指先

柏木 蒼

第1話

私はいつも、彼女の細くて白い繊細そうな指先に見惚れていた。

ピアノを習っていたという彼女の指は長く、整えられた爪の先まで美しい。

大人しそうな見た目で美人というわけでも無いが、ふとした瞬間ハッとするような美しさを持っていた。

そして私は、柔和な雰囲気の彼女の側にいるのが好きだった。


そう、私は彼女が好きだったのだ。


彼女はとても気遣いが出来る人だった、良く学校で男子から告白をされては断っていた。

誰かが付き合わないのかと聞けば、困ったように微笑んでいたのを覚えている。


卒業式間近になるとクラスで担任やクラスメイトに贈る色紙を書く事が増えた。

私はペンを握って色紙を書く彼女の指先に、小さな傷跡を見つけた。

理由を問えば、料理の練習中に包丁で切ってしまったのだそうだ。

高校卒業後は一人暮らしをしながら大学に通うのだと聞いていた私は、それ以上の疑問も質問も浮かばなかった。


でも今ならそれが、ただ料理をしてついた傷跡では無いことが分かる。


だってそうだろう、ウェディングドレスを着てこんなにも美しい笑顔を浮かべる幸せそうな彼女を見れば。


あぁ、貴女の隣に居る男が羨ましい。


こんなにも貴女を好きだった私は、ずっと心の中で思い続けるのだ。


「お幸せに」


私は今日、失恋をした。

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指先 柏木 蒼 @kasiwagiaoi

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