第16話 勇者、魔王城にて

「し、シズネさん。ここが俺達が目指しに目指しまくっていた……っていう魔王城ってヤツなのかよ?」

「はい、そうですよー。あっ、それともどこか別の場所が良かったですか?」

「いや、別に俺の好き嫌いで言ってるわけじゃないんだけどさ、それにしてもこの場所はないんじゃないのかな?」


 あれから俺達は宿屋で体を休める(ただし俺を除く)と、すぐさま魔王が住むという魔王城まで旅をすることになった。

 どれだけ過酷な旅になるのか、そしてどれだけ無駄な描写が待ち受けているのかと思いきや、勇者であるアマネが向かった先はなんと同じ街中にある場所だったのだ。


「あのー……ここってさ、王様の城だよね?」

「はい、そうですよ」

「ねぇなんで?」

「あっ、理由が欲しいのですか?」

「理由が欲しいとか欲しくないとかじゃなくて……いや、やっぱり理由が欲しかったわ」

「う~ん、そうですねぇ~『長ったらしく魔王の城に行くまでの旅を文字描写するのも面倒だし、それに予算の観点から言ってもここは描写手抜きしてもいいんじゃねぇか?』ってことになりまして、いわゆるこれは業界的に言い表すならば『大人の事情』もしくは『製作陣営の手抜き』というやつですね!」


 どうやら王様の城と魔王城とを同一にすることで無駄な描写を省く意図とともに、この世界を作ったであろう連中が盛大な手抜きをしたいらしい。

 何故連中が今頃になって手抜きを始めたのか……たぶんそれは最初からだと思う。うん、最初っから手抜き感半端なかったもんなぁ~。


「こ、ここが魔王城なのか……ゴクリッ。うっ、いかんいかん。勇者であるこの私が恐れを抱いてどうするのだ?」

「アマネ……」

「うむ。それではみんな、中へと入ろうではないか!」


 さすがに勇者であるアマネは魔王城を前にして緊張している様子。

 ……というか、自ら先頭になって宿屋からここまで案内してきたのを忘れている疑惑も無きにしも非ずである。


「ここはエルドナルド城だ。用がある者以外は入ってはならぬぞ!」

「用がある者は俺達の許可なく勝手に入ってもいいんだからねっ!!」

「あっ、どうもどうも。いつもご苦労様です♪」

「…………」


 そうして俺達は正門に立っている名ばかりの護衛二人を無事遣り過ごして魔王城とやらの中へと入って行った。

 ……というかシズネさん、いつもと変わらず普通に挨拶交わしているし、それにもまして門番もこれまた普通にお城の名前を口にしているのは果たして良いのだろうか? それに用がなければ云々を口にはしているのだが、逆に用さえあれば出入り自由とも受け取れるツンデレさん。


「さてっと、どうやらここが魔王がいつも居るという『魔王の間』のようですね!」

「ってか、ここいつも王様が居る王座の間じゃんか! いつの間に魔王の間とやらに鞍がしやがったんだ!?」 


 そう魔王が鎮座しまくっているという噂の間とは、いつも俺達が王様と会っていた王座の間だったのだ。

 もはや描写手抜きというか設定不足とも口にしたいのだが、如何せん登場人物としてそれだけは口にできない。


「ん~~~~っ。腕が鳴るなぁ~。いよいよ、旅の苦労が報われるときがきたのだな!」

「もきゅもきゅ♪」

「皆さん、ここまでほんっとお疲れさまでした~。ワテもまさか、容易に城の中に入れるとは思ってもいまへんでしたで!」

「ふふっ。アマネ達もどうやら気合いが入っているみたいですね。ま、尤も勇者が魔王を倒すというのは王道中の王道ですからね。無理もないことですね……はん!」

「……何しんみりとした口調なのに、最後馬鹿にしたように鼻で笑っていやがるんだよシズネさん」


 ここに到ってもなお、アマネ以下全員はいつもの調子をキープしていた。

 きっと最後の戦いを前にして、緊張を解す意図もあったのかもしれない。


 むしろこうでも言って補足してやらないと、ガチでこの物語がただの面白コメディーに成り下がってしまうのを恐れての俺なりの行動だった。

 何故ならそれは……。


(魔王の間とか言っても別に重々しい扉とかも一切無くて、普通に階段登ったら正面に王座が見えちゃってるんだよね。しかも俺達が真剣(?)に話している最中にも王様らしき赤服じいさんが「まだかなぁ~」って、右往左往しながら行ったり来たりっと待機してるのが視界をチラチラしてて、逆にこっちが落ち着かねぇわ。それに何であんな落ち着きなくウロチョロしていやがるんだよ?)


 そう設定や文字描写が手抜きな上、しかもお座なりならば物語だってそれと同等仕様になってしまうのも納得できてしまう。

 そして俺達はいよいよ魔王の間へと一歩足を踏み入れた。


「んっ? おおっ、勇者とその一味よ、よくぞ我の元へとやって来れたな。存分に褒めて遣わすぞ!」

「ああいいともっ! 私のほうこそ、存分に褒められてやろうではないかっ!」

「くくくっ。ふあぁ~っはははははっ……ごほごほっ。さ、さすがだな、勇者よ……我を前にして臆することがないとはな!」

「ふふふっ。私と言えど勇者なのだ。そもそも臆するとは一体全体どういった意味合いなのか、私は意味が分からないぞ!」

「…………はっ?」


 一瞬何の言い争いが始まってしまったのか、俺にはあまりにも理解不能すぎる出来事だった。

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