第18話 敵味方入り乱れての……何か!
そして俺はアマネには『攻撃する』のコマンドを選び、王様には『逃げる』のコマンドを選択することにしてみた。
「んっ……たあぁぁぁぁぁっ! クソッ……攻撃を避けるだなんて卑怯だぞ!」
「くくくっ。当たらない当たらない」
ひゅん。アマネの攻撃は王様が横へと避け華麗に避けられてしまう。
「むっ……ここは一旦引くべきか。勇者よ、さらばじゃ~~っ!!」
ダダダダダッ。
何を思ったのか、王様はクルリッと背を向けると、その場で駆け足しながらそんな捨てゼリフを残して逃走を謀った。
「おわっ!? なんだこれなんだこれ! お、俺の体が勝手に……っ!?」
「くっ。我の逃走を阻むつもりかっ!?」
「いや、別にそんなことしたいわけじゃ……」
「よくやったぞキミっ! 相手が赤服を着たラスボスだというのに逃がさないというその覚悟……甚く気に入ったぞ!」
「……ど、どうも」
俺の体は逃げ出そうとする王様の目の前へと音も無く自動的に移動して、回り込み逃走を阻むことに成功した。
そして何故だかアマネに褒められてしまう。
「(ユウキさん、ユウキさん。さっきのって完全に偶然ですよね?)」
「ぅぅっ。そ、そう……というか、体が勝手に」
シズネさんが他の連中に聞こえないよう、そっと俺の耳元でそう囁いた。
偶然というよりも俺の意思に関係なく、体がスゥーッと移動したとでも言うべきか。
「なるほど……きっと戦闘中に逃げ出そうとする輩には、近くで手の空いている者が回り込む仕組みのようですね。これは興味深い」
「……何がだよ? アンタ、この世界を創造した女神様とやらなんだろ? それなのに何でそのこと知らねぇんだよ……」
「ふふっ。いくら創造主である女神と言えども、創造後すべてを把握するのは困難ですからね。私の意図せず、システムが改竄されたとしてもぶっちゃけ気づきませんからっ! むしろ教えてくださいよ!!」
どうやらシズネさんと言えども、知らないことがあるらしい。
何かを納得するよう頷きながら偉そうに威張り腐ってるわりに、俺に対して頼み事までしてしまっているのは良いのだろうか?
「話ばかりしていないで早く次の指示をしてくれっ! 頼むっっ!!」
「そうじゃ。早く我々に指示を下すがよいわ」
そんなこの世界の摂理を考えていると、アマネと王様からそんな苦言が言われてしまう。
どうやら自分達が操られているとの自覚が芽生えつつあるのか、はたまた極度のドM心に火が着いてしまったのか、二人は指示待ち人間の権化になろうとしていたのだった。
(というか、王様。アンタ、性格変わってねぇか? ボス的存在なのに勇者側の人間の指示待ちって大丈夫なのかよ……その心意気に俺のほうがビックリしちまうよ)
俺まで若干の不安の二文字を覚えつつ、二人へ次なる指示を送ることにした。
「う、うーんっと、アマネはさっきと同じ『攻撃する』で、王様も……アレ、『逃げる』の表示が消えてて選べなくなっているぞ。どうなってんだこりゃ?」
アマネの指示を選び、次に王様の行動を選択しようとしたそのとき、『逃げる』のコマンド部分が空白になっていることに気づいた。
「ああ、それですか? きっとボス戦では逃げられないとシステムが察知したので選ばないようにと、表示自体を消し去ってしまったのでしょうね。あっ、ほら代わりに『真の姿』という項目に置き換わりましたよ」
「あっ、そうなんだ……だったら、そんなもん最初から表示なんてするんじゃねぇよ。あと真の姿って魔王が瀕死になったときにやる変身的なアレなんだろ? 誰がそんなの選ぶんだよ、俺はそんな自殺願望持ち合わせていねぇぞ」
一応補足説明っぽくシズネさんが横からそんな都合の良いことを言い出したので、俺は泣く泣く別のコマンドを選ぶことにした。
「じゃあ……とりあえず一回だけでも『攻撃する』でも選んでみるか? ポチっと……」
「もきゅ~っ」
「な、ってあ~っ! も、もきゅ子っお前一体なにを……っ!?」
突如としてもきゅ子が俺の足へとしがみ付いて来たため、驚きから間違ってその下の『真の姿』を押してしまった。
「くくくっ。ついにお前達に我の真の姿を見せるときがやってきたようだな。そこで世界が滅ぼされる様をとくと見守るが……」
「はあぁぁぁぁぁ。やあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
王様の体が光だし、ついに真の姿とやらがお目見えするまさにそのとき、空気を一切読む気配のないアマネが剣を片手に斬りかかった。
「ぐはっ……うごごごごごご……ま、まさか我がこのような輩に負ける……と…は……」
「うむ! 魔王……成敗っっ!!」
「……へっ?」
パタリッ。そんな捨てゼリフを残して王様は前のめりに倒れこんでしまった。
「こ、これで本当にいいのかよ?」
「あ~、どうも変身の最中は無防備且つどんな攻撃に対しても弱かったようですね。こりゃ参りましたねぇ~」
「……何がだよ? どこへ参ろうっていうんだ、そこのクソ女神」
「もきゅ~」
「おお~っ、勇者の姉ちゃんも意外とやるやないですか! これで世界に平和が訪れますんでぇ~。ま、少々おざなり気味ではありましたけどな」
どうやら本当にラスボス的存在の王様が倒され、この世界に平和が訪れたらしい。
もはや何がしたいのか、よく分からない物語に成り下がろうとしたところで至る所から謎の『ファ~ファファファファ~ン♪』という若干軽やか過ぎるファンファーレが鳴り響きだした。
「おおっ、勇者よ。ついに王様を倒し、世界に平和をもたらしたのだな!」
「ワーワー、パチパチパチ♪」
「……いや、今しがたその倒された側がアマネのこと褒めてどうするんだよ。あとこの兵士達、今までどこに姿を隠していやがったんだ? なんだコレ……軽いヤラセか何かなのか?」
見れば先程まで赤いカーペットが敷かれた床と顔面からお友達になっていた王様がムクリっと起き上がり、いつもの調子で俺達のことを褒め称えた。
そしてどこから現れたのか、トランペットを吹いている兵士や拍手音を口ずさんでいる兵士達がワラワラと流れ込み、俺達を囲み祝福してくれている。
「やった……ついにやったぞ! 私は王様を倒して世界を平和にすることができたんだ!!」
「もきゅもきゅ♪」
「なんやちょ~っとばかし、おざなり気味みたいやけど、まぁええんやないでっか」
アマネは勇者として世界に平和をもたらした自分自身に喜び、もきゅ子やジズさんもそれに釣られる形で喜んでいる。
「……ま、所詮はこんなところでしょうね」
そんなシズネさんの言葉だけがやけに印象深かった……。
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