第15話 いざ、帰還

「ぜ~っ、はぁ~っ。ぜ~っ、はぁ~っ。や、やっと街に着いたぁ~っ」


 俺は最後の力を振り絞り、行き倒れる形になりながらもようやく街に足を踏み入れることができた。


「なんだぁ~だらしのない。それでこれからの過酷な旅を続けられると思っているのか? なんともはや、勇者の仲間だと言うのに情けないことだな!」

「まぁまぁアマネ。ユウキさんは元々名も無き一人の民だったのですから、体力クズでも致し方ないのですよ。ぷっ」

「もきゅもきゅ♪」

「兄さん、案外体力ないのでんなぁ~。もっと鍛えな、これからどんどん辛くなりまっせ!」

「て、てめ~ら、うるへーよ」


 俺の仲間……もとい、アマネ達は口を揃えて死人となろうと倒れこんでいる俺を前にして、好き勝手なことばかり口にしていた。

 尤も、何故アマネ達が元気なのか、それは単純な理由だった。


「お前らなんて、道中の馬車ん中で寝ていただけじゃねーか! 牽いてたジズさんに言われるならまだしも、昼寝してた奴らに言われる筋合いねーんだよ!!」


 そうアマネ以下、シズネさんももきゅ子もまた帰る道中の砂漠から「もう砂は見飽きた……」の一言で、馬車の中で休憩していたのだった。

 苦労したのは馬車を牽くジズさんと、一応名目上先頭を歩いて馬(ジズさん)を導くための導き手として俺が矢面に立つことに。


 最初は女だからとか、ヒロインだから……っと大目に見ていたのだが、砂漠を越えてもなお荷馬車から出てくる気配の無いまま、街まで戻ってきてしまったのだった。

 道中「コイツラ、絶対ぜってぇー外に出てくる気ねーわ」と思いつつも、一言たりとも文句を言わず先導する形で街まで辿り着き、そして俺は力尽きてしまった……というのが描写不足によって描かれなかったここに至るまでのあらすじである。


「さ、さぁ~て、そろそろ王様とかいう赤服じいさんがイキリ立つお城にでも向かおうではないか!」


 仕切り直しというか、必死に誤魔化すかのように勇者であるアマネは既に街中が暗闇で支配しているにも関わらず、城へ向かうのだと皆を奮い立たせた。

 若干俺の言葉に動揺と焦りを見せているのはこの際だから見なかったことにしよう。


 そうして案内役の村人Aやお城を護衛すべき門番達が地面に横になり寝ているのを尻目に、夜なのに無用心にもフルオープンしている正門から城の中へと入っていった。

 ダダダダダッ。相変わらず、このBGMなんだかSE効果音は自分達で口にしなければいけないという所業。描写が手抜きなんだか、逆に丁寧なんだか口にしている自分達でさえも分からなくなり始めていた。


「おおおおっ、その一味よ。よくぞここへ参った。……して西の砂漠は越えられたのか? そうかそうか、それは良かった。お主達ならきっと越えられると信じていたぞ。さぞかし口では語れぬ苦労もあったことだろうなぁ」

「……王様、こんな夜中にここで何やってんだよ。もしかして昼間からずーーっと、俺達のこと待っていたのか?」


 これまた体を調べられるどころか、床で寝ている護衛にスルー推奨されつつ容易に王座の間へ辿り着くことが出来てしまった。

 そして深夜にも関わらず、王様はそこに居た。一体ここで何をしているのか、もしかして自分の部屋や寝室が無いのかな……と心配しつつも、その話とやらを勝手に聞かされている。


 あと不思議なことに謳い文句の勇者という単語を吹っ飛ばして、もはやどこぞの一味としか認識していないのかもしれない。

 そもそも一切こちらからの話を聞いている様子もなく、ただ好き勝手に喋り腐ってるだけである。


「そして次なるお主達への神託は、いよいよ魔王が居る魔王城へと赴き……」

「が~っ、ぶっ。もぐもぐ」

「…………」


 またジズさんは腹が空いているのか、王様の頭を餌の如く啄ばんでいるのも、もはやデフォルトの光景なのかもしれない。

 それでも何事もなかったかのように言葉を続けている王様もなかなかの玉である。何気に背中に馬車を背負い王様を捕食しているという光景は斬新そのものでもあった。



「……ふむ。次はいよいよ魔王城へと赴くことになるのか!」

「すっげぇーっ、行程というか、色々なもんすっ飛ばしてるけどな。そもそもあの砂漠行ったの、意味ねぇよな?」


 そして次なる目標は勇者及び俺達の目標である魔王の城へと向かうことになった。

 そもそも魔王が俺自身なのだから、もはや何言ってるのか分からない極みではままあるのだが、よく分からないまま向かうしか道はない。


「(ね、ねぇシズネさん。このまま魔王城とか行っても大丈夫なものなの? レベル云々も然ることながら、俺がその魔王って役割なんでしょ? 矛盾というか、SF映画でありがちなパラドックスとか起きるんじゃないの?)」

「えっ? ああ、そういえばそうでしたね。ま、そんなものは代理でも立てときゃなんとかなるでしょ」

「…………ほんとかよ。そのまま俺がアマネに斬り殺されるってオチじゃないよね?」

「………………違いますよー」

「おい、せめて俺の目を見て言いやがれよ!」


 勇者に殺される役割である魔王として、この世界を構築した女神様であるシズネさんの言葉は俄かには信じられずにいたが、自分でもどうすることもできないのもまた事実だった。

 顔を背け俺の視線から逃れるようとしているシズネさんを前に、俺はいよいよ覚悟を決めなければいけないのかもしれない。


「おーい、みんな~。今日はもう夜も晩いからこのまま宿屋に向かって休もうじゃないか」

「きゅ~」

「せやね。姫さんもおねむのようやさかい。そうしてもらえたら、ワテとしても助かりますわ。それに皆さんもお疲れやろうから、今日はゆ~~~っくりっと、体を休めるのがええですわ。ふわあぁ~っ」


 コイツらと……勇者と魔王として対決するその日を……。


「どうしたのだー、シズネ、それと……えぇ~っと、お、おいアイツの名前なんだっけ?」

「き、きゅ~?」

「確か、モブの兄さんやなかったでしたか?」

「おおっ! そうだったな。おーい、そこのモブの人のぉ~」

「ぶっふっ」

「…………違うからな。ユウキだよ、ユウキ。何でこの期に及んでモブ扱いされにゃ~ならねぇんだよ。あとシズネさんもしれっと笑い堪えないでくれるかな?」


 ……とりあえず宿屋で俺の名前を覚えてもらうところから始めようじゃないか。じゃないと俺が魔王だってアイツらの前に現れたとしても、しれっと「初めまして」とかって挨拶されかねない。

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