第4話 異世界のモチーフはいつも昔のRPGが基本です
「そういえば自己紹介がまだだったな。私の名前はアマネ……勇者アマネだ。一応女神様の祝福を受けた身であり、この世界の住民の中から唯一魔王を倒す的存在として選ばれたものである!」
「あっ、どうもこれはご丁寧に。俺は魔お……いや、ユウキってんだ。役職っつうか、この世界とは別の世界からやって来た“ただの一般市民”になると思う。よ、よろしくな!」
「うん? キミは別の世界からやって来たのか!? うーむ、なるほどな。確かに見たことのない服装をしているな。この素材もどうやら綿や絹とも違うようだし……うむ。それなら納得できる!」
危うく自分がこの世界の魔王様だと、魔王を倒すべく旅をしている勇者に言ってしまうところだった。
一応素性を隠しつつも、慌てて自分がこの世界ではない別の世界からやって来たことを告げるとアマネは俺の背格好をじっくりと観察し、制服の袖を手にしてその手触りと材質からこの世界の住人でないことを頷きながら納得している様子。そして「もしかして女神様が召喚するという、救世主なのかな?」などと呟いたりもしていた。
(あぶねーあぶねー。つい自分が討伐対象の魔王様だって、勇者であるアマネに告げちまうところだったぜ。でもまさかこんなときに寝落ちして着替えそこなった学校の制服が役立つなんて、夢にも思わなかったなぁ~)
俺が冷や汗を掻きながらどうにか誤魔化すことに成功すると、今度はシズネさんがズイっと一歩前に出て自ら自己紹介を述べ始める。
「私の名前はシズネです。一応この世界の管理人や司祭などを司るありがた~い存在です。ちなみに魔法も使えるので魔法使いとの兼任もしております」
「っということは『魔法使い』と『僧侶』の役割なのだな! これはありがたい。正直、私一人ではどうにも思うように旅が進まず、スライム一匹にでさえ苦戦していたところなのだ。二人とも、是非とも私の仲間になってはくれまいか。頼むっ、このとおりだっ!!」
シズネさんが自ら司祭と魔法使いだと名乗り上げるとほぼ同時に、アマネは役立つ仲間がついに自分の前に現れたのだと喜び震えている様子。
そして俺とシズネさんを仲間にしようと頭を下げ頼み込んできていた。だから俺もそれに感化されてしまい、迷いなくこう答えてしまう。
「ああ、もちろんだっ! 戦闘には参加できないかもしれないけれども、これからよろしくなアマネ!」
「本当か? ほんとのほんとに私の仲間になってくれるというのだな! ありがとう♪」
「はぁーっ。やれやれですね。それでは私もユウキさんと落第勇者のお目付け役として、貴方達の旅に付いていくことにしましょうかね。ほんっと、面倒くさいったらありゃしません」
シズネさんも呆れながらの溜め息交じりに俺に続く形でアマネのそう伝えると、仲間になってくれたのだった。正直、チート的存在のこの世界の管理人兼女神様が仲間となった時点で、俺達の勝利は100%と言っても良いほどであろう。
こうして俺達は勇者とともに魔王を倒す旅に出ることになってしまったのだが、その場の勢いとは、とても恐ろしいものである。
俺は自分が魔王である立場も忘れてしまい、思わず勇者の仲間になると頷き握手までしてしまったのだ。本末転倒とはまさに今の俺のために用意されていた言葉と言っても過言ではないのかもしれない。
「お二人とも、まず最初に何をいたしましょうかね? ちなみにユウキさんは何か提案はありますか?」
「うーん、そうだなぁ~……RPGなんだから、まずは無難に街周辺でレベル上げが妥当じゃないかな? アマネだってさっき街の外でスライムと戦っていたよな?」
「なんだ二人とも、あの戦いを見ていたのか? 無様にも負けた姿を見られてしまうとは勇者として恥ずかしいなぁ~」
アマネは気恥ずかしさも手伝ってか、情けない姿を見られていたと頬を掻きながら言いづらそうにしている。
