【第2章 繰り返される世界】
第19話 繰り返される世界
「……さん。ユウキさん、早く起きてください」
「ん~~っ。まだ眠いってばぁ~」
俺は誰かに揺り起こされながらも、少しずつ頭が覚醒していくのを自覚した。
「んっ? ふぁあぁ~っ。ん~~~っ、ってここは!? まだあの夢の中なのかよ!!」
俺の目の前には何故かあのレトロ調のファンタジーだか、RPGの世界だかが広がっていたのだ。
「まだ……というか、まだですね」
「いや、同じ文字でイントネーションだけ変えられても、読者にはそこまでの感情の起伏は読み取れないからね。シズネさんもそこのところ、ちょっとは配慮しようよ」
そしてやはりとも言うべきなのか、最初と同じくあのメイド服を着たクソ女神が隣に座っている。
どうやら本当に
「えっ? えっ? でもさ、魔王……というか、あのラスボスチックな王様を倒して終わったはずだよね?」
「あ~っ、そうですね。でもまだ何かやり足りないのでしょう。だから元の世界に戻れずにこの世界を延々ループする……つまりそういうことですね!」
細かな説明が面倒くさくなってしまったのだろうシズネさんは、やや強め口調でそう俺を捲くし立ててきていた。
「……ま、マジかよ。また最初からなの? っつうか、どうやったらクリアってことになるんだ?」
「さぁ?」
「さ、さぁって、そんな無責任なことって……」
「ですが、話の道筋だけは決まっています。勇者が魔王を倒して、この世界を平和にする……ただそれだけですね」
それもこの世界の創造主たる女神様ですら、与り知らぬことらしい。
だがしかし、クリアの目的だけは前と変わることはないとのこと。
結局俺は最初と同じく草むらが生い茂るフィールドマップを延々1時間以上歩きに歩き、ようやく次なるイベントに遭遇することになった。
「覚悟しろ、魔物めっ! はああああああぁぁっ! いやあぁぁぁっ!!」
「(ぷるんぷるん♪)」
「わ、私の剣が……効かないだとっ!? ぐはーっ……パタリッ」
もはや見慣れた赤と黒が特徴の鎧と剣を持った少女が魔物と戦い……敗れた。
そして以前とまったく同じくアマネの体を眩いばかりの光が包み込むと例の棺が現れ、これまた以前とまったく同じく空から謎の光が差し込み『……ちっ。コイツ、しけてやがんな』という女神様ボイスとともに、アマネが持っていたであろう所持金を強奪して光は空の彼方へと消え去ってしまった。
「さてっと、ユウキさん。街への移動手段もできたことですし、さっそく向かうことにしましょうかね」
「そ、そうだね。……んっ?」
シズネさんは何の躊躇いもなく、先にアマネの棺に乗っている。
俺も釣られる形で「何度やってもこれは慣れないわぁ~」っと、思いながらも足を乗せようとしたそのとき、誰かに見られているような視線を感じ取って瞬間的に後ろを振り向いてしまう。
「…………」
「おや、どうかされたのですか?」
「あっいや……あのスライム……」
「えっ? スライム……ですか?」
先程アマネを倒したはずのスライムがじーっと、コチラ側を見ているような気がして何故か気になってしまう。
尤も実際スライムには目や口という概念がないので、アレに見られているというのは単なる気のせいなのかもしれない。
けれどもそのとき俺は不思議と意味があるのではないか、そう思わずにはいられなかったのだ。
「(ぽよんぽよん、ぽよよよ~ん♪)」
「あっ……」
「……行っちゃいましたね」
「……うん」
ふとスライムの方から目を離してシズネさんと話していたら、いつの間にかスライムが俺達とは真逆の明後日の方へと逃げて行ってしまった。
それと同時にファ~ンファ~ンっと、緩やかにも棺が宙へと浮き上がる。どうやら街へと移動する時間が来てしまったようだ。
「ユウキさん、早く乗らないと」
「ああ……わかった」
そうシズネさんに促されるままアマネの棺へと乗ったのだが、スライムが去って行った方向が不思議と気になり見えなくなるまで目を離すことはなかった。
そうして再び街にある教会にて勇者であるアマネを復活させると武具屋や道具屋で買い物をしてからスライムとの戦闘を経て街中の家捜し、もきゅ子とジズさんを仲間にして暴れ馬イベントや西の砂漠を越え、ついに再び魔王城こと街中にあるお城へとやって来たのだった。
「くくくっ。よくぞ我の元へと参った勇者よ、褒美をとらせてやるぞ!」
「おうとも! さっさとその褒美とやらを寄越すがいい!!」
……若干セリフに変化が生じているみたいだが、大まかな流れとしては同じことだった。
「ぐはーっ。ま、まさか我がこのような輩にやられる日が来ようとは……がくりっ」
「うむっ! これで世界に平和が訪れることができるな!」
そして勇者であるアマネが王様を倒すと、そこらかしこからファンファーレが鳴り響いて物語は幕を閉じるのだった。
・・・・
・・・
・・
・
「……はっ? って、またここからなのか!?」
「あっ、おはようございます。今度は私が起こす前に起きることができたのですね」
だがしかし、だがしかし……である。
再び俺が目を覚ますと、またもや最初の野原に居たのだ。そしてシズネさんが起こそうと手を伸ばしているときに俺が目覚めてしまったらしい。
「…………コレって何のバツゲームですかね? もしくは呪いの類なのか?」
こうして俺は何度も何度も同じイベントを繰り返しながらアマネ達と共に冒険という名の旅に出て魔王を討伐したのだが、一向に状況が打破されることもまた俺が現実世界へと戻されることもなかった。
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