第10話 王への謁見

「さぁユウキさん。いつまでもそのように地面とお友達となっていないで、早く立ち上がってくださいな」

「えっ? でも自由になれない……って、いつの間に足が退かされていたんだ?」


 ふと伏せていた顔を上げてみると何故か捕まれていたはずの足から解放され、自由に動けるようになっていた。


「人間ヨ……」

「こ、声? これってまさかコイツの声……なのかよ?」


 そして漆黒のドラゴンがこちらへと顔を近づけ、そう語りかけてきた。


「そうですわ。すんまへんでしたなぁ~兄さん。アンサン、姫さんのことイジメてたんやのうて、助けてくれはったんそうやな。ワテはてっきり逆や思うてましたわ」

「はぁ~っ!?!? そんな姿なりなのに、いきなり陽気な関西弁を喋るのかよ。こっちのイメージ総崩れだぞ! そもそも姫さんって一体何のこと……って!? わわっ! あ、ああなんだお前のことなんだな?」

「もきゅもきゅ~~♪」


 見れば俺の右足には先程の赤い子供ドラゴンが人懐こそうにスリスリと体を擦らせ甘えてきており、どうやらこの子が『姫さん』らしい。


「それでやな兄さん。ものは相談なんやけどな、礼っつうわけやおまへんがワテも兄さんらぁ~のパーティに参加したいんですわ」

「えっ? 俺達のパーティー? それって仲間になってくれる……ってわけなのか?」

「もちろんそうですわ。聞けば兄さんら、魔王討伐しなはるんやろ? それならワテらも力を貸しまっせ! なぁ姫さん?」

「もきゅもきゅ♪」


 一体どこから俺達が魔王討伐の旅をしていると知ったのであろうか、何故か最初からすべてを知っている風にそう言われ俺は戸惑いを隠せない。


「お~っ! このように大きなドラゴンが仲間になってくれるのか! ありがたいことだなぁ~。コイツが仲間になってくれれば馬車や船などの特殊な移動手段も必要ないだろうし、砂漠だろうと足では登れない山だろうと一飛びで超えられるな!」

「ええ、わざわざ馬を捕まえたりする必要もなくなりますね。大幅に時間の短縮になることでしょう。私は賛成ですよ」

「いや、ちょっ……なんで二人とも、もう仲間になってる風にトントン拍子に話進めていやがるんだよ!? 全っ然っ意味分からねぇよ」


 何故か俺を除け者にして、アマネもシズネさんも既にドラゴン二体が仲間になっている体で話を進めている。


「まぁまぁ兄さん、そない興奮せんと。世の中はなぁ~、矛盾だらけなんですわ。理不尽なことや摩訶不思議なことが罷り通る……そういうものなんでっせ」

「そ、そう……なのか? いや、でも……」


 未だ理解が追いつかない俺を諭すかのように、肩にその大きな羽を有している鋭い爪が付いている右手を添え優しく語りかけてきた。


「あっちなみにワテは冥王のジズいいまんねん。そしてこっちの姫さんはもきゅ子と言いますわ。よろしゅう頼みまっせ!」

「ジズさんにもきゅ子だな。…………よろしく」

「もきゅ? きゅ~っきゅ~っ♪」


 もはや考えるだけ無駄なのだと悟りに悟った俺はこの状況と新たに仲間となってくれた二人……もとい二体の名を呼び、もきゅ子の頭を撫でてやる。

 どうやらこれがこの世界なりの歓迎というか、併合の仕方なのかもしれない。ふと周りが気になり見渡してみれば、こんな街中に巨大なドラゴンが出現したにも関わらず住人達は普段どおり何食わぬ顔でその横を通り過ぎ、干渉しない形で日々の生活を普通に過ごしている。


 やはりゲーム世界とはどこまでも都合の良いように出来上がっているのだと確信した。


 こうして心強くも見た目も強そうなジズさん、そして見るからに癒し系で愛らしいもきゅ子を仲間にした俺達は一路旅を続けることになったのだが、一応その前に新たな目標を得るべくお城に向かい王様から女神様の神託という名の『お告げ』を授からねばいけないとのこと。

 それについては特に異論もないので、街を出る前に街でも一際大きな建物であるお城へと向かうことになった。


「しかし、こうして見るとでっけえなぁ~。これが王様が住むっつうお城なのかよ?」


 その場所は街の北側、マップで言うとちょうど真上に位置する場所である。

 これまたテンプレートではあるが、一応城の周りには他者の侵入を阻むべく外堀がされており、その中を水が流れ真正面に存在する城の正門と街とは木で作られている大きなつり橋で繋げられている。


「ユウキサン、いつまで眺めているのですか? 早く中へ入りますよ」

「ああ、ごめんごめん。今行くから」


 田舎者丸出しで俺は城の外観を眺め感想を漏らしていると仲間達は我先へと既に城の中へと入っており、シズネさんが俺のことを呼びに戻って来てくれた。

 俺は慌てながらに駆け出し、城の中へと入って行く。


 ダッダッダッダッ。

 不思議なことに城の中へと入ると目の前が真っ暗闇となり、駆け出すようなBGMが耳元で鳴り響いてきた。……というか、アマネ以下シズネさん達が口ずさんでいるのはもはや気のせいだと思い込みたい。


 そしてもちろん城の中の移動も外フィールド同様、一列に並びながら歩くというのが基本だった。

 アマネを先頭にシズネさん、俺、もきゅ子、殿にジズさんという陣形である。


(一列に並びながら歩くっつう道理が納得できねぇんだけれども、それよりもジズさんはどうやって人間用の正門から中へと入れたんだよ? 見た目のとおりドラゴンなんだから、魔物って認識じゃないのか? それなのに普通に城の中に入れても良いものなのかよ?)


 物語が進めば進むほど、俺の疑問は尽きなかった。

 いや、むしろ加速度的に疑問は更なる疑問を呼び、ついには解決されないまま物語は進んでいる。


「おおっ! 勇者とその一味よ。よく来たな」

「ああ、来てやったぞ! ありがたく感謝するのだな」


 この国の王様とやらに謁見するはずなのにボディーチェックどころか一切呼び止められることなく、普通にストレートで王様が座っている王座まで来てしまった。

 そして何故だか勇者の仲間であるはずの俺達のことを王様らしき人からまるで盗賊のように呼ばれ、アマネもまたそれに負けないほどに偉ぶっている。


「それで勇者よ、旅は進んでおるか? そうかそうか……それは辛いことがあったのぉ。だがなその一味よ、本当の苦難はこれからが本番であるぞ」

「いや、何にも話ちゃいねぇのに強引に話を進めるんじゃねぇよ」


 俺達の声が一切伝わっていないのか、王様は独り語りのように勝手に話を進め納得し頷いている。

 あとその苦難とやらはどうやら勇者以外に訪れる手筈なのかもしれない。

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