「まぁレベルが低い序盤なら負けたとしても仕方ないと思うけどな。それにスライムは物理攻撃が効かないって話だろ? 魔法も使えず魔法使いも仲間にいないんじゃ、アマネが勇者だろうと負けちまうのも仕方ないことだろうな」
「おおっ! キミは何やらスライムにも詳しいのだな? 先程戦闘には参加しないと言っていたが、もし可能ならば参謀として助言をしてはくれまいか? もちろん戦闘は私に任せてくれっ!!」
「あ、ああ。俺くらいで役に立つなら、アドバイスでもなんでもしてやるよ」
アマネは俺のゲーム知識を参謀として見込み、戦いには参加せずとも後衛でアドバイスをしてくれと役割を与えてくれた。
俺としてもたぶん戦闘は無理だろうから、その申し出はありがたいかぎりだったので快く引き受ける。
……とは言ったものの、このまま街の外へと躍り出て魔物と即戦闘! な~んて初歩的な誤りをするのはナンセンスである。
俺はまずアマネの所持金と武器、それに道具類の持ち合わせを確認することにした。
もちろんそれは『己を知り、敵を知れば……』の精神もあったのだが、実際は情報と分析は何をするにも一番大事であると考えての行動だった。
アマネの所持金は王様から魔王討伐にと受け取った1000シルバーほどだったらしいのだが、先の戦闘で負けてしまい女神様に半分強奪されてしまったため、今手元にあるのは500シルバーほどしかないという。
シルバーとはこの世界の貨幣価値の単位であり、アマネに見せてもらった限りでは少量の銀に鉄か何かの金属を混ぜたコイン状のものであった。
そして手持ちの武器や防具を訪ねたのだったが、そこには大きな問題が垣間見えた。
「えっ? 武器と防具は無い……だって? いやいや、アマネ。それならその装備している立派な剣と鎧は何なんだよ?」
「これか? これはそのぉ~……言いにくいのだが、武器ではなくただの飾りなのだ」
「がくっ。ただの飾りって……そんな馬鹿なことってあるのかよ?」
聞けばアマネが右手に持っている立派な剣と着込んでいる鎧は何故か武器や防具として装備はされていなかったのだった。
俺はこの世界の管理人だというシズネさんのほうを思わず見てしまう。そして衝撃的なことを聞かされてる。
「ああ、それはアマネの言うとおりですよ。ぶっちゃけ、そもそも購入もしていない剣や鎧を最初から持っているわけないでしょうに(笑)。ユウキさん、世の中そんなに甘くはないのですよ。ほんっと、甘ったれないでくださいなっ!」
「ま、マジかよ……。俺が今見えてるのって幻覚の類なんっすか!?」
(そんな馬鹿なことってあるのかよ? いや、確かに俺がやっていたゲームでも、何にも装備していないのにキャラのビジュアル的には装備している格好だったな)
どうやらこの世界は昔のRPGをモチーフにしているらしく、アマネの容姿で装備されているっぽいものはただ勇者っぽい格好をしているだけとのこと。
だから武器や防具としては認識されず、アマネはこれまで素手で魔物達と戦っていたことになるらしい。
だがこれでアマネが魔物と戦い、負けてきたことにも理屈は通ることになる。武器や防具を一切購入せずに魔物と戦えるわけがないからである。
俺はとりあえず街にある武具屋へ向かうことをアマネへと進言した。じゃないといつまで経ってもアマネはスライム一匹にでさえ、勝てず延々負け戦を強いられてしまうことだろう。
「ふむ。確かにキミの言うとおりかもしれないな! さすがは私の参謀だなっ! あっははははは」
「そ、そうっすか……はははっ……は」
別に大した知識でもなく、RPGをプレイしたことのある者ならば至って普通のことなのに勇者であるアマネはまるで救世主か何かのように俺のことを褒め称え、大いに笑っている。
俺は複雑な心境と実際大した知識もないことから、乾いた笑みを浮かべることしかできない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます