第3話 神の神器
「ふ、ふぅ~っ。どうにか生きて街まで辿り着くことができたな。にしても、教会に向かっていたのにその建物の壁にぶつかって死んだんじゃ、何しにここに来たのか分からなくなるところだったし」
俺は棺を降りると早々に腰が抜けてしまい、這い蹲りながらみっともない姿のまま地面へと逃げてしまう。
「それではユウキさん。そこの落第勇者を復活させたいと思うので、教会の中へとその棺を入れてくれませんかね?」
「あっ、そこはセルフサービスなんだね」
「ええ、まぁ……あっ、これがロープです。棺の前後にフックがありますので、前のほうに通してください」
俺はシズネさんに指示されるがまま、棺の頭口にある
「ん~~~~~っ。お、おもいぃ~~~~っ」
だがやはりとも言うべきなのか、いくら女の子とはいえ人一人が棺の中に入っているのだ。また棺自体も木で作られているため、相当な重さである。たぶん両方合わせると軽く50キロ以上はあるのかもしれない。
「あっ、やはり無理っぽいですか? じゃあちょっと待っててくださいね。確かこのあたりに……」
俺が引っ張れないと分かると彼女は棺の元へと歩み寄り、何やらしきりに棺周辺を触っている。
「あっ、あった。これだポチっとな♪」
「一体何があったって……って、これ何の音だよ?」
耳をすませれば、何やら棺の下より奇妙な音が聞こえてきていたのだ。
その正体を突き止めるため釣られる形で棺の下を覗き込むと、なんとそこには小さな車輪のようなものが付いているのが目に入ってきた。
「これなら大丈夫ですよね? さぁお早く中へ♪」
「あ、ああ……うん。よいしょっと」
俺は気にしたら負けという言葉を心内に秘め、ロープを引っ張りながら棺を教会の中へと入れて行く。
(そもそも棺って車輪とか付属されてるものなの? いや、楽できるからありがたいかぎりなんだけどね。それにしてもこれはちょっとなぁ~)
先程とは打って変わり棺の下に車輪がついたためなのか、片手でも引っ張れるほど楽になっていた。
そうして教会の中へと運び入れるとやはり神聖の場所なのか、そこはひんやりとした独特の雰囲気に包まれており、初めて教会というものを訪れた俺はどこか神秘的な空気感に圧倒されてしまう。
「ここが教会なのか……。誰もいないように見えるけど」
けれども留守なのか、教会の中には誰も居らず俺とシズネさんが佇んでいるだけである。
そう思っていたのも束の間、何を思ったのかシズネさんが一番奥にある祭壇へと向かうとこう語りかけてきた。
「おおっ旅人よ。我が教会へ何か御用ですかな?」
「…………はっ? え、え~っと、シズネさん?」
いきなり神父と見紛うばかりの風体とともに、そんなセリフを投げかけられてしまった俺は思わず素の反応をしてしまう。
どうやらシズネさんが神父の代わりを勤めるつもりなのかもしれない。俺は一応RPGの礼儀に則り、テンプレセリフを口にすることにした。
「あ、あ、あのっ! 実は勇者が死んでしまったので……」
「ああ、死んだ輩を生き返らせたいからとウチの
「し、シマってアンタ……」
何故だか知らないがシズネさんは教会のことを『シマ』と呼び、ドヤ顔で勝ち誇っている。
(普通シマって、ヤクザが経済支配している場所を指す言葉だよな? なんで女神様とやらがそんな言葉使いやがってるんだよ……。いやまぁある意味、所持金強奪してんだから
そんなことを思い浮かべている俺を他所にシズネさんは言葉を続ける。
「本来なら人を生き返らせるには、それなりの対価が必要になるのですが……まぁ初回特典と今回だけ特別に無料にして差し上げましょうかね♪」
「は、はぁ。初回特典で特別の無料ですか。ありがとう……ございます?」
未だ名前も知らない死んでしまった勇者を生き返らせるための金を要求されてしまったのだが、何やら恩着せがましくも無料で生き返らせてくれるとのこと。
(確か棺になった時に光が差し込んで中からコインを強奪していたと思うのだけれども、あれは生き返らせるための対価とやらとは違うのかよ? もしアレが別料金だとすると……もはやただの盗賊じゃねぇのか)
そんな戸惑いを隠せない俺を尻目に、彼女は何やら祭壇の下をゴソゴソと音を立てながら何かをしている。
何か儀式的道具を用いて復活させるのだろうか……っと思っていた数秒前の俺が居た。
「あっ、よいしょっと! ふぅーっ」
「なっなっ……なななな、なんだよそれはっ!?」
ドゴッーン!!
相当重いのか、床のタイルはその重みにより、まるで白菜の収穫前のようにその丸い球を包み込みながら、へこんでいる。
シズネさんが祭壇の下から取り出したものとは、トゲトゲの鉄球付きの鎖……いわゆるモーニングスターというやつだった。
「ああ、これですか? これは生と死とを司ると……いつか言われてみたい神の神器です」
「か、神の神器……そ、それが?」
「はい♪」
確かにそのトゲトゲしたものでぶん殴られたら軽く死ねるだろうし、そして力加減をすればどうにか虫の息ほど生き残れるかもしれない。
(ある意味でその武器は生と死とを司るかもしれないけれども、それを聖職者……っつうか、女神様とやらが装備しても良い武器じゃねぇんだぞ)
もうこの時点で察しの良いと評判高い俺は、それを何に使うのか大よそ見当が付いてしまっていた。
「さて、そろそろ復活の儀式を執り行うとしますかね♪ いきますよ~♪」
ブンブン……そしてシズネさんは神の神器とやらのモーニングスターの鎖を右手に持ち装備すると、鉄球を軽々と振り回しながら掛け声とともに目標へ向かって力の限り投げつけた。
「そこーーーーーっ!!」
ブン……ドゴッッーーーン!!
見事俺が引いていた棺のど真ん中へとまるで吸い込まれるように鉄球が当たり、上蓋部分が粉々に吹き飛んでしまった。
「し、シズネさんっ!? アンタ何してんだよっ!! そんな死者を冒涜するような……」
「ぷっはぁっ! な、なんだ……何が起こったというのだ? わ、私は生きているのか?」
「ってぇ~~っ!? ほ、本当にあんなことで生き返っちまったのかよ?」
まるで
「き、キミ達が私のことを助けてくれたのか?」
「あっ? ああ、まぁ……な」
「ありがとう! 二人には感謝の言葉しか見当たらないぞ♪」
ブンブンブン。
彼女は目の前に居る俺の両手を力強く握り締めると、振り千切れんばかりに上下に激しく振りながら感謝の言葉を述べている。
「ふふん♪」
「ぐっぬぬぬぬっ」
ふとどうして良いのやら……っと、横目にシズネさんの方へ視線を差し向けてみれば、勝ち誇ったような満面の笑みで自慢げな表情を浮かべている。
それはまるで「どうです? だから言ったでしょ。私は本当に女神様なんですよ♪」っと言いたげでもあり、俺は彼女の思惑にまんまと乗せられていただけだとの思いから唇を噛み締めることしかできなかった。
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