第5話

 「まずバク宙にかぎらず宙返りってものはね、できるだけ上方向にジャンプするようにして飛んだときの最高到達点で回転することを意識するのよ!!」


とりあえず当たり前のことだけを言って部長に補助をさせやらせてみることにする。


パンパンパンパンっ


「もっと上に!」


思った通りバク転で手を着かないようにしているだけってかんじになっている生徒ばかりだった。まあこれは想定内・・・・・・というか毎年のことなので問題ないのだが問題なのはこれからだろうなぁ・・・・・・・・。



「上に飛べって言われたけどほんとに上に飛んだら頭から刺さりそうで怖いな・・・・・・」


さっきまでの勢いはどこへやら、すっかり困惑しはじめた新入生たち。まあ新しい技はそうなんでもかんでも毎日いくつも覚えられるものではないのだ。新技といえば・・・・・・


「部長、そういえばあんたが練習してるオリジナル技はどうなったのよ?」


「まだ全然っすよ、そもそも昨日は補助でほとんど練習できなかったの知ってるじゃないっすか!」


「じゃあ田中、今日は新入生の補助はあんたがやりなさい、部員でローテーションするから!!」


「えぇ~マジっすかー・・・・・・」


「よっと!」


ファサァアアアアアアアっ……!


平行棒にマットをかけていく。バー上で行う技をやるにはこうするしかない、そして私はバーにすっぽりはめられる


パットを手に持つ。


「準備は良い?」


「はいっ!!」


部長はゆっくり深呼吸するとバーの片側に平行に立ち軽く飛んでバーを鉄棒のように片側を両手でつかみ両足を両手の間に入れた。そしてバーの上に上がった・・・・・・と同時に両腕でバーを跳ね上げる。そして手が離れた瞬間に足を開き今度は両手が両足の中に入った状態になる、んでもう一方のバーをキャッチする・・・・・・


ドンッ!!


「あぁ~くっそ・・・・・・」


キャッチはしたものの反動で体が戻ってしまい倒立まで上がることなく落ちてしまう、最近ずっとこの調子なのだ。


「やっぱ押す力が足りてないみたいね、まだちょっと肘が曲がってるしもっと肩から押す感じじゃないと!」


「やってるつもりなんすけどなかなかできなくて・・・・・・」


まあ棒端でティッペルトのようなことなんてなかなかというか本当に練習すればまともにできる保証なんてないわけだし無理する必要もあまり感じないが本人がこだわっているから仕方ないのだ・・・・・・・・。


こんどは別の選手の補助だ。


田中は跳馬と吊り輪が得意という力自慢タイプの選手である。現状体育館にピットと言われるスポンジを詰めた


普通のマットより安全性の高い練習器具がないため跳馬はあまり難しい技の補助がしてやれないのだが吊り輪の力技はできる。とはいえ田中は80㎏くらい体重があるので女の私ではたいへんだ。


田中が現在練習している新技はぶら下がった状態からゆっくりと腕を伸ばした状態で引き揚げて上向き正面中水平を経過してそこから十字倒立にまで上げていくというものである。


「一応補強運動はちゃんとやってきたみたいね?」


「うっス!!」


前に補助した時より格段に力をつけてきているのはわかった。しかし、大会までに間に合うかと言われれば


現状では厳しいとも思う。本人のやる気は尊重したいが安全策を取って堅実な結果も欲しいところである……。


とちょうどそのときであった……。


「先生! やっぱり新入部員たち、予想通りっすけどああなっちゃったみたいでっす!!」


あー、やっぱりなったかー。


想定していた通りのことが起きたようである……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る