第14話 西の砂漠

「おお~っ、みんな見てみろ! なんとここは一面に砂の海が広がっているのだな。まるでこの場所が砂の王国……砂漠のようにも感じるぞ!」

「……いや、どこをどう見ても砂漠以外の何物にも見えねぇーっての。ここがその王様が言っていたつーう、西の砂漠なんだろ? 何でそれを勇者であるアマネが知らねぇんだよ。ありえねぇよ……」


 俺は華麗なるツッコミをアマネに入れ、一面に広がる砂漠に圧倒されつつあった。


 なんせ砂漠というもの自体、現代ではまずお目にかかる事が出来ず、せいぜい鳥取市民限定で目にするくらいが関の山である。


「ふむ。これはやはり馬車を引き連れてきて正解でしたね。こうも熱いと外で活動するにはあまりにも過酷過ぎるというものですよ」

「も、きゅ~っ」

「もきゅ子、大丈夫か? 水飲むか?」

「き、きゅ~。もきゅきゅきゅっ……もきゅ~っ♪」


 だがさすがにこの暑さの前では、この世界を構築した女神様のシズネさんと言えでも辛いようだった。もきゅ子に到っては茹でた蛸のように全身真っ赤になって……いや、元々体が赤かったからそれは俺の気のせいかもしれない。

 一応気にかけて水を差し出すと、喜びながらもきゅもきゅ飲んでいる。


(もきゅ子、可愛いなぁ~。なんだろう……家にお持ち帰りしたくなるつーうか、ほんと動いているヌイグルミだよなぁ~。それでもちゃんと飯食べたり、水飲んだりしてるんだもんな)


 もきゅ子が水を飲む姿に癒しを覚えつつ、俺達は和みに和んでいた。それもそのはず、道中かなりの距離があったというのにモンスターが一匹たりとも出現しなかったせいもある。

 そのせいでどこか遠足気分が手伝い、不思議と気持ち的にも余裕が生まれていた。


「それで俺達はこれからどうすればいいんだよ、シズネさん?」

「ああ、はい。とりあえずこの砂漠を横断しなければいけませんね。でなければ次へと進むことができないでしょうから……」

「……そっか。やっぱりここを渡るのか」


 どうやらこの砂漠を越えた所に新たな町か重要な施設でもあるのだろう……っと、容易に事情を察することが出来る。


「それじゃあ、いつまでもこうしていても埒が明きませんし、行きましょうかね」


 シズネさんの号令の元、俺達は西の砂漠地帯へ足を踏み入れた。


 当然ながら砂漠であるから、アマネの言葉じゃないが一面砂だらけである。一歩踏み出すごとに足が沈み込み、次々……っと歩まねば自らの重みで足を取られてしまう。


 もきゅ子は子供ドラゴンということもあって寒暖の差に弱いらしく、また足が短いため容易に砂に沈み込んでしまうのでジズさんが牽いている馬車の中に居てもらうことにした。


(……にしても、この陣形っーつうか、並びで歩いている様は一体何なんだよ? 何かの儀式か?)


 そして例の如く俺達は馬車を四方に囲みこむ形で上下左右に配置され、延々歩いている。

 先頭はジズさん、右にシズネさん、左にアマネ、そして最後下側に俺という配置である。


(しかもなんでジズさんを先頭にしていやがるんだ? 馬ってポジションじゃねぇーのかよ? ここは普通、主人公または勇者が先頭に立つべきじゃねぇのか?)


 本来ジズさんは馬車馬ならぬ馬車竜なはずなのに、何故かフィールドマップを歩いている要因に位置づけられているどころか、先導する形で前を歩いてくれていたのだ。

 もはや実質的に言っても、ジズさんが導き手と言っても決して過言ではない。


 そうして俺達は歩きながらも水分補給をして、数時間かけて砂漠を渡りきった。


「よ、ようやく……砂漠を抜けたな。途中、砂漠のド真ん中で野宿でもするのかと覚悟しちまったけど、案外どうにかなるもんなんだな」


 意外と砂漠地帯が広く見えたのは気のせいだったのか、それとも描写不足を補うためご都合主義の極みが発動しやがったのか、それは俺には判断がつかなかったが兎にも角にも何事も無く西の砂漠を渡りることに成功した。


「ま、ぶっちゃけ砂漠って砂しかありませんからね。どーーーしても、描写不足は否めないのでスルー推奨しただけでしょうけど」

「…………それはセリフとして口に出して言っちゃいけないことなんだぜ、シズネさん。それで次はどこかの町にでも向かうの?」

「へっ? 町……ですか???」

「え゛っ゛!? ち、違うの???」


 そして次なる目標を聞いてみたのだったが、何故かシズネさんは「何それ?」って驚いた顔をしてしまっている。


「え、えぇ……別に町なんか行きませんよ。この西の砂漠に来たのは“横断するため”ですしね」

「う、うん? 俺達たった今、この砂漠を横断……したよね?」

「ええ、しましたね」


 どうにも要領を得ないのだが、まさかまさか砂漠を横断すること自体が目的だとか、シズネさんは言うつもりなんじゃないだろうな?


「いえ、そのとおりですよ。この砂漠は横断するのが目的ですし」

「おい! まだ俺が喋ってねぇのに勝手に地の文から読み解くんじゃねぇよ!?」


 どうやらガチで砂漠を横断するだけという、何のオチも面白さも存在し得ない展開らしい。


(いや、まぁ確かに途中で砂漠のモンスターとか一切出てこないとは思ってたけれども、まさかそのせいなのか? それともモンスターを文字で描写するのが困難だから、都合良くも遭遇しなかったとか? おいおい、マジかよこの世界……)


 俺は改めて、この世界の恐ろしさを痛感してしまう。


「さぁ~て、西の砂漠も制覇したことだし、急ぎ最初の街に戻って次なる神託か王様の戯言を聞きに戻ろうではないか!」

「早くしないと夜になってしまいますからね、とりあえず急ぎましょうか」

「おや、皆さんお急ぎでっかいな? 何やったらワテの背中に乗りまっかいな? こんな砂漠なんて一ッ飛びでっせ!」

「もきゅもきゅ!」

「…………マジなのか」


 そしてアマネのそんな無情すぎるほどのセリフを前にして、俺達は再び今横断したばかりの砂漠を通り街へと戻ることになったのだった。


 一体こんな砂漠を横断することに意味はあるのだろうか? 

 いや、そもそも何しに来たんだよって話は俺じゃなくても思うのは言うまでもなかった。

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