第7話 ゲーム世界はご都合主義が基本です♪
それからも俺達は数時間ほどの間、街周辺にいるスライム狩りをしてレベル上げをしていた。
もっとも俺もアマネも戦力として数えることができないので、あくまでもスライム達を逃がさぬよう牽制することに徹し、そのほとんどをシズネさん一人に頼りきりにしてしまったことは言うまでもない。
そうしてアマネのレベルがようやく『5』になったところで日が暮れ始めた頃、シズネさんから夜になるとスライムよりも強い敵が出てきて危険なので休息も兼ねて街へと戻ることになった。
「あったたた。所々に打撲の痕が多数と肩や足の筋肉痛が酷いもんだな」
「今日は頑張ったからな! 思う存分よく食べよく眠り、明日に備えようではないか!」
休息といってもその辺で野宿するわけにもいかず、三人で宿屋へ泊まることにした。
もちろん宿屋なので無料とはいかない。一人当たり3シルバーの料金を支払い、今ようやく六人ほどが泊まれる宿屋唯一の客室と言ってもいい部屋へと案内されたところである。
(にしても全員同じ部屋なんだな。宿屋なのに部屋が一つしかないことにも驚きだったけど、旅する仲間とはいえ男女一緒の部屋だなんて思いもしなかった)
やはりそこはまだ序盤と街ということなので小さな宿屋が一軒しかないため、選ぶに選べない状況。
だがアマネもシズネさんも慣れているのか、それについて文句一つ口にせずに装備している武具や荷物を自分のベッド周辺に降ろすと、普段着のままでベッドへ横になりはじめた。
「あっ蝋燭が勝手に消えちまっ……」
その瞬間、部屋を照らしていた唯一の光源である蝋燭がふっと消え去ってしまう。
でろでろでろでろででーん♪
「何でだよ!! 何でこの場面で呪われるBGMが部屋全体に響き渡っているんだよ!?」
『チュンチュン♪ チュンチュン♪』
「ふわあぁ~っ。昨日は久しぶりに疲れたせいか、よく寝たなぁ~。みんなおはよう~♪」
「はい、おはようございます」
「……はっ? お、おはようって……ってなんじゃこりゃ!? 何でさっきまで真っ暗闇の夜真っ盛りだったのに、もう夜が開けちまって小鳥が囀りまくっていやがるんだよ!!」
そう呪われるBGMが終わったその途端、周囲が明るくなり小鳥の鳴き声が響き渡るとほぼ同時にアマネとシズネさんがベッドから起き出してきてしまったのだった。
「キミは先程から何を騒いでいるのだ? 朝っぱらから騒々しいなぁ~」
「ふふっ。アマネ言ってあげないでくださいよ。きっとユウキさんは昨夜はお楽しみだったから今朝はテンション上げ上げになっているんですよ♪」
「おおっ! そ、そうだったのか……それは野暮というか、私の配慮が足らないみたいだな。すまない」
「…………なんで?」
ベッドに横になって僅か1、2秒ほどしか経っていないにも関わらず、夜が開け朝になってしまったというのにアマネもシズネさんも疑問に思ってはいない様子。
「うん? 何がだ? 何か疑問でもあるというのか?」
「おや、どうかされたのですか?」
「いや、そのね二人とも……昨日って二人は眠ったことになってるわけなの?」
「う~ん? キミが何を言いたいのかよく理解できないが、昨日はちゃんとたっぷりと眠ったぞ。それに夕食や入浴もちゃんとしたじゃないか……もしかして覚えていないのか?」
どうやらアマネの中では、ちゃんと宿屋に泊まり夕食を食べ入浴して睡眠までとったことになっているらしい。
俺は愕然とした表情で「もしかして俺、若年認知症でも患っているのかな?」っと思っていると、シズネさんが寄り添い俺に聞こえるほどの小声でこう口にしてくれた。
「(ユウキサン、これは“あくまでもゲーム”なのですよ。だから描写不足と思われるかもしれませんが、アマネの中ではちゃんとした生活をしていることになっているんです)」
「あっ……そ、そうか。そういうことなんだ……げ、ゲームの世界だからか」
俺は間抜けにもこの世界があくまでもレトロゲームをモチーフにしていることをすっかりと忘れ去ってしまっていた。
確かにRPGの宿屋では、入浴するシーンは愚か食事をするシーンの描写なんてものはなく、ただベッドで横になり数秒間眠るともう次の日の朝となる……それが一般的な設定であり、デフォなのである。
(でもそうすると、昨日から続いている俺の体の疲労感と空腹感や喉の渇きのリアルさはどう説明されるんだ? もしかして俺だけハブかれてんのかよ?)
そのことをシズネさんに伝えると「ああ、そうかもしれませんね。ぶっちゃけユウキさんは異質な存在というか、魔王様なので衣食住どころか水すらも与えなくても生きていけるんじゃねぇの? っとの製作陣営の思惑からハブかれているのでしょうね(笑)」などと何故か笑いながら言われてしまった。
どうやら俺は壮大なるイジメに見舞われてしまっているようだ。
このままリアルに食事どころか水すらも飲めないというガチで数日しか生きられないかもしれない恐怖心と戦わなくてはいけないらしい。
もしくはその前にアマネに魔王を討伐してもらうしか方法がないのかもしれない。
俺は脱水症状で死ぬか、それとも勇者に倒されるかという究極の自殺願望志願を製作陣営から余儀なくされているようである。
「…………井戸の中を調査するついでに、わざと転んで水でも飲まないと死んじまうよな」
口の中がカラッカラに渇き始めているとの自覚心から、ガチでそう思い口走ってしまうことしかできなかった。
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