第23話 明かされたスライムの正体
「ふぅ~っ。冷たい夜風が火照った体に当たって気持ち良いなぁ」
俺は宿屋の外に出ると、深いため息とともに先程まで感じていた身体の熱が引いていくのを肌で感じ取っていた。
「道を照らす街灯の類も何もないんだな……これじゃ無用心と言われても仕方ねぇよな。でもRPGで街灯どころか松明を燃やしてるのも見たことないし、これがこの世界の当たり前なんだろう」
さすがに街とはいえ、通りには街灯なんて洒落たものは存在せず、辺りは家々から漏れる光がポツポツとしているだけで何の光源もない。
その代わり、夜空を見上げてみれば月明かりと共に星空が輝きを放っている。
目が暗闇に慣れてくると、次第に視界が開けてきた。
「すぅ~っ、はぁ~っ」
一度身体全体の空気を入れ替えるため、深呼吸をしてみれば身体の隅々に至るまで冷たいヒンヤリとした空気が駆け巡る。
そこでようやく冷静な思考を取り戻すことができ、頭の中がクリアになっていった。
外に出たからと言って、特に何をするわけでも何ができるわけでもなかったが、それでも冷静な気持ちを取り戻せただけでも大きかった。
「この世界は少しずつ変化している……のか?」
これまで何度とこの世界のやり直しをしてきたというのに、今日はこれまでとは違い初めて宿屋というものを実体験している。
それが証拠に今まさにこうして宿屋の外に出て、考え事をできる『心のゆとり』ができているわけだった。
「……もしかすると、今回は上手くいくのかな?」
楽観的にもそんなことを考えていると、近くの草むらからガサガサ、ガサガサ……っと、不穏な音が聞こえてきた。
「な、なんだっ今の音は!? モンスターか!? ……いや、ここは街の中だもんな。じゃあ小動物でもいるのか?」
一瞬猫か小鳥の類を思い浮かべ、身構えていた警戒心を解いてしまう。
「(ぽよんぽよん♪)」
「っ!? す、スライム……だと?」
そこから飛び出してきたのは、なんとモンスター最弱の代名詞でも一匹のスライムだった。
俺の姿を見るや否や、嬉しそうにこちらの方へと向かい飛び跳ねて来る。
「や、ヤバイっ!?」
いくら最弱のモンスターであるスライムとはいえ、勇者であるアマネですら手余りなのだから非戦闘員である俺ではとても太刀打ちできるはずがない。
それに何の武器も持っていない丸腰のため、防御に徹することも至難の業である。そう思い、宿屋に戻ってアマネかシズネさんを呼びに戻ろうと後ろを振り返り駆け出そうとしたまさにその瞬間、どこからともなく声をかけられた。
「あっ、お待ちください! 逃げないでください」
「……へっ? お、俺のこと……か?」
「はい、そのとおりです」
声をかけた主は今し方、草むらから飛び出してきたスライムだった。
人の言葉を喋るスライム……それに当てはまる出来事を俺は既に知っていた。
知っていたからこそ、こう言葉を投げかけてみることにした。
「お前って……以前、俺に話しかけてきたあのスライムなのか?」
「覚えていらっしゃったのですね。えぇえぇ、そうですそうです。お久しぶりですね……もう何度目の世界でしたっけ? ははっ。忘れてしまいましたが、結構前のことですよね? ……っと言っても時系列がそうなだけで、時間軸においてはほんの数分……いいえ、数秒にも満たない時の出来事になりますが」
何気に軽い挨拶のし合いかと思いきや、とんでも発言をぶん投げられてしまった。
たぶんかな~り重要な伏線回収とも言えるセリフに違いないのだろうが、生憎と俺の頭では処理し切れない。
そうして暗闇が支配する中、月と星明りだけを頼りに俺達は互いに無意識のうちに距離を詰めて行く。
「…………」
「(ぽよんぽよん♪)」
終始無言ではあるが相手がスライムのため、間抜けにも弾み飛ぶ音が響き渡る。
見ればソイツの見た目はどこにでも居るスライムに相違ない。
けれども一度口を開いて音を発せれば、人の言葉を喋ることができるほどの知性を持ったスライムなのである。
そして互いに手を伸ばせば届く距離(……と言っても、スライムに手という概念があるかどうか俺は知らないのだが)になり、再び問いかけてみることにした。
「お、俺に何か用なのか? 前も何か言いたそうにして、逃げちまったよな?」
「はい、私は……いいえ、私の正体は……」
「ゴクリッ……しょ、正体?」
いきなり自分の正体とやらを暴露してくれるというスライムを前にして、一体どんな言葉が飛び出すのやらと俺は気が気ではなかった。
(もしかして自分が倒すべき魔王様とか、王様代理人とか言うつもりじゃないだろうな? もしくは
そして次に目の前のスライムが発した言葉は、俺の予想を遥か斜め上を軽々と飛び越えてしまうほどだった。
「私はこの世界の創造主である……女神なのです」
「えっ? えっ? はっ? め、がみ……さ、ま? お前が???」
「はい♪」
「はぁ~~~~~っ!?」
俺は夜も真っ最中で夜空降りしきる野外において、お目目をパチパチっと二度ほど瞬きすると、驚きから彼(?)、彼女(?)、女神Summer(?)、女神様じゃない(?)いや、やっぱり女神様(断定)……の言葉を鸚鵡返しに呟き聞き返すことしかできなかった。
そして街が暗闇と沈黙に支配されているにも関わらず、俺は力の限り全身全霊を持って驚きの大声を夜空に向かって叫んでしまうのだった。
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