第8話 他人家demo家捜し
「旅支度も早々に済ませるとして、今日は一体何をいたしましょうかね? またレベル上げでもいたしますか?」
「うーん。昨日のほとんどで街周辺にいるスライムを狩り尽してしまったからな。勇者であるこの私もそろそろ別の魔物を倒してみたいところではあるのだが……」
「そのさ、シズネさんにアマネ。俺に提案があるというかなんというか……今日は街の中を探検っつうか、探索をしてみないか? ほら、俺ってばまだこの街のことよく知らないし……駄目かな?」
「うん? 街中をか? ああ、そういえばキミは別の世界から来たのだったな。私はそれでもいいぞ。勇者の身とはいえ人間なのだから、たまにはのんびり休息を取るのも悪くないだろう。シズネはどうだ?」
「そうですね……余興としては面白い試みかもしれませんね!」
シズネさんの余興という言葉が嫌に引っ掛かりもしたのだが、とりあえず今日一日は街中を探索することになった。
もっとも俺としては喉がカラカラに渇き、何か食べるものがないのかとの切実たる思いのためである。
「それでは手始めとして、まずはこの宿屋から始めるとしましょうかね♪」
「おーっ! 私も勇者として勇ましい家捜しをするぞ~♪」
「お、おーっ?」
「お二人はそこら辺にあるタンスや本棚、それとツボの中などを重点的に探ってみてくださいね。家主が隠しているヘソクリや思わぬお宝やまた薬草などの物資が隠されている場合がありますので、根こそぎ戴くといたしましょう♪」
若干俺の思い描いていた探索とは異なる主旨ではあるが、とりあえずレトロRPG名物である他人家
ちなみに『家捜し』とはその名の通り、家主の許可を得ずしてまるで盗賊(現代における泥棒の地位)の如く物資を探し当て強奪することを指す言葉であり、一応俺達は魔王を討伐する勇者を引き連れている身ではあるが、所持金の心許無さと物資の少なさから、手っ取り早く稼ぐ方法として他人の家の財産を強奪することになったわけだ。
シズネさんは部屋にいくつかあるタンスを、アマネは壁際にある本棚を、そして俺はツボを重点的に探索している。
(これもRPGの名物というか、外しちゃいけない事柄だよなぁ~。本来正義の味方である立場の勇者が盗賊の真似事をする。実際自分がしてみると悲しいことこの上ないけれども、仕方ないよな……)
俺は水か食べるものがないのかと必死になって探すのだが、生憎とツボの中身はからっぽばかりである。
そこでふとシズネさんの様子を見てみれば、タンスを下から順番に開け一つ一つ中を調べているようだった。
これは泥棒のプロがする常套手段であり仮に上から開けてしまった場合、イチイチ上の部分の棚を閉めなくてはならず余計な手間がかかることになるわけだ。
だが下から順番に開ける場合には既に調べた棚を閉める必要がなくなり、素早く探索をすることができる。
(なんでシズネさん、プロみたいな開け方を知っているんだよ……ま、俺も知っている時点でアレなんだけれどもさ)
「ちっ……この家はほんっっっとに何にも無い場所ですね。ったく、こちとらの事情を察して金でも置いておいてくれればいいものを。腹いせにツボでも割ってやりましょうかね……」
「ははっ……し、シズネさん……ほ、程ほどにね」
何も見つからないことへの苛立ちなのか、シズネさんは怒りに満ち溢れツボなどの家の備品等を破壊しようと口にしている。
さすがに俺もそこまでの気持ちを抱くことはないが、何にも見つからないと正直意気消沈しているのは事実だった。
「お~っ! 本の間に紙幣が挟まっていたぞ。額面は……5シルバーだな」
「おっ、金を見つけたのかよ? やったなアマネ」
「ぬぬぬぬっ。私も負けていられませんね」
俺達はもはや勇者様一行どころか、むしろ盗賊様ご一行へと成り下がっているのかもしれない。
だがしかし、これはRPG序盤における通過儀礼というもの。むしろ「これを行わなくて何がRPGなのかっ!!」っとゲームユーザーから苦情が殺到するほど、この行為は絶対的なのだ。
(……そう思わないとやってやられないしな。にしても、本当に俺達が家中を隈なく調べてるっつうのに家主は何にも言わないんだな)
一応確認のために俺は宿屋の店主へと声をかけてみたのだったが、帰ってきた返答は「お一人様3シルバーになります」とか「昨夜はおたのしみでしたね♪」などお決まりのセリフのみであり、唯一違ったことといえばカウンター裏へと回り込み話しかけた際に「お客様、こちらに入られたら困りますよ」っと言われたくらいだった。
目の前で行われている略奪行為が目に入らないのか、それとも元の設定のみしかセリフを吐き出せないのか、視界に入っている俺達のことを一切咎められることも無く、宿屋の探索はものの10分ほどで終えた。
「さて、この宿屋はシケていやがるので、次は別の家へと押し入りましょうか♪」
「ああ、そうだな。ここではこれ以上何も得るものが無いようだ。だが私もようやく要領は理解できたから、この次はもっと早く略奪することを心がけるぞ♪」
「…………マジかよ」
シズネさんもアマネもまた一切悪びれるどころか、むしろ物資の少ない宿屋をディスると「早く次の家に押し入ろうぜ♪」っと親指をサムズアップしながら、誘われてしまう。
……この物語、ほんとに大丈夫なのか?
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