第9話 ドラゴン襲来!
それからも俺達は次々に街中にある家々へと押し入り、時には施錠されている家でさえもシズネさんが持ち合わせていたというマスターキーの名の元に神の慈悲を与え続けていった。
まぁぶっちゃけ扉をモーニングスターのトゲトゲとした鉄球で撃ち砕き強引に押し入っただけなのだが、まぁそこは女神様の加護という体で見なかったことにしようと思う。
「いやぁ~、結構な量の物資が集まったな! これならば暫らくは旅を続けることができるだろうとも♪」
「ええ、ゴミも積もればやがて廃棄となる……みたいな感じですね~。くくくっ」
「おおっ! シズネは上手いことを言うのだな。あ~っはっはっはっはーっ」
「…………(ぼそりっ)なにがだよ」
アマネとシズネさんは強奪してきた山と聳え立っている物資を目の前にすると、商人から賄賂を受け取る悪代官に負けないくらいの悪い顔をしながら高笑いをしている。
俺でさえ最初こそ他人の家に押し入りことに抵抗こそあったのだが三軒目以降は常識という名の感覚が麻痺してしまったのか、とにかく家中にある金目の物や食べ物を強奪することに精を出す。
「やーいやーい。悔しかったら、大人のドラゴンを連れてきてみろよ~っ!」
「これは……子供の声だよな? 何かごっこ遊びでもしていやがるのか?」
ふと物資を金目の物とそうではない物と分別している最中、どこからともなくそんな声が聞こえてきたため導かれるように俺はそちらへと足を向けることにした。
そうして通りに面した道へと差し掛かると、何故か街の真ん中で数人の子供達と共に赤く丸まっているものが目に入ってくる。
「ほ~らほ~ら、お前も魔物なら魔王を連れてきてみろってんだ! コイツめっ! コイツめっっ!!」
「も、もきゅ~~~~っ。きゅ~きゅ~っ」
「あれは……っ!? コラーッお前達っ! そこで何しやがってるんだっ!!」
「やっべっ! 逃げろーっ!!」
「逃げろーっ!」
よくよく見てみればその赤いモノとは何かの魔物のようで、街の子供達は棒切れ片手に無抵抗のその子をイジメていたのだ。
その光景を目の当たりにした瞬間、俺は居ても立っても居られずに大声を出し走り向かっていくと悪ガキ共は蜘蛛の子のように一目散に逃げ惑って行ってしまう。
「まったくまだ子供だってのにひでぇことしやがりやがって……おいお前、大丈夫か? どこか怪我はないか?」
「もっ、もきゅ~っ?」
ソイツはまるで俺の呼びかけに応えるように振り返り、身を守るため伏せていた顔を上げる。
大きめのアーモンドを横にしたようなその瞳には今にも溢れ出しそうな涙が溜まっており、自然と頬をツゥーっと流れていき地面を濡らしていく。
「コイツ……まだ小さいけど、もしかしてドラゴンなのかな?」
体全体は赤くどこかすまなそうに垂れ下がった耳と小さくも白い角、それと背中にはまだ小さいながも羽が生え揃いお尻には尻尾が付き、手足の先には何者をも切り裂かんばかりの鋭い爪が生え揃っている。
どこからどう見てもそれは俺が知っているドラゴンの姿そのものであった。
「とりあえずアマネかシズネさんを呼んで……」
「きゅーっ! きゅーっ!!」
「わわっ! 急に鳴き出すのかよ?」
いきなりソイツは空に向かって鳴き出した。
それはまるで助けを求めるように聞こえてしまう。
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「ぐあぁぁぁっ! 耳、いてぇ~っ!! 一体なんだってんだぁ~? って!?!?」
鼓膜が破れんばかりの咆哮が空より降り注ぎ、俺は思わず青空覗く空へと耳を塞ぎながら顔を上げてみた。
するとそこには漆黒の体に身を包み、その大きな体とともに太陽を覆い隠さんばかりの大きな羽を広げたドラゴンが空を舞っているのが目に入ってきた。
「ど、ドラゴンっ!? それもそこいらの家なんかよりも断然大きいやつ! もしかしなくてもコイツを助けにきやがったのか!?」
「ぐおおおおおおおおおおっ!」
俺のその問いかけに応えるようにソイツは再び大地を、そして空気を引き裂かんばかりの咆哮を唸り出し俺達が居る場所に一目散に向かって飛んで来ている。
ドッシーーーーーン!!
