第27話 ややおざなりの展開

「…………へっ? ここって最初の……」


 いきなり目の前が暗くなったかと思い、ふと我に返ってみると俺は何故か、またもやこの世界の始まりである広々とした草が生い茂る草原に佇んでいたのである。


「い、一体どうなっていやがるんだ? さっきまでもきゅ子……いや、魔王と対峙していたはずだよな? それなのに……バグか何かか?」


 いきなりすぎる展開に思考が追いつかず、この世界にバグ……つまり致命的欠陥でも生じてしまったのではないかと思ってしまう。


「あらあら、ユウキsunさん。今回は起きていらしたのですね。これはこれは起こす手間が省けたというものですね」

「いや、まぁ……って、シズネさん。その手に持っている物で俺のこと起こす気だったのかよ。あと、俺は太陽じゃねぇんだよ……なんで今更英語表記で呼びやがるんだ?」


 これまたシズネさんがいつの間にか俺の背後に立っており、物騒にもその右手にはトゲトゲの鉄球が付いた鎖モーニングスターを装備していた。

 もし俺が起きなければ、それで物理的に起こすつもりだったらしい。


「前回はおしかったですね~。魔王を追い詰めたところまでは良かったですが、そのあとがよろしくありませんでしたし」

「……そっか」


 俺はその言葉ですべてを察した。


 またもやクリアできなかったんだ……っと。

 シズネさんの嬉しそうな声とは裏腹に、俺はとても落ち着き払っていた。


(でもこれで……“何か”をすれば、“何かが変わる”ってことが分かったな)


 不思議と得るものがあったせいか、今回は心にゆとりができている。

 そのおかげで新たな目標もできていた。 


(今回はあのスライムを中心に話をしていくことにしよう。それとシズネさんにもバレないようにしないとな)


 重要なファクターであろう、あのスライムの姿にさせられたという女神様。

 ソイツの居所を掴み、話を聞いていけばおのずと物語りはクリアへと向かうはず……そんな確信があった。


 そうして最初の街へ目指すその道中で何故かもきゅ子とジズさんが待ち受けており、挨拶を交わすとすぐに仲間になってくれた。


(たぶん尺が足りなくなってきたんだな。だからおざなりとして、もきゅ子とジズさんが簡単に仲間になったんだな)


 これまで以上に物語展開が速くなっている。

 きっとそれだけこの世界も余裕がないという証なのかもしれない。


 それから四人でフィールドマップを歩いていると、今度はアマネとスライムが対峙しているところへと遭遇した。戦うのかと思いきや、これまた俺達のことを待っていてくれたらしい。


「おおっ。キミたちが女神様のお告げで言っていた私の仲間だな! よろしくたのむ」

「私は自称女神様です。そこのシズネにこの姿へと変えられてしまい、力までも奪われてしまいました。どうか助けてください」

「これはまた……なんだかとても愉快そうな二人が仲間になりましたね。ね、ユウキさんっ!」

「あっ、ああ……そうだね」


 あれよあれよと言う間にアマネが仲間となり、そして何故か重要なファクターであるあのスライムまでもが仲間になってしまったのだった。

 しかもネタバレ必死どころか、シズネさんを諸悪の権化と言いつつ、俺達に助けを求めていた。


 シズネさんは我関せずと、二人(?)が仲間になったのを喜んでいた。

 俺は笑顔を引き攣らせ、頷くことしか出来ない。


 なんせガチで助けるべき存在が貶められた人に助けを求めてくるという本末転倒な自体に陥り、仲間になってしまったのだ。


「さて、みんなで街を目指すとしますか!」

「おーっ!」

「もきゅ!」

「はいな!」

「早くシズネを倒し、この世界を救わねば……」

「…………」

(いいの? これで本当に良いの? なんかなんか女神様、ガチでシズネさんに向かってシズネを倒して~とか言っちゃってるんだけど)


 そうして俺達は心強い仲間を4人も引き入れ、一路街へと向かうことにした。


 街に着くと、さっそく王様と謁見するためにお城へと向かったのだが当然そこは空席で誰もいなかった。

 それからもおざなりのように物語は進み、家々に押し入り家捜しする描写を中心にして、そしてついに魔王を討伐するため、お城までやって来た。


「すっげーっ、中抜きというか、途中の過程が省かれに省かれまくってるんだけど……いいのか、これ?」


 たった数行で旅の苦労などが語られ、物語も終盤へと差し掛かろうとしている。 

 たぶんもうそこいらの描写するのも面倒になってしまったのかもしれない。


「ここがそう……なのか」


 アマネが意味深にそう呟き、誰も居ない魔王が居る魔王の間へと辿り着いた。


「くくくっ。よくぞ、まいったな勇者よ」

「お、お前が魔王……だったのかっ!?」

(ああ、はいはい。どうせもきゅ子かジズさんが魔王で前に出て、シズネさんが通訳するんだろ? もう分かってるっつーの)


 俺は幾度も重ねられたシズネさんとアマネのやり取りに正直食傷気味になっていた。

 だが今度は一味違ったようだった。


「って、シズネさん!? あ、あ、アンタが魔王様なのかよ!?」

「くくくっ。シズネとは世を欺く仮初めの姿……これが私の本当の姿なのです!!」


 そう今回はシズネさんが魔王様役に転じていたのだ。

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