第36話 異世界からの救い
隕石が月や太陽よりも大きいなどということは、まずありえないことだ。
そもそもそんなものが地球近くにあればその巨大な引力により、とっくの昔に引き寄せられ既に地球にぶつかっていることだろう。
もしあるとすれば、それは距離の問題である。
近ければ近いほどにその形は大きく見え、刻一刻と地球へ落下して危機が差し迫っていると言えるわけだ。
「マジ……かよ? マジであんなものが地球に落下してきやがるのか?」
あまりにもその隕石のスケールがデカく、目の前で起きようとしている出来事がどこか夢か幻かのように現実離れしている気持ちになっていた。
だからこそ逆に冷静でいられたのかもしれない。それこそ逃げ場なんて地球上のどこにも存在し得ないほど、悲観的且つ絶望的な状況と言えるから……。
「あっ、す、スマホ……な、なんでこんなときにネットが使えねぇんだよ!? あ~っ、クソッ! て、テレビっ!? テレビはどうだっ!!」
数秒ほどの時間、呆けて眺めてしまっていたがようやく我に返ることができた俺は慌ててスマホを操作したのだが、うんともすんとも反応が無かったためテレビのリモコン片手に電源を入れてから適当なチャンネルを押した。
『……それにより地球に残された時間はあと数時間……いや、長くても数十分かもしれません』
ピッ……ピッ。適当にチャンネルを回していくが、どれも似たような評論家が喋っているだけである。
こんな地球全体の危機と言えども、テレビ局に赴きコメントをしている人達に頭の下がる思いだった。
皆一様に口にしていたのは、この隕石が地球近くに来るまでまったく誰も気がつかなかったということだけだった。
一応それなりに地球の軌道上へと落下するであろう小型の隕石類を地球上の望遠鏡や宇宙にある観測用の望遠鏡で調べていたらしいのだが、それでもそのすべてをチェックするのは無理だという。
既に科学者や宇宙観測者達がその隕石の存在に気づいた頃には時既に遅し、映画や小説のように核爆弾を積んだロケットでその進路を変えたりすることもできなかった。
そして地球からスペースシャトルを使って逃げようにも、現代の技術ではロケットのスピードに限界があるため、たとえ宇宙空間に逃げることができたとしてもその衝撃から逃れることは不可能だという。
結局地球上に居るすべての人間、その誰も彼もが間近に迫る死を受け入れる他無い。
既に各国で混乱による暴動や非道な行為が至るところで起こり、民衆を制御できない事態にまで陥ってるのだと言う。
「それにしては日本は……静かなものだよな」
特質すべきは日本国内である。
これといった目立った混乱もなく、みんな残りの時間を各々過ごしているとのこと。
決して足掻くことも無く、そして安易に自害へと走るわけでもない。
ただただ状況を受け入れ、そのときが来るのを待っているのだとか。きっとどうする手立てもないため、悲観から生きることを諦めているだけかもしれない。
「俺もこのまま死んじまうのかよ? 何の幸せも掴めないまま……ただただ痛みも感じる暇もなく、死ぬ。はははっ。なんだよ、これ? こんなことが現実に起こっていいのかよ?」
俺は絶望から膝をつき、目からは涙が溢れ出てしまった。
これまで何の面白みの無い人生を歩み、彼女すらもいたこともなかった。それなのに……その仕打ちがこの現実というのは、あまりにも酷い話ではないだろうか。
『……で、これはかの有名なノストラダムスの予言にある【1999年7の月】という記述が記すように恐怖の大魔王が復活して地球を滅亡へと導く。そしてこれは人々の傲慢さが招いた悲劇である。そう解釈する人も多く、あの隕石は【魔王】とも呼ばれ……』
「ノストラ……ダムス? ノストラダムスって、昔にあったインチキ預言者のヤツか? ははっ。い、今頃になって甦って気やがったのかよ……ほんと……」
テレビから流れる話は過去にあった予言だか、何かを解説している。
そしてあの隕石の名前が『魔王』だとかって、口にしていた。
「勇者が魔王を倒す……か。ははっ、この現実世界に魔王が現れたってんなら、勇者も現れるっていうのかよ……なぁシズネさん」
その言葉はシズネさんやあの女神様が何度となく口にしていた言葉だった。
俺はあの夢の中のシズネさんへとそう呼びかけたが、生憎と答える言葉は返ってこなかった。
それも当然のことだ、なんせアレはすべて俺の頭の中で構築された想像上の夢物語なのだから現実世界に存在するわけがないのだ。
奇しくも「もしもこの世界に勇者が現れてくれたら……。シズネさんかあの女神様でも居れば……」と願わずにはいられなかった。
「お、おしまい、おしまい……で、終わるハッピーエンドの物語じゃなかったのかよっ!! クソメイドでもいい、クソ女神様でもいい、この際アマネでもジズさんでももきゅ子でも誰でもいいんだ……誰か……誰か助けてくれよぉ~っ……お願いだから……さぁ……っ」
俺は泣き叫び、あの世界で出会った人々の名を口にしながら助けを求めた。
……っと、そのときのことである。
『あ~~~っ!! あ、あれはなんでしょう? 大きな……鳥、でしょうか?』
「へっ? と、鳥?」
テレビのコメンテータから何やら変な言葉が聞こえ、思わずそちらを見てしまう。
するとカメラには、何か大きく翼を広げた鳥のようなものが大空を飛び、黒い影が街並みへと影を落としているのが映し出されていた。
「あ、あれって……」
どこかで見たことのあるようなシルエット。しかも頭の先には何やら出っ張りのようなものが見えていた。
それは俺が確かに知っているモノの影だった。
「ジ……ズ……さ…ん? それにも、もきゅ子……なのか?」
その姿は俺が先程泣き叫び助けを求めた仲間の姿であった。
どうしてジズさんともきゅ子がこの現実世界に居るのか、そして何故大空を飛びながら地球へと迫り来る隕石の空へと向かって飛んでいるのか、俺にはよく理解できなかった。
「ま、まさかアイツら……」
そこでようやく俺はジズさん達が何をしようとしているのか、嫌でも気づいてしまった。
きっと彼らは自らの体を呈して、あの落下してきている隕石の軌道を変えようとしているのだろう。
「や、やめろってジズさんにもきゅ子っ! そ、そんなことしたって軌道なんか変わるわけねぇってのっ!? それくらい普通に解かれよっ!!」
いくらジズさんの巨大な体とはいえ、隕石と比べたら小石にもならないくらいの大きさだ。
その程度の力でとても真正面から落下している最中の隕石の軌道を変えられるわけがない。
「いきまっせ~姫さんっ! 覚悟はよろしいでんな?」
「もきゅもきゅ♪」
空高く飛んでいるため、本来聞こえるはずのない彼らのそんな声が何故か俺の耳に聞こえたような気がした。
それは幻聴だったのか、それとも俺は死を間近に迫ったため先程の夢でも見ているかのように現実世界でも気が狂い、ありもしない幻覚でも見えていたのかもしれない。
そして空高く飛び、隕石が迫り来る大空へと向かっていたその影達はそのまま一直線に隕石へとぶつかってしまった。
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