第11話 暴れ馬を求め、東の森へ

「それで王様とやら。次に私は何をすればいいのだ? さっさと言わないかっ!!」

「そうじゃ。それでこそワシが見込んだ勇者だ。それではまずこれからも旅を続けるならば、荷馬車とそれを牽くための馬を手に入れることが先決になる。荷馬車はほれこのとおり、既にワシが用意しておる。馬はここより東にある森に居るとの噂が、そこらかしこから出ておるようじゃぞ」


 微妙に会話が成立しているか怪しいまま、次のお告げとやらが俺達に下される。

 その内容とは、これからも旅を続けるために必然である荷馬車と馬とのこと。


 けれども俺達は既にその過程を飛ばしに飛ばし、海を渡る船どころか空を移動する手段ドラゴンを手に入れてしまっていた。

 それでもなお、目の前に居る王様はまるでそれが外せない固定イベントのように荷馬車と馬を手に入れろと何度も同じセリフを繰り返し唱えているのだった。


「ふむ。次は馬を手に入れなければならないのか」

「ええ。これは一筋縄ではいかないかもしれませんね」

「もきゅ~」

「せやなぁ~。それにやで馬もただの馬やのうて、暴れ馬らしいですわ。こりゃ~苦労するに決まってますわ」

「…………」


 俺以外の奴らは、馬を手に入れることを話し合っていた。

 荷馬車は王様が用意しており、何故かそれも俺達の目の前に置かれている。


(誰もこの状況に突っ込まねぇのかよ。普通、荷馬車なんかをここに持ってくるものか? それに俺達には既にドラゴンが二体仲間に居るってのに今更馬を捕まえようだなんて、無駄なんじゃねぇのか。それに暴れ馬の居場所が判ってるなら、荷馬車をくれるついでに捕まえて来てくれるとありがてぇっての!)


 本来なら必需イベントなはずであるが、さすがに消化イベントへと成り下がっているため、俺はどこか上の空になりながらその場に佇んでいた。

 そうしてあれよあれよという間に馬を手に入れる話となり、俺達は一路街を出て東の森とやらへ向かうことになっていた。だが街を出るその前に、俺はある人へ今抱いている疑問をぶつけてみることにした。


「なぁシズネさん。少し疑問というか、本当に馬なんて必要なのかな? 俺達には既にジズさんが居るだろ。だから普通に空も飛べるんだから、今更馬なんて必要ないと思うんだけれど……」

「あ~っ。それもそうなんですけどね。一応必需イベントと言いますか、これをしないと次に進むことができないんですよ。ですので、ここは我慢しましょうね」


 そうそのお告げとやらを下した女神様であるシズネさんに言われてしまえば、俺はそれにただ従うことしかできないだろう。


「おお~い、二人ともぉ~遅れているぞ~。早く来ないと置いていくぞ~」

「もきゅ~っ」

「せやで~、お二人が来んとワテも東の森まで乗せて行けまへんやないですか」

「ふふっ。皆さんどうやらやる気のようですね。さぁユウキさんもお早く」

「ああっもう分かったよ! 何も考えずただ付いて行けばいいんだろっ!!」


 俺は促されるままシズネさんの手を取ると、痺れを切らしているアマネ達の元へと急ぎ駆けて行った。

 そして街を出るとこのまま東の森まで歩いてくのかと思いきや、ジズさんがそこまで俺達全員を背中に乗せて連れて行ってくれるとのこと。


 もはや何のために馬を捕まえに行くのか甚だ疑問ではあるのだが、必需イベントと言われてしまえば俺としてはどうすることもできない。


「ぬおっお~~っ!? た、高い高いぃぃぃっっ。ジズさん、少し飛ぶスピードが速すぎるってばっ! このままじゃ俺、落ちちまうよっ!!」

「ふふっ。キミは少し大げさなのだなぁ~。いくらドラゴンの背中に乗っているとはいえ、人がそのように簡単に落ちたりぃ~……っとと、おわっ!! ふぅーっ危ない危ない」

「アマネも勇者のクセに余裕ぶってたわりに危うく落ちかけて、俺の服の裾にしがみ付いて事無きを得て言う台詞じゃねぇぞ」


 俺達はジズさんの背中に乗せてもらったまでは良かったものの実際問題としてドラゴンの背中は人を乗せるようには作られておらず、また表面の皮膚が硬い鱗で覆われているため掴まるところにさえ苦労する始末。

 俺は右翼へアマネは左翼へ……っと、まるでどこかの組織団体を暗に表すかのようになりながらも、振り落とされないよう必死に掴まっていた。


「まぁまぁユウキさん。人間、落ちるときは落ちますからね。それに人間諦めが肝心と言うじゃありませんか。アマネのことは許してあげましょうよ」

「……なんでシズネさんともきゅ子は、この状況において至って平気な顔していやがるんだよ」

「もきゅもきゅ♪」


 見ればシズネさんともきゅ子は俺よりもっと前方ジズさんの頭部付近佇み、どこにも掴まっていないにも関わらず振り落とされる気配すら見受けられない。

 

(シズネさんはチートとして、もきゅ子はどうなんだよ? あんな風を真正面から受ける場所だってのに全然風の抵抗を受けていないっていうのか?)


 何かの加護でも受けているのか、もきゅ子は楽しそうにin the skyを堪能している様子。


「皆さん、東の森に着きましたんでそろそろ降りまっせ~。しっかりと掴まっててやぁ~」

「おわ~~っ!?」

「ん~~~~っ!」


 俺とアマネは急激な下降スピードに翻弄されてしまい、叫びとも耐え忍ぶ唸り声とも判らぬ声にならない声を発しながら確実に迫り来る地面を視界に捉えていた。


(し、死ぬっ!?)


 俺は不思議と自分が死んでしまう光景が脳裏へと映し出され、瞬間的に自分の死を察してしまうのだった。

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