第32話 シズネさんが女神となった理由(ワケ)

「ごくりっ。永遠にその繰り返し……それにどんな意味が?」


 俺はそのスケールの大きさに思わず息を飲み、急かすかのように続きを促した。

 一体誰が何の目的でそんなことをしているのか、果たしてそこに意味があるのか、疑問は尽きなかった。


「意味……ですか。勇者が魔王を倒して、世界中の人々を救う……ただそれだけです」


 シズネさんから発せられた言葉は意外にも、この世界に来てから何度となく聞かされた言葉だった。


「それって……」

「そして最後におしまい、おしまい……っと、幕を閉じることができる物語」

「お、おしまい、おしまい……?」


 それは紙芝居か文化祭で行われている催し物などが、最後の言葉として締め括られる謳い文句のようなものだった。


(おしまい、おしまい……それってハッピーエンドで終わる物語ってことなのか? でも今の現状を見る限り、そんなことには絶対ならないよな)


 俺はふと街の方へと視線を向けてみると、遠目ながらにおぞましい形をした悪魔達が街の人々を襲っているのが目に入った。

 とてもじゃないが、シズネさんの言うようなおしまい、おしまい……などと気軽な言葉で終われるような話ではない。


「この世界が誰に作られ、そしてどんな結末を迎えることができるのか……それは終わってみるまでは誰にも分かりません。もしかすると不幸な終わり方をするかもしれませんし、逆に皆が皆、幸せになれるかもしれません」

「…………」


 結局、シズネさんですらも未だ未来のことは何も分からないということだった。


「はぁーっ。シズネの話していることの半分も私には理解できなかったぞっ! 結局のところ、その魔王とやらを倒せばいいのだろう?」

「え、えぇ……それはそうなのですが……」

「なら、話は簡単ではないかっ。その女神様とやらをこの剣で倒す……ただそれだけの話だっ!! なぁそうだろう、みんな?」

「もきゅ!」

「せやね。最後の最後に物言うのは、結局武力やさかい。その考えで間違いやあらへん!」


 アマネは考えても無駄だと言い放ち、倒すべき魔王こと女神様を討伐することをここに居る仲間達の前でそう誓ったのだった。

 単純と言えば単純、けれども究極のところ先程の女神様を倒すなり封印するなりしなければ、この世界は愚か俺達にも明日はないのは間違いなかった。


「それでシズネさん、あの女神様……物理的に倒せるものなの?」

「それは……勇者だけが使うことができるという聖剣ならば、あるいは……」


 そう言ってシズネさんはアマネが右手に持っている抜き身の剣へと視線を向けている。

 確かシズネさんと魔王として対峙したときにあの剣のことを聖剣フラガッハだとか、呼んでいた気がする。


「以前、私が女神様を助けた際にも、どうやらあの剣によって深手を負い、力を失ってしまったそうなのです。そこへちょうど近くを通っていた私が助け、本来女神様が持っているはずの管理者権限と力が移されてしまい……」

「シズネさんが女神様になった……っと?」

「はい」


 これでようやく話のすべてが繋がった。

 つまりアマネが持つあの剣はどうやら本当に女神様を倒せるだけの力を持っているのだと、結論付けることができる。


 それはあの喋るスライムの姿をした女神様を見ても分かるとおり。

 きっと力を失ってモンスター最弱のスライムへと姿を変えることで、彼女は存在を維持することができたのだろう。でもそれも俺達がシズネさんを倒しちまったばかりに封印が解かれ、そして力を取り戻して復活した。


(俺達が魔王を倒しちまったから、そうなったんだよな? でもそうしなければ話が延々ループして先へと進めない。とんだご都合主義も良いところだよなぁ……。ま、自分で作ったらしいからそれも致し方ない部分はあるんだろうけれども、それでもこの物語に終わりなんて本当に存在するのかな?)


 改めてこの世界が女神様と物語として良いように作られているのだと感心してしまった。

 結局のところ、女神様は聖剣で倒されても、何度も復活できるシステムが構築されていたのだ。ヤラセにしても笑えず、そしてどこまでも自分(女神様)本位の世界なのだと改めて知ることになり、どこか呆れてしまう。

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