第22話 読者サービスもヒロインの務め

「ぅぅっ……ま、マジかよ」


 俺はベッドの中で今日何度となく漏らしてきたそんな苦言を口にしてしまう。

 それもそのはず今俺が置かれているシチュエーションは、なんと美少女達との同衾だったのだから。


 あれから食事を終え、俺も温泉があるという風呂場へと向かい旅の疲れを癒してから戻ると、いよいよ夜の一大イベントである睡眠という原始的且つ日常的な休息をとることになった。

 だがしかし……である。食事や入浴についての文字描写も然ることながら、ベッドの上で寝るということについても今回は通常通りに行われているらしい。


「スゥーッスゥーッ」

「ぅぅっ」


 客室とは名ばかりに小さな宿屋のため個室なんてものは一切存在せずに、仲間達とは同じ一部屋で眠ることになってしまっていたわけだ。

 俺の右隣にはアマネが眠っており、ベッド上からでも手を伸ばせば容易に彼女の体に触れられてしまう……互いにそんな距離でもある。


 だから彼女の寝息や呼吸の音、それに肌とシーツとが擦れ合う音までもが俺の耳へと届けられてしまい、思春期真っ盛りな男子高校生としては悶々としてしまい思わず視線がそちらへと向かってしまう。


「スゥーッスゥーッ」

「ぅっ」

(え、エロなこれは……)


 呼吸をするその度に彼女の大きな胸が上下へと動き、その大きさとともに柔らかさを見ている俺へと提供してくれている。


 以前一緒に眠ったときは普段着ともとれる全身を防御できる鎧姿であり、まさに勇者そのものという格好でベッド上で眠っていたのだが、今日はちゃんとした女の子らしい柔らかそうな生地でピンク色をしたパジャマに着替えて眠っている。

 しかも薄手なのか、心なしかブラの色が透けているようにも見えてしまう。


「ご、ゴクリッ。でも、ちょっとくらいなら……」

「ん~っ?」

「っ!?」


 欲望の思うがまま、そっと手を伸ばそうとしたその瞬間、アマネが寝返りを打つと俺は慌てて手を引っ込めてしまう。


(だ、ダメだダメだ。俺は今、何をしようとしていたんだ? あ、アマネは仲間なんだぞ! それに勇者だし変な妄想というか、女神様の加護とかいうのを与えられているからそういうのは当然厳禁だよな? でも……)


「ん~~~っ」


 そう心の中で念じても隣から漏れ聞こえてくる女の子の声や音というものは艶っぽく、俺の心を掻き乱すにはそれだけでも十分すぎるほどだった。

 それに動いた拍子に上着が持ち上がってしまったのか、チラリっと彼女の白くて柔らかそうなお腹が見えてしまっている。


(べ、別に俺はお腹フェチとかおへそフェチってわけじゃないんだけれども、それでもこれは……)


 さすがに年頃の男子として、同年代の女の子のお腹を見る機会などそうそうあるものではなく、目を離せなくなっていた。


(っ!? だ、ダメだ……このままだと本当にヤバイことになる。そ、そうだ。それなら俺が寝る向きを変えればいいんだよな?)


 雑念を捨てるため、今度はアマネが寝ている方とは反対側に体の向きを変えることにした。


「ふぅ~っ……んっ? ~~~~っ!?」

(し、シズネさん、アンタもアンタで何やってるんだよ!?)


 一瞬安堵するかのように深い溜め息を吐き出しながら、ふとシズネさんの方へと目を向けてみると彼女もまたアマネ同様に胸元のボタンが外れてしまいブラらしき布生地が見えてしまった。


「…………」

「ぅぅぅぅっ」


 胸がアマネよりも無いとはいえ、シズネさんも超がつく美少女である。そんな子が隣で眠りながら上着の薄手パジャマを肌蹴させているのだ。

 アマネの時よりもドキドキが止まらず、余計変な気持ちになってしまう。


(あ、暑いからアマネもシズネさんもそんな格好しているんだよな? なっ? なっ?)


 確かに寝るには若干暑いような気もする。

 一応この部屋にも窓がいくつかあるにはあるのだが防犯のためなのか、外側からだけでなく内側からも開かないようにと窓の周りを木の枠が埋め込まれているため開けることができない。


「んん~っ」

「ぶはっ!? あ、アレってまさか……」


 寝苦しさからなのか、シズネさんは少しだけ身を丸め形となっため、俺から見ればちょうど男子高校生憧れのシチュエーションである女性の谷間を上から覗き込むという状況に陥ってしまう。

 しかも彼女は胸があまり大きくはないので谷間こそ形成されてはいないのだが、その代わりと言わんばかりにブラが宙に浮いてしまい胸との隙間が空いてチラッとピンク色のモノが見えてような気がする。


「~~~~っ!? ちょ、ちょっと外に……」


 さすがにこれ以上ガン見しているのはシズネさんにも悪いので、俺はベッドから飛び起き(と言っても音を立てず静かに)出るとそう声をかけ、宿屋を出ようとする。


「ええ、どうぞ」

「……はっ? し、シズネさん?」

「はい?」

「おおおお、起きていらっしゃったの?」

「ええ」


 ……どうやらシズネさんは眠っておらず、最初から起きていたらしい。


「そ、その格好は……」

「あ~っ、コレですか? これはユウキさんと読者さんに向けたサービスシーンですよ。どうです? ドキドキしましたかね?」

「~~~~っ。し、知らないよっ! そ、外行って頭冷やしてくるから……」

「ごゆっくりぃ~」


 純粋な思春期男子高校生の繊細な心を弄ばれていたのだと理解した俺は動揺に動揺を重ねまくってる心を静めるため、彼女にそう断りを入れてから宿屋の外に向かうことにした。


「ふふっ。少しやりすぎてしまいましたかね? 私としてもまさか下着を見たくらいでユウキさんがあのように動揺なさるとは夢にも……あ~~~~~っ!? って、まさかまさか私はこの格好を男の方に見せてしまい……ぅぅっ(照)」


 ユウキが立ち去った後、シズネは自らの格好を改めて確認してみたのだが、自らの胸の大きさが足りないため、ブラと胸との間に隙間が出来ていることにそこで初めて気がついてしまった。

 そのときの彼女はこれまで見せたことのない恥じらいを持った乙女のように、体全体に言葉では言い表せないほどの熱を帯びて顔を赤らめていた。


 そんな熱と顔を隠すよう毛布を被ってしまうのを外に出て行ってしまったユウキは知る由も無かった。

 シズネもまた打算で生きる女であると同時に、普通の年頃の女の子だったのかもしれない。

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