第20話 イレギュラーな存在
「コレってさ、ガチで呪いとか延々ループの世界に嵌まり込んじゃった感じだよなぁ。どうすりゃいいんだよ、いったい……」
もうこれで何度目のやり直しか忘れてしまうほど、この世界を救うというイベントを繰り返してきたのだったが、アマネや王様のセリフ、それにイベント発生の時系列が多少ズレることはあっても基本的に同じことの繰り返ししか起こらなかった。
当然俺もこの世界の創造主たるシズネさんに苦言を呈するのだが、「勇者が魔王を倒す……ただそれだけの世界です」そうシズネさんからは言われるだけである。
「クソッ……このままじゃ、こっちの頭が可笑しくなっちまう。そもそも一体何なんだよ、この世界は……。それに俺はどうして巻き込まれたりしたんだよ。ほんっと、訳が分からねぇよ」
10を越えたあたりから数えるのを止めてしまったが、優に軽く20回以上はこの世界をやり直してきたかもしれない。
それでもなお、未だクリアするどころか何一つの打開策が見つからないまま、無駄に時間と神経をすり減らすことしかできずにいた。
「(ぽよんぽよん♪)」
「……んっ? またアイツだ……」
再び野原で目が覚めるところからやり直しを強制され、今はフィールドマップを歩くシズネさんの後ろをただくっ付いて歩いていた。
その最中、一匹のスライムが俺のことを観察するかのように見ていることに気づいた。スライムなんて見た目の差異も分からないのだが、不思議とそれは以前から俺の方を見るだけで近寄ることも何もしないヤツと『同じである』との確信を持てていた。
「……いや、待てよ」
そこで俺はあることに気づいた。
『あのスライムだけが奇妙な行動を取っており、もしもそれがイレギュラーな存在ならば、ソイツが今のこの状況を打破できる存在ではないのか?』……何故だか、あのスライムを見ているとそう思えて仕方がなかったのだ。
「お、おいそこのスライム。俺はお前に危害を加えることは決してしない。だから……よければ、もっと俺の近くに来てくれないか?」
「(ぽ、ぽよん? ぽよよ~ん♪)」
俺は怖がらせて逃げないようそのスライムに優しく声を掛けると、右手で軽く手招きをしてみた。
……すると、まるで人の言葉を理解しているかのようにその場で飛び跳ねながら、まるで嬉しそうに俺の方へとやって来たのだった。
「お前……もしかして、ただのスライムじゃないのか?」
「…………」
その言葉を発した瞬間、スライムは飛び跳ねることを止めてしまった。
「そう……なんだよな? もしかして本当は別の何かなんじゃないのか……呪いか何かでそんな姿をしているんだよな?」
「…………」
俺はそのスライムが『誰かの呪いか何かで、その姿へと変えられてしまったのではないか?』っと思い、そう語りかけてみたのだがスライムは身動き一つしなかった。
「なぁ……何か言葉を喋ってくれても……」
「……ようやく気づかれたのですね」
「なっ!? ほ、ほんとに……しゃ、喋った……スライムがっ!?」
「おや、不思議なことを仰るのですね。貴方から私に何かを言葉を喋れ……そう言われたと言うのに……。まったく人間とは不思議な生き物なのですね」
俺は半ば自棄となり試しにそう言ってみただけだったのだが、予想に反して本当にスライムが人の言葉を発していたのだ。
「いや、それもそうなんだけどな。ほんとのほんとに人の言葉を……理解できるのか?」
「ふふふっ。ええ、ええ。もちろんです。そもそも貴方とこうしてやり取りをしているのだから、意思の疎通は取れていると思いますが……違うのですか?」
確かにそれは正論だったかもしれない。
特に脳へと直接呼びかけるような意思の
「……俺に何か用事があったんだろ? ちゃんと喋れたんなら最初から声をかけてくれれば……」
「確かに貴方に用はありました。ですが、私が喋れたと言うのには若干の語弊があります。私はまさに今、人の言葉を喋れるようになったのです」
「今? そうなのか?」
「はい♪」
そのスライムの言ってることが少し理解できないのだが、それまでは言葉を喋れなかったことになる。
では一体何がきっかけになって……っ!?
「あっ……」
「ようやく気づかれたのですね。貴方が言葉を喋れと仰った……それが引き
「な、なんだよそれ……それじゃまるで俺がこの世界の……」
「ユウキさ~ん。どこですかぁ~」
「っ!? もう時間がありません。私のことは彼女には内緒にしてくださいね!」
「えっ? あっちょっと……」
「(ぽよよ~ん♪)」
シズネさんの声が聞こえたその途端、スライムはまるで逃げ隠れるよう草が生い茂る草むらへと逃げて行ってしまった。
「ああ、ここにいらっしゃったのですね。もう探しましたよ、まったくこのような一直線のフィールドマップなのに迷子になるだなんて……それも“何度もやり直しているはずの世界”で迷うのはユウキさんくらいなものですよ」
「あっ? ああ、ご、ごめんごめん。じ、実はそのぉ~、せ、生理現象というか、なんというか……うん」
「あ~っ。あっはははっ。これはこれは私の方が失礼をいたしました。ま、野外ですもんね。男の方がお外でしたい放題になりたいとの気持ちは理解できますが、手だけは洗ってくださいね。しっしっ」
「う、うん。……分かってるよ。って、普通にそのまるで野良犬でも追っ払うような動作は傷つくからねっ!?」
先程あのスライムに言われたとおり、一切触れずにシズネさんの話に合わせ迷子になっていたことに徹する。動揺から調子を合わせるのは難しかったが、シズネさんがいつもの調子で冗談交じりになってくれたので、ツッコミがてらどうにか誤魔化すことが出来た。
(それにしてもさっきのスライムはなんだったのか? それにこの世界の創造主のシズネさんにそのことを黙っておくように……っと言われたことがやけに引っ掛かる。もしかすると俺がこの世界から抜け出せない原因って……)
そんな様々な考えが頭を巡りながらも、俺はシズネさんの後をくっ付き歩くことしかできなかった。
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