第17話 システムバグと戦闘システム

「ふむ……もしや、これは……いえ、でもまさか……」

「えっ? シズネさん、あの二人があんなやり取りしている理由を知っているの?」

「あぁ~っと、そうですね。あの二人、今まさに頭がバグっているようなのですよ」

「あ、頭がバグってる? バグって、昔のゲームにありがちだったあのシステム上バグのこと?」

「ええ、そうです。まさにそのバグになります。物語の演出上、容量不足と度重なる予算削減の煽りを受け、『とりあえず時間稼ぎに……』っと、仕様上バグが働いたのでしょうね!」


 どうやら王様らしき魔王様役と、それを倒すべくここに参ったはずの勇者アマネの頭の中が残念なお花畑仕様になってしまったらしい。


「あぁ~っ……だからなのか」


 俺はその言葉を聞き、妙に納得してしまっていた。

 実際、目の前で論舌を繰り広げている二人の会話は噛み合っているようで……噛み合っている。


(あっ、ならこのままでいいのか? ぶっちゃけ意味不明なやり取りっつうか、話し合い(?)してるみたいだけど、俺には関係ねーもんな。あとこのバグってば、仕様上という製作陣営の意図したものみたいだし)


 ……そうこちらが思ってしまいそうになっていた。

 だが、このままだと延々ループしそうだと思い、この馬鹿二人を創造したであろう女神シズネさんへと耳打ちすることにした。


「(なぁシズネさん、ぶっちゃけ飽きてきたから話を前に進めてもらいたいんだけどさ、駄目かな?)」

「ああ、別にいいですよー。はいはい、二人とも文字数稼ぎはその辺にして、そろそろバトりましょうかね?」


 まるでこれすらも元々用意されていたシナリオがあるかのようにシズネさんは手を二度ほど叩き、二人へと交戦するように呼びかけていた。


「おおっ勇者よ……どうしても私と戦うつもりなのか?」

「ああ、そうとも。それが私の……いや、私達の旅の目的だからなっ! 行くぞみんなっ!!」

「もきゅ!」

「はいな!」

「あっ、戦闘とか面倒くさそうなので私はちょっと遠慮しておきますね……」

「魔王との戦闘って最後の戦いって意味だよな? それなのにこの流れで拒否るってシズネさん、アンタどんだけ自由人なんだよ!?」


 ピュ~ン。

 そうアマネが啖呵を切り仲間みんなが返事をするとほぼ同時に緩いBGMが鳴り響くと、途端に視界が揺らぎ戦闘画面が表示された。


「な、なんだこれ? ま、まさかこれが戦闘システムなのかよ?」


 俺はいきなりの展開に思考が追いつかず、その展開が一回りして再び思考に追いついてしまった。


「これはですね……って、ユウキさんもちゃんと理解しているじゃないですか!」


 そして何だか知らないけど、説明しようとしていたシズネさんに怒られてしまう。

 きっと俺が前フリをしたにも関わらず、出鼻を挫いてしまったのが原因かもしれない。


「くくくっ」

「ふふふっ」


 王様とアマネの方にふと目を向けてみれば、二人は互いに対峙して睨み合っているだけだった。


「ふぁあぁ~~っ」

「おや姫さん、お眠さんでっかいな? ほんなら戦闘が終わるまでワテの背中で寝ててもええでっせ」

「もきゅ~」

「なんやワテまで姫さんに釣られて眠たくなって……ぐーっ」


 もきゅ子とジズさんに至ってはほぼほぼ戦闘に参加するどころか、昼寝をしようとしている。ってか、完全に眠ってる。


『もきゅ子とジズは深い眠りについてしまった』


(こ、コイツらシズネさんばりに戦力外だわ。何でラスボス戦だってのに暢気に目の前で眠って嫌がるんだよ……)


 あまりにも緩い展開と仲間の非協力な態度に、もはやこの戦闘が何なのか忘れそうになってしまう。

 そして思い出すため、再び王様とアマネの方に視線を送るのだが、先程と何も変わらず二人ともその場に佇んでいるだけだった。


「ふ、二人とも動かない……のか? いや、動くに動けない……のか?」

「あ~、敵味方の行動に関しては交互によるターン制ですからね。それにまだコマンドを入力していないのでアチラさんとしても動けないのでしょう」

「……マジかよ。世界がどうたら~って、大変な時なのにそんな緩い展開が繰り広げられても許されんのか」


 古き良きRPGよろしく、コチラが動かなければアチラも動かないという親切設計みたいだ。

 ぶっちゃけ俺はこのまま画面外にフェードアウトしたい衝動に駆られてしまい、軽くアマネ達とは真逆方向へと爪先を向けてみることにした。


「さささっ」

「……あの、シズネさん?」

「はい? 何か私にご用ですかね?」

「……いや、ご用っーつうかさ、何してんの?」


 そう不思議と仲間であるはずのシズネさんが俺の進路を阻まんと回り込んで来たのだった。

 しかも一切音を立てず、スーッとまるで自動追尾システムのように俺の動きに合わせている。


「ああ、これですか? なんかユウキさんがこの場から逃走を謀ろうとしているので、事前に回りこみ阻止しようかと思いましてね。……違うんですか?」

「…………」


 どうやら俺の浅はかな考えなど女神シズネさんの前ではすべてお見通しらしい。


「ユウキさん、何か勘違いなされているようですがこの物語は悪魔demoファンタジーなんですよ。ですのでボス戦は敵が回りこんでしまうので逃げ切れませんので……」

「じゃあアンタ、俺達の敵ってことになっちまうんだけどさ、それはいいのかよ!?」

「……い、戦場において敵味方なんて関係ありません! るかられるか、二つに一つです! さぁさぁお早く敵味方問わず、指示コマンドを入力してください。ってか、しやがれよ!」


 もはや数秒前に言ってる事と完全に違っている理不尽この上ない言葉の数々。

 そしてどうやら俺はその指示コマンドとやらを入力する役割を担っているようだ……しかも敵味方問わずにな。


「ちっ……どうなっても知らねぇぞっ!!」


 観念した俺は前を向くとアマネ達の前に表示されている画面に注目することにした。


「え~っと、何々『戦う』『逃げる』『入れ替え』『作戦』……か。ほんとに基本的なコマンドばかりだな。これがアマネに出せるコマンド……で、こっちのが王様のかよ。まったく同じだな……もしかしなくても描写手抜きか?」


 一応シズネさんの言ってたとおり、敵味方関係なしに指示コマンドを出せることになっていた。

 もはやチートを通り越したエミュレータ、TAS(ツール・アシステッド・スピードラン)動画状態である。


(これって王様に対して『逃げる』ってコマンド押したらどうなるんだよ? ほんとに逃げるのか、それともアマネもしくはシズネさんが回り込むことになるのかな?)


 些か本末転倒ではあったが、逃げてくれれば万事問題が解決するのではないか?

 そしてこのくだらない物語が終わりを迎え、俺は元の世界に帰れるはず……そう願わずにはいられなかった。

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