第12話 暴れ馬の正体とは……
「っと。皆さん、東の森に着きましたで~」
「…………へっ? た、助かった……の…か?」
だが当たり前というか、当然のことながらジズさんがそのまま地面に衝突することもなく、草木が生い茂る森の入り口へとその翼で降り立ったのだった。
「ふふふっ。こ、ここが暴れ馬がいるという東の森なのだな。今から出会うというだけで勇者として体が武者震いをしてしまう」
「いや、アマネよ。それはたぶん俺と同じで落下する際の生命の危機から来る震えの類だと思うぞ。何、ちょっと格好の良いセリフと態度に置き換えようとしていやがるんだよ」
アマネは生まれたての小鹿のようにプルプルと足だけでなく、胸までを揺らし俺の視線と思考を釘付けにしている。
「にしてもここには本当に木ばかりですね~。もしやふざけているのですかね?」
「きゅ~っ」
「普通に森なんだからそりゃ~木ばかりでしょうね。それを言うに事欠いてふざけてるとか……どんだけアンタは偉いんだい?」
シズネさんが大地へと降り立つと森に木が生い茂っていることにして対して文句を言い、隣に居るもきゅ子までもそれに賛同するかのように頷いている。
傍若無人とはまさにコイツらのために用意された言葉ではないだろうか?
「って、あれ? ジズさんはどこいった? さっきまで俺達の後ろに居たはずなんだけど……」
アマネやシズネさん達にツッコミを入れてる間に俺達を運んできてくれたジズさんの姿が見えなくなっていた。それに背後からは羽ばたく音や風が巻き起こってはいないので、たぶんジズさんは飛んではいないはず……それなのに姿が見えないということはこれいかに?
「ヒヒーン……やで♪」
「おい、アイツが例の暴れ馬とやらじゃないのかっ! 見つけたぞっ!!」
「ああ、アレが例の……ぶふっ」
「もきゅ~っ」
馬の鳴き声がどこからともなく聞こえてきたかと思ったら、アマネが叫びながら前方を指差している。
それに釣られる形でシズネさんやもきゅ子、それと俺まで釣られる形でついそちらの方へと目線を向けてしまう。
「…………いや、アレは暴れ馬の類じゃねぇよ。絶対に……」
見ればそこに居るとの噂の暴れ馬はなんと馬ではなく、漆黒に身を包んでいるドラゴンそのものだった。……というか、むしろ俺達をここに運んでくれたジズさんそのドラゴンである。
「荒ぶるで~♪ ワテは今まさに誰よりもアラブってますのんや~♪ シェールガスがなんや! そもそもメタンハイドレードって、採掘可能なんでっかいな? そないなもん石油油田の前では足元にも及びやしまへんでっ!! 温室効果ガス出しまくりやで~」
「うーむ。あんなに暴れていたのでは、捕まえるのには何かしらの
「そうですね。古典的ではありますがここは一つ、地面を踏んだ瞬間にボーガンが飛び出す罠を仕掛けるというのはどうですかね? それなら確実に息の根を止めることができることでしょう」
「もきゅもきゅ♪」
「…………いや、完全なる似非関西弁を喋るジズさんじゃねぇかよ。何で無視してんだよお前ら?」
何故か不思議と今この場において、まるでアラブの石油王のような振る舞いをしているジズさんに対してアマネ達は一様に罠を仕掛け捕まえる算段をしようとしている。
(それにその罠とやらは暴れ馬とやらを掴まるんじゃなくて完全に仕留める気だよね、シズネさん? というか、目の前に居るってのにコイツら今から罠を拵える気なのかよ……。そもそもボーガンなんて持ってねぇだろうに)
「バサーッ、バサーッ」
ほんの二メートルも離れていない俺達の目の前でジズさんが羽を羽ばたかせ自らの存在をアピールしまくっている。
しかもご丁寧にも自ら羽音を口ずさみながらである。
「おいっ! 暴れ馬が今まさに空へと飛んで逃げようとしているぞっ!! みんな、これは罠なんて作っている場合じゃないぞ。早く捕まえないと逃げてしまう!」
「おや、本当ですね。じゃあこのままで捕まえるとしましょうか」
「きゅ~っ!」
「馬なのに空飛ぶのって、おかしくねぇか…………いや、もうなんでもいいよ」
もはや馬が空を飛ぶと口にしているアマネの号令の元、罠をそっち除けにして目の前で佇み待ち構えているジズさんを捕まえようとみんなでにじり寄っていることにした。
「なんやなんやーっ。アンサンら、ワテのこと捕まえる気なんか?」
「ああ、そうだとも。是非とも私達の
「馬車をでっか~? 重くないんでっしゃろな? よろしゅうおます」
「それはまさに馬車馬の如く、ですね(笑)」
「きゅ~♪」
「(ぼそりっ)そこは
そして俺達みんなで手を繋ぎ暴れ馬ことジズさんのことを囲みに囲み、どうにかこうにか捕獲することができた。
……というか、ただ単にみんなして抱きつきその温もりを感じただけなのだったが、一応描写的には捕まえている風なのでよしとしよう。
「これでミッション完了だな。急ぎ街へと戻り、王様とやらに報告せねば」
「面倒ですが、それが王の道……いわゆる
「きゅーっ」
「あっ、それやったらワテが帰りも皆さんのこと乗せて街まで飛ばせてもらいますわ」
「おっ。本当か? 助かるぞ~」
こうして俺達は暴れ馬を捕まえたので街に戻り王様に報告することになった。
(これでいいのかよ……物語としても本当に、さ?)
などと俺は疑問に疑問を重ね、首を捻り寝違えてしまうほどこの世界とは矛盾に満ち溢れているようだった。
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