第33話 最初で最後の戦い
「女神様だけを倒せば、すべてが『無』へと返ることになります……」
そのシズネさんの言葉を信じ、俺達は街に蔓延るあの悪魔達に見つからぬよう一路女神様が居るその場所へ向かうことにした。
当然一度も敵から見つからないなんてことは不可能である。
それでも僅かな音に反応するという特性を見抜き、俺達は石や酒瓶片手に連中を巧みに誘導し、どうにか無事そこへ辿り着くことができた。
「ここに女神様が居るはずです」
「ここって……」
そうシズネさんが言い指差した先は俺達もよく知る場所であった。
「結局、この城なのかよ……」
そう街の北側に存在し、何度となく訪れてきた王様が住むお城だった。
その姿は今も変わらず、白だか灰色だか分からない石垣が壁のように積まれ、大きな木のつり橋の下には川が流れている。
「この場所こそ、始まりと終わりの場所です」
「うむ。それなら連中に見つかる前に早く入ろうではないかっ!」
シズネさんの説明もそこそこに、悪魔達に見つかるその前に……っとのアマネの言葉に従い、俺達は慎重になりながら音を立てず中へと入って行った。
「中は……変わらないんだな」
お城の中は以前とまったく変わっておらず、外の仰々しくも重苦しい空気とは違って、どこか涼しく感じ澄み切っている。
「まるでここだけ別世界のようだね」
「一応女神様の加護なのでしょうね」
今更加護もヘッタクレもないと思うのだが、それでも女神様とやらは神聖らしい。
中を見渡しても、外のような敵は徘徊しておらず、何の障害もないまま俺達はそこへと辿り着いた。
「よく参られましたね。勇者たちよ……」
そこに居たのは、あの空に顔だけ映し出されていた女神様そのものだった。
快くも満面の笑みで両手を広げながら俺達のことを出迎え、そんな一言を投げかけてきた。
「ああ、来てやったとも! 存分に感謝するがいいさっ!!」
「ふっ……ふふふふっ」
アマネはこのような状況においても変わらず、いつもの調子でそう言い放った。
そんなアマネの物言いと態度を見て取った女神様はどこか可笑しく感じてしまったのか、軽く握られた指の背で口元を隠して静かにも小さな笑い声をあげている。
「一体なにが可笑しいのだ!」
「ああ、すみません。とても微笑ましく感じてしまって……つい♪」
「そ、そうか? 照れるなぁ~」
意外にも殺伐としていたどころか、和やかな雰囲気に包まれアマネは褒められていると勘違いして頬を少し赤らめ照れていた。
(この調子なら、もしかすると話し合いだけで平和的に解決できるんじゃないのかな?)
女神様の微笑みは本当に綺麗で、見ているだけでも心を引き寄せられるほどである。
それにフレンドリーに話しているので、そう楽観的な考えを抱かずにはいられない。
「女神様……」
「あら、シズネさん。どうかされましたか?」
そこへシズネさんが一歩前に出て、女神様と対峙する。
緊張した面持ちのシズネさんとは違い、女神様はどこか余裕の笑みを含んでいる。
「もう……終わりにしていただけませんか?」
「終わりに……ですか? それはこの物語を……という意味ですかね?」
「は、い」
「……うーん、それは無理というものですよ。“それ”は貴女もよくご存知のことでしょうに。ふふふふふふっ」
「ぐっ」
シズネさんの説得も虚しく、女神様からは拒絶されてしまった。
悔しそうに唇を噛み締め、シズネさんは今にも女神様に食って掛かろうと前屈みになっていた。
二人の間には何故か壁があるように感じ、未だ隠された事実があるのかもしれない。
それこそこの世界を管理しなければ知れないような“何か”重要な出来事が……。
「シズネ、いいからお前は退いていろ。ここは勇者である私の出番なのだぞ」
「…………アマネ」
アマネがシズネさんよりも前へと踏み出ると左手をシズネさんの前へと広げて、それ以上前に出ることを阻止した。
「勇者が魔王を倒す……女神であるこの私も倒せるのかしらね?」
「女神だろうとなんだろうと、悪は倒す……それが勇者であり、この私の私たる由縁だっ!」
どこか馬鹿にするかのように女神様はそう言い放つ。対するアマネは自分が勇者であるのだと奮い立たせ、剣を構えた。
「いつの世も勇者とは勇ましくもそれと同時に……愚かなり」
それまで優しく微笑んでいたはずの女神様の表情が一気に、すべてを食らい尽くすようなおぞましい顔へと変貌していく。
声の質も優しさの欠片すらなく、重々しいものへと変わっていった。
「ようやく正体を現したのだな。そうだ、それでこそ私も倒し甲斐があるというもの……いくぞっ! はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ! やあぁったあぁっ!!」
アマネが気合いの入った掛け声とともに、剣を掲げ女神様の方へと走り、そして右斜め上から剣を振り下ろして斬りかかった。
「……ふっ」
「なっ!? なぁぁぁぁぁっとと!」
だがそんなモーションすら見抜いていたのか、女神様はそっと体を左へと移動させる……ただそれだけでアマネの攻撃をいともたやすく回避してしまう。
アマネはというと当たるはずだったのに避けられてしまい、剣筋に体ごと引っ張られ前のめりに倒れようとしたしまうが地面に剣先が触れるその寸前のところで、どうにか体勢を持ち直した。
「なんで避けるのだっ! そのようにヒラヒラ、ヒラヒラ……っと。卑怯ではないかっ!!」
「ふふふっ。すみません、痛いのは嫌いなものでして……つい♪」
アマネは攻撃が避けられてしまったことに対して、憤りを表した。
当然女神様とすれば自分のことを殺すかもしれない攻撃なのだから、避けて当たり前。むしろそれに対し文句を付けているアマネの方がどうかと思ってしまう。
「痛いのは初めだけなんだぞっ! はっ! はっ!」
「そうですか♪ ですが、それでもやはり……無理ですね♪」
アマネは再度斬りかかったが女神様にはそれらすべてがお見通しなのか、避けられてしまう。よほど余裕があるのか、両目を瞑ったまま笑みを浮かべている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます