第30話 終わる世界……
「んっ……ここは元の世界じゃ……ない。それに……最初の場所でもない? ここは……」
次の瞬間、俺が目覚めたのは何故かベッドの上だった。
それも何度も泊まり見慣れた宿屋の一室にあるベッドである。
本来魔王を倒せば、エンディング染みたBGMとともにスタッフロールが「これでもかっ!」っと流れるはずである。
それなのに今回は視界が真っ暗になると、何故か宿屋のベッドに寝ているというシチュエーション。
一見親切設定にでも目覚めたのかと思ったのだが、どうやら違うみたいだ。
それは左右で今も寝ているアマネとシズネさんの姿が視界に入っている時点で、そう思わずにはいられない。
「アマネ……シズネさん?」
俺は彼女達の方へと顔を向けながら、旅を続けてきた仲間であるその名を呼んでみる。
「も~きゅっ!!」
「うわっ!? って、もきゅ子?」
「もきゅっ♪」
自分だけ名前を呼ばれなかったので仲間外れにでもされたと思ったのか、もきゅ子は俺の腹の上に飛び乗ってきた。
「兄さん、ワテもちゃ~んといまっせ~」
「ジズさん……か」
「なんや、不満そうでんなぁ~。そないなら、ワテも姫さんの真似して……」
「いやいやいやいや、真似なくていい。てゆうか、どうやらってこの宿屋の中に入る気……いや、聞いた俺が馬鹿だった」
不満を持ったジズさんはもきゅ子の真似をしようと、宿屋の屋根上からジャンプして俺の腹の上へと着地したいご様子。
そんなことをされてしまえば、人間の俺なんて蟻のように踏み潰されてしまうこと必死である。
「んん~っ? なんだぁ~騒々しいなぁ。一体何事なのだ? ま~たキミ達か。いい加減、漫才はやめてくれないだろうか?」
「あ、アマネ……俺達のこと、覚えている……のか?」
「ん~? はははっ。キミも寝惚けているのだな。仲間であるキミ達を勇者であるこの私が忘れるわけがないだろうに」
アマネはまだ眠いといった感じに半分寝惚けながらうわ言のようにそう話しかけてきた。
だが、やはり今回は特別なのかもしれない。なんせ、目覚めるとアマネとシズネさん達が居て俺のことを忘れずに覚えていたのだから。
「あ、あの……シズネさん?」
「はい? 何かご用ですかね?」
「うわあぁぁぁぁっ!? あ、アンタ、普通に起きていやがたったのかよ!?」
ふと気になりシズネさんに呼びかけると彼女は突如として起き上がり、俺の方へと振り向いた。
その動作はまるで初めから仕組まれたかのように自動人形にさえ思えてしまうほどだったので、俺は思わず情けなくも変な声をあげてしまう。
「それで何が聞きたいのですか? ああ、この世界……いや、アマネが記憶を保てている理由ですか? それはですね……まだ前回の物語が続いているからです」
「…………アンタ、どこまで自由人なんだよ」
シズネさんはまだ俺が口にしていない疑問すらも、先回りして答えてくれたのだった。
もはや人の心を見透かすどころの話ではないチート力。まさにそれは……。
「悪魔de私は女神様ですからね。ニヤリッ♪」
どうやら未だその設定は崩れきっていないようだ。
むしろ悪魔なんだか女神なんだか……いや、後者が意味言葉になるから女神なのか?
「……で、その前回の物語が続いているっていう理由は何なの? 俺というか、魔王は倒されたんはずだよね?」
「…………それはですね……」
シズネさんには珍しく、言葉を詰まらせていた。
誤魔化す言葉を考えていたのか、それとも本当に分からなかったのかまでは分からない。
「それは? ……っ!? な、なんだ……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ。
シズネさんに続きを促そうと聞き返そうとしたその刹那、突如として地響きが鳴り響き、この建物……いや、この世界自体が巨大地震に見舞われその場に立っていられない。
「うわっ!? じ、地震か!? み、みんな早く外へ避難するんだっ!!」
アマネの号令の元、俺達は建物に押しつぶされては敵わないと慌てながらに外へと飛び出した。
「な、なんだよコレは……」
外に出てみればそこはまるで終末世界のような表情を見せていた。
空は重々しくも赤黒い色をしており、地面は地震の影響なのか、所々に地割れが起きている。建物も地面が陥没したり競り上がっている影響か傾いたり、縦に下から上まで亀裂が入っているところも見受けられる。
「もきゅ~っ」
「もきゅ子……」
もきゅ子は怖いのか、必死に俺の胸へとしがみ付いていた。
「この世界のみなさん、こんにちは~っ♪」
「はっ?」
どこからともなく声が聞こえてきたかと思うと地響きが鳴り止み、それまで闇一色だった空に女性の顔が浮かび上がった。
そして普通に歌のお姉さんかのように明るく挨拶をされてしまう。そのギャップに俺は思わず戸惑いを覚えてしまう。
「コンニチハーッ!」
「もーきゅ!」
「やでーっ!」
「へっ? えっ? えっ?」
「ほら、ユウキさんもアマネ達のように挨拶をちゃんと返さないと」
「えっ? あ、ああ……そ、その……こ、こんに…ち……は?」
何故かみんながみんな、挨拶には挨拶を返すという人として基本的なことを守っている。
シズネさんに促されるまま、俺も一応空に映りこんでる女性に向かって挨拶を返してみることに。
「うんうん♪ 良いお返事でしたね~。私はこの世界を創造し作り上げた女神様ですよ~。それでは挨拶も済んだことですので、この物語はもうおしまいになります。みなさん……ちょっくら死んでくださいね♪ ああ、特に難しいことはありませんよ。みなさんはただそこ辺に突っ立っててもらえば、こちらで勝手に殺しますので安心してくださいね……では♪」
「…………はっ? 女神……さま?」
(それにちょっくら死んでくださいね? ちょっくらって、ちょっとって意味だよね? それよりも……死とか殺すって? 殺すって……そういう意味なのか?)
顔にとても似つかわしくない言葉がまるで女神様か何かのように微笑んでいる女性から発せられ、一瞬何を言われたのか分からなかった。
そして自称女神様だという女性が地面を指差すと、闇が舞い降り至るところからおぞましい姿をしたまるで悪魔のようなものが湧き上がってくる。
それは誰の目に見ても友好とは思えず、何の表情も持っていない無表情な顔つきがより恐怖心を強調する。
女神様とやらはそれでもニコヤカに手を振り、そのまま暗闇が支配する空へと消えていってしまう。
それを皮切りに先程の悪魔の容姿をした化け物がゆっくりと歩みだして、次々に手近に居る人間達を襲い始める。
「ぎゃーっ!」「た、たすけて……ぐはっ」「ゆ、ゆるして……おねがいだからーっ!」
断末魔のような悲鳴が街のあちこちから聞こえ始めていた。
「な、なんだよ……これ?」
今まで見たことの無い光景が広がり、俺はショックからただ呆然と立ち尽くしてしまう。
その悪魔達は近くに居る人間に近づき、ただ手を触れただけでその命を奪ってしまっていた。一体どんな原理でそんなことができるのか分からないが、まるで魂を抜かれたかのように糸切れた人形のように人々が地面へ倒れていく。
「ぐっ……に、逃げるぞみんなっ!」
「も、もきゅっ!」
「せやねっ、ここにいたらワテらまで危険ですわ」
「ほら、キミもっ!!」
「あ、ああ……」
勇者であるアマネはここより撤退することを叫ぶと、未だ呆けている俺の腕を引いて近くにある森へと一目散に逃げることになった。
その最中、その光景をただ呆然と眺めるシズネさんの瞳がやけに印象に残った。
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