そしてレンガで舗装されている道を破壊しながら、俺の目前へと優雅にも舞い降り立った。
「もーきゅーっ!」
「がぁがぁ……がるるるるるる」
「や、ヤバイ?」
赤い子供ドラゴンが駆け寄ると漆黒のドラゴンは寄り添いそして鼻先で撫で慰めている。
けれどもふとその子の頬には涙が流れたあとが見られ、「この子を泣かせたのはお前だな?」というように声を上げずに唸り上げている。
その赤く鋭い目は今にも食い殺さんばかりの怒りと憎しみと殺気に満ち溢れ、近距離で睨まれている俺は頭の中が真っ白となってしまい、この場から逃げ出すという選択をいつの間にか見失ってしまうのだった。
「ユウキさんっ、その場で死んだふりです! さぁお早くっ!!」
「ぐっ!? ええい、ままよっ!」
どこからともなく聞こえ響き渡り伝わったその言葉に従うよう、反射的にヘッドスライディングを決め込む覚悟で前のめりに倒れ込む。
「おがふっ! ぐごごごごごごっ……」
だがしかし、勢い余ったため鼻先を潰し額をレンガに強打し、そして顔全体を砂の鑢で削らんばかりのダメージを負ってしまった。
でもこれでドラゴンからの攻撃を回避できれば御の字というもの。俺は喜びと恐怖心に苛まれながらも「俺はレンガだ俺はレンガだ……」っと、まるで呪文のように意味不明なことを唱えながら道路と一体と化すことに徹する。
(大丈夫。野生のクマさんにも通用する手段なんだから、いくら高尚で知的な種族のドラゴンと言えども手出し……は~おぉぉぉぉぉおっ!! ぐはりっ! い、一体何が起こったんだ!? ……っつうか、俺さ、ただいま漆黒のドラゴンの前足に頭を鷲掴みにされてるんですけど……)
そうやはり……とも言うべきなのだろうか、いくら万能な行為である死んだふりとはいえ、今の今まで動き目の前で倒れこんだだけで自分の存在を
むしろそれどころか俺の頭は左足の餌食となりながらも何故かその足先には力が込められてはおらず、まるで鋭い爪が鉄格子のように頭を包み込んでいる状況である。
たぶんすぐには殺さず捕獲し、子供ドラゴンの恨みを晴らす目的で嬲り殺すつもりなのかもしれない。
もしくは辱める目的で今は生かされ食い殺されてしまうのだろうか……いずれにしろ、俺の運命はここまでなのだろうか?
(そもそも俺ってば、この世界の魔王様なんだよな? それならもしかすると……)
俺は最後の望みをかける意味でも、ドラゴンに向けこう言い放ってみることにした。
「お、おい。この足を退けろ。実は俺、お前達の主の魔王なんだぞ! こんなことしていいと思ってるのかよ? ええっ、おい?」
「がーっはっはっはっはっ」
……何故か知らないが、俺は漆黒のドラゴンに盛大なまでに笑われてしまっている。
たぶんなのだが自分達を束ねるはずの魔王という立場にも関わらず、こんなにも容易く地面に平伏しながら頭を餌食にされているor俺が魔王じゃなかったというオチを察しているから笑っているのかもしれない。
「はーっはっはっはっ。そのような滑稽な姿を我らへと晒しながら、よくもまぁ自分は魔王様だと言えたものだな! 笑いすぎて片腹痛いわ」
「くくくっ。やはり童貞だから妄想癖が激しいのでしょうね。その恰好のとおり、なんとも哀れですねぇ~」
俺の頭上すぐ傍からの罵り声、それも右と左とに分かれステレオ音でのディスり声が聞こえてきている。
「…………何してんだよ、アマネにシズネさん」
「おや、さっそく私だとバレてしまったのか? いやぁ~悪い悪い……つい、な♪」
「ええ、ですです。つい……なんですよ♪」
「な~にが“つい”なんだよ……もうほぼほぼ確信的じゃねぇかよ。お前ら勇者とそのお供なんだよな? 何で敵側の……それもドラゴン側についていやがるんだよ」
その声の主達は漆黒のドラゴンと子供ドラゴン……ではなく、何故だか俺の仲間達が発しているという摩訶不思議な状態に陥っている。
無自覚というか無慈悲というか……どちらにせよ、今この場において俺の味方をするものは存在し得ないらしい。
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