ドキドキと、煩いくらいに心臓が早鐘を打つ。

 数度叩く音がしたあと、何と鍵が開く音がした。

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