第28話 ラスボス光臨……からの~貶め

(えっ? えっ? いやいや、本気でクライマックスを演じる気なのかよ!?)


 シズネさんがついに自らの正体を明かして本気を出した。

 これはガチで物語りも終盤なのかもしれない。


「ふん! 誰であろうとも、勇者であるこの私はただひたすら敵を倒すのみ。それが勇者たる勇者の意義であり、勇者アマネの存在価値なのだ!」

「そうだ。それでいい……最初から運命が決められていようとも、台本があろうとも、始まりがあれば、終わりがある……」

「……シズネさん?」


 アマネの名乗り上げ一歩前へと躍り出る。

 だが反対にシズネさんはどこか悲しそうな顔をして、どこか自虐的で意味深な言葉を口にしていた。


 その表情と声がどこか悲痛な叫びのように思えてしまい、俺は何故かこのやり取りが間違っているのではないのかと思ってしまう。


「(な、なぁ女神様。これで本当にいいのか?)」

「ええ。これですべてが元通りになるはずです……」


 俺は不安から隣に居るスライムへと小声で話しかけてみた。

 だがこれすらも予定調和なのか、スライムは逃げるわけでも戦いに参加するわけでもなく、ただぽよんぽよんっとその場で弾んでいた。


「さぁ勇者よ、その勇者だけが装備できるという聖剣フラガラッハで我を倒すがいいさっ!」

「ああ、おうともっ! 倒して進ぜようぞ!」

「……はっ? いや、待てお前ら!? それはあまりにも展開が早すぎるぞっ!!」

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁっ! やあぁったあぁっっっっ!!」


 何故かシズネさんが両手を広げ、そしていつの間にか伝説っぽい雰囲気を醸し出している聖剣フラガラッハと呼ばれる剣片手に、アマネの攻撃を自ら進んで受け入れようと一歩前に出た。

 その無防備な姿はまるで自殺を望むかのようにも思えてしまう。


 そんなシズネさんのことはお構いなしにアマネは斬りかかり、シズネさんの体を右斜めへと斬り捨てた。


「…………」

「シズネさんっ!?」


 パタリっと、シズネさんは床へと倒れてしまう。

 俺は彼女の名を呼び、駆け寄る。


「ユウキ……さん」

「シズネさんっ……っ」


 シズネさんが徐に手を伸ばしてきたので、俺は思わずそのまま掴み握り締めてしまう。


「……はい、魔王様役交代です♪」

「はっ? こ、交代???」


 一瞬何が起こったのか、訳も分からなかった。

 だがしかし、シズネさんは無事のようで体のどこにも傷はなかった。むしろそれどころか、笑顔で交代と言われてしまった。


「くくくくくっ。あ~っはははははははっ……ごほごほっ。さ、さすがは勇者であるな。まさかこの私を倒そうとは……だがな、私は表向きの魔王様。まだラスボスが残っている」

「なん……だと!?」

「もきゅ~っ!!」

「なんやてっ!? そ、そないなことあるんかいな!」

「……茶番ですね」


 この期に及んで、シズネさんはまだただの表のボスで裏ボスが残っているとのた打ち回っている。

 そんな彼女に合わせ、勇者であるアマネはもちろんのこと、もきゅ子とジズさんも驚きから声を上げ、女神様に至ってはこんなものは茶番だと呆れ返っていた。


 そして俺はというと……肝心要、そのラスボスだというのが俺であると、多少の驚きはあったものの最初から知っていたので反応に困っていた。


(ここか~。ここで俺の出番が回ってきやがったのか。まさかというか、まぁここしかないよな?)


 腹を決めた俺は、こう名乗り上げることにした。


「ふふふっ。そうだ、俺が魔王……ラスボスだったんだ。どうだ、お前達も騙されたであろう?」

「へっ? 私は最初から知っていましたよ。ねぇ?」

「ああ、そうとも。他に役割は空いていなかったからな。むしろ違うと言われるとコチラが困ってしまう」

「もきゅもきゅ♪」

「せやな。兄さんがラスボスなんていうのは、そこらの野良犬でも知ってますんで!」

「まぁそもそも私がそう決めましたしね。むしろこんな場面だったとしても、知らないなんて口が裂けても言えませんよね(笑)」

「ぐっ……み、みんな辛辣というか、ここは一番に驚くところなんだぞ。あと地味にジズさんの口にしたことは、俺の心を容赦なく抉っているわ」


 どうやら俺以外の全員が全員、最初から正体を知っていたらしい。

 知っていてなお、泳がせていたのかもしれない。


(クッソ。ま、マジかよコイツら……知っててわざと調子を合わせていやがったのか? ええい、だがしかし……俺はラスボスなんだぞ!)


 そう俺はラスボスなのだ、偉いのだ。

 ある意味での王という立場。それだけで本来なら羨まれることはあれ、貶められる謂われはないはずだった。


「ま、君がそう言い張るならそれでもいいさ。私は勇者、そして君はラスボス……それならもう何をすべきか、そして何を成すべきなのか……理解しているだろう?」

「ぐっ!? あ、ああいいとも。来るならきやがれってんだっ!!」


 アマネの凄みを利かせた睨みと静かなる言葉に俺は今にも逃げ出しそうになりながらも、必死に震える膝を両手で押さえその場に留まった。


 勇者が魔王にすること……それ即ち、『討伐』を意味することである。

 そしてアマネの右手には、鋭い刃を持つ剣が収められ、いつでも俺のことを攻撃する準備ができている。もはや後はその剣を天高くへと掲げ、ただ目の前の俺の体目掛けて振り下ろす……それだけの仕事だけだ。


(これで……これでいいんだ。俺は倒されるべき魔王……なのだから。勇者に倒されるのも、運命……なんだろう)


 自ら魔王だと名乗り出た手前、今更後に引けるわけがない。

 既に俺は死を覚悟し、せめて痛みを感じないようにとただただ祈ることしかできなかった。


(あとマジで痛いのだけは勘弁してくださいっ!! 無理なお願いだったとしても、どうかどうかそれだけは……。あとあと血の匂いとかも吐き気を催すから、なるべく血が出ないような殺され方を……)


 ……俺はこの期に及んで無茶な願い事ばかりを心の中で抱いてしまう。

 当然そんな虫の良い話なんてあるわけがない。だがそれでも……っとの思いで必死に願わずにはいられなかった。


「いいか、覚悟しろよ魔王めっ! はあぁぁぁぁぁぁぁあっ、たあっ!!」

「ぐっ!?」


 ブンッ!!

 そしてアマネは俺への最後の言葉を口にすると、剣を掲げ勢いそのままに叫びながら俺の体目掛けて一直線に振り下ろした。

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