第5話 ありがちな設定乙

 そうしていかにも古めかしい昔懐かしいRPGの世界の街並みを眺めながらも俺達は一路武具屋へ向かうこととなったわけだが、やはり……とも言うべきなのか、街行く人達へ試しに声をかけてみると「ここははじまりの街だ!」とか「武具は装備しないと意味がないぞ!」など、モブキャラ達は何度聞き返しても同じセリフしか口にしなかった。


 そのことを試しにシズネさんに質問してみたところ、「ああ、それはそうでしょうね。彼ら生涯その命尽きるその日までずっと同じことしか口にできない。それが彼らの運命さだめというものですから……」っと何食わぬ顔で平然とそう言われてしまったのだった。


 それが容量的な問題なのか、もしくはゲームの演出上なのか、普段何気なく遊んでいる身では自覚できなかったのだが、実際こうして言葉を交わしてみるとそれはあまりにも残酷なことなのだと俺は改めて思ってしまう。


「わーいわーい♪」

「待て待て~♪」

「おっ! 街の中央には噴水があるのか。しかもゲームにありがちな子供達が無邪気にも噴水の周りを走り回っている、こんなシチュエーションも何気に雰囲気を醸し出してくれて大事だよなぁ~」


 街の北東、マップで言うならば右斜め上にある教会を出るとすぐに街の中央付近にある大きな噴水と、その周りを走っている幼い男の子と女の子が目に入ってきた。


「そうですね……あの子供たちは朝起きるとすぐに噴水の周りをずっと走らされ日が暮れると家に帰り、次の日の朝にはまた走らされる。あの子達は大人になろうがおじいちゃんおばあちゃんになろうが命尽きるその日まで、永遠にその繰り返しなんです」

「え、永遠に!? それって本当なの!?」

「はい」


 シズネさんは顔色一つ変えずにそう言ってのけた。

 俺はその事実を聞いてしまい、その驚きと戸惑いから何気なく子供達の足へと目を落としてしまう。すると太股付近の筋肉の付き方を見るに、遠目からでもアスリート顔負けのすっげぇムッキムキな筋肉していた。


(今のってマジ話なんだな……。た、確かにゲームの主人公達がその後序盤の街を訪れると良い年頃の青年と女性とが仲睦まじく子供のように走り回り、更に終盤になって訪れるとお年寄りになってもストーキングしていたよな。アレってこの設定のせいだったのかよ……)

 

 俺は今更ながらに昔のゲームの残酷設定に恐怖心を抱かずにはいられなかったが、どうすることもできないので放置することにした。


 そして街の南側、ゲーム画面ならば下に存在するこの街唯一の繁華街へとやって来た。

 中央通りを基点に左右対称に店が立ち並び、向かって右側の建物の入り口にはベットが描かれた店……これはいわゆる宿屋があり、そして反対側には剣と盾が描かれた武具屋とともに茶色の麻袋のようなものが描かれた道具屋の立て看板が目に入ってきた。


「おおおおっ! こっちが宿屋で反対のが武器や防具を扱う武具屋と道具屋だな。やっぱり看板には文字じゃなくて、絵が描かれているんだな」

「そうですね。庶民の中には文字が読めない人も少なくありませんので、そんな人達にも一目で理解できるようにとの配慮でしょうね」


 どうやらゲームの世界とはいえ、庶民の暮らしや教養レベルについてまでも設定というか時代背景として考慮されているとのこと。

 

(現実世界だと何気ないことだったとしても、中世をモチーフにしたこんな世界だとシビアな設定が緻密に組まれているのもんだな)


 俺はシズネさんのそんな説明と世界観や設定に感心しながらも、とりあえずの目的地である武具屋へと入っていく。


「コンニチハーッ! アナタの街の勇者アマネでーす♪」

「(うるさっ! アマネってば、なんで店に入るだけだってのにこんな元気良く挨拶なんかしちゃってるんだよ)」


 アマネの前に居た俺の左右の鼓膜はそんな騒音とも見紛うばかり挨拶の餌食となっていた。


「…………」


 だがしかし不思議と店の主が留守にしているのか、来店の挨拶もないまま俺達は入り口前にあるカウンター前へと三人揃って立ってみる。

 建物の中は武具屋と道具屋との二つのカウンターへと分かれており、一応仕切りで区切られ買う場所が別々になっている。だがどちらの店もカウンターの中は空っぽで人っ子一人居ない。


「留守なのかな? ……ってシズネさん!?」

「はいはい。こちらは武器屋&防具屋『凶器と狂気が入り乱れる憩いの場:のんびり亭』になります。お客様、何かお買い求めでしょうかね?」


 シズネさんは何を思ったのか、ズカズカっとカウンター横にある入り口から中へと入り込むと、なんとまるで店の主のように振る舞い出したのだ。

 一体これはどういうことなのだろうか……俺は気が気でないので、思い切って質問してみることにした。


「……シズネさんが店の主をしている……ってことでいいのかな?」

「ええ、そうですよ。ぶっちゃけ容量の観点から人員削減リストラを執り行い、その皺寄せがこうした形となってしまったんです。ほんっと、いい迷惑ですよね~」


 どうやら人手不足のため、シズネさんが店の主代行をしてくれるとのこと。

 いいのかこれで……勇者であるアマネはなんとも思わないのだろうかと、恐る恐る彼女のほうへと視線を差し向けてみた。


「ふーむ。店の主よ、この武器なのだが、もう少し安くはしてくれまいか? 私はこの街の……いや、この世界を救うべく存在の勇者なのだぞ! だから安くしてくれっ! 頼むっ!!」

「えーっ。いくら貴女が勇者とはいえ、値切られるのはちょっとぉ~。てゆうか、勇者なら勇者らしく勇ましく値切らずに買ってくださいよぉ~。むしろ定価の割り増しで買いやがれっ!!」

「…………」


 どうやら俺の懸念は杞憂どころか、むしろ取り越し苦労のようだった。

 アマネは相手が自分の仲間であるシズネさんだというのに自分が勇者であると述べ偉ぶり、最後には泣き落としで普通に商品を値切ろうとしていた。


 だが、生憎とシズネさんの前の敵ではなかった。

 むしろ勇者であることを逆手に取られてしまい、「勇者なら……正義を貫くものならむしろ割り増しで購入しろよな!」と普通に脅されている。


(武具屋の店主がこれから世界を救う勇者のこと脅すかよ普通……ありえねぇよ……。あとシズネさん、アンタ最初から思ってたけれども口悪すぎだろ)


「それなら私はこの剣をいただこうかな!」

「それですと定価の二割増しで……150シルバーになりますね」

「それならこれで」

「はい、まいどありがとうございま~す♪ くくくっ……ボッタクリの商品とも知らずに購入してしまうとは(笑)」


 そんな俺を尻目に、どうやらアマネは洋剣ロングソードを購入した様子。

 しかもシズネさんは客が目の前に居るにも関わらず、不敵笑みとともに言ってはいけないことを口走っているが、見てみぬ振りをしておこう。


 一応言語適正化カテゴライズされたアマネのステータスを興味本位で見てみると、そこには『銅のつるぎ』の名前ともに横に※印しが記されており、購入した商品がちゃんと装備されているようである。

 それからもアマネは鎧や兜など安物ではあるものの、勇者らしい物を購入して魔物との戦いに備える。


 一方俺はというと、たぶん戦闘時には後衛でアマネに指示を出すだけの役割だと思い込み、特にこれといって武具を購入することはなかった。

 もっとも魔王という役職なのだから、何かしら秘めた魔法でも備わっているのだろうっと安易に考えていたのだった。


 それから同じ建物内の武具屋隣にある道具屋『置いてないものは無い! すべてが揃う死の商人の館。道具屋:マリー』へと足を向けることにした。

 そこでも当然のことながらシズネさんがカウンター裏へと回り込み手馴れた様子で接客をしてくれたため、俺達は移動中や戦闘時に役立つ薬草などいくつか購入するだけに留まった。


 若干というか店名に疑問を覚えることもままあったのだが、そこは敢えて気にしないことに努めることにする。じゃないとこちらの精神が持たないためである。

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