【第1章 はじまりはいつも寝起きから突然に……】

第1話 はじまりはいつも寝起きから突然に……

「……きてください。早く起きてください」

「……んっ? ふぁあぁ~っ。一体誰だよ、俺を呼ぶのは?」


 俺は未だ眠い目を擦りながら、体を揺すり呼びかけてくる女の子にそう応える。


(確か俺は自分の部屋に居たはずなんだけど、この声の主は一体誰だ? 声から察するに女の子のようだけれども……そもそも俺の部屋になんで人が居るんだよ?)


 俺は未だ寝ぼけた頭でそんなことを考え、片目だけ開いてその声の主を見てみることにした。


「あっ、起きられました? おはようございます」

「えっ? あっ、はい。おはよう……ございます? あの失礼ですが……どちらさま?」


 すると目の前には何故か全身黒服に身を包み、まるで魔女が被るような帽子を載せた黒髪の美少女が立っていたのだ。コレと言って彼女との面識はないはずなのだが、それにその格好はハロウィンの仮装コスプレでもしているのかもしれない。


「あっ、申し遅れましたね。私は女神様です」

「………………はっ? め、女神様? キミが?」

「はい♪」


 少女は屈託の無い笑顔どころか、むしろ悪魔が微笑むかのようなニタニタ~っとした不気味な笑いを浮かべており、とてもじゃないが自称女神様には程遠いとしか思えない。


(開口、三番四番あたりでモロバレすぎるほどのネタバレ喰らっちまったんだけど、それに女神どころかその笑顔……完全なる悪魔の微笑みじゃねぇのかよ。この子、見た目だけは美少女のクセに経歴詐称ならぬ役割詐称でもしていやがるのか? そもそも女神様って、自ら名乗るものなの? ただの拗らせに拗らせた痛々しい中二病患者とかじゃなくて?)


 俺はそうそう頭に浮かぶ疑問を他所に、自分が置かれている状況を少しでも把握しようと周りを見渡してみた。すると、そこは草が生い茂る野外であったのだ。


 それもとてもじゃないが一目で、「ここは日本ではない……」と確信できるほどの光景である。


 まるでここは誰かに作られたような世界のように思える。

 そう、言うなればここは……この世界を言い表す言葉は……。


「……異世界。いや、ひょっとしてここは“ゲームの中”なのかな?」

「おっ! よく分かりましたねぇ~、そのとおりです♪ ここは異世界と思いきや、実は低予算で組み上げられたゲームの中で~す♪」


 その考えが当たって欲しくないと思いつつも、少女にそうであると肯定されてしまった俺は「いよいよ自分が物語か何かの主人公になる時が来たのだ!」っと、そこらのラノベ主人公に負けるとも劣らない期待とともに『低予算』という不安を煽りに煽る三文字に対し、少しだけ胸躍らせてしまうのだった。


「もしかして俺はゲームの世界へと転移したのかよっ!? マジでっ!!」

「いえ、この場合正しくは『転移』ではありませんね。むしろ貴方は死んでしまったので『転生』に当たることかと思います」


 今しがた名前も知らない少女が軽い口調で口にしたことは、とてもじゃないが軽く聞き流せる内容ではなかった。


「はっ? え゛っ゛!? なになに、俺ってばいつの間にか死んじゃったの!? まだ18歳になったばかりの男子高校生で、健康的でしかも一切異性への穢れを知れない清らかな体(いわゆる未初体験)なのにかっ!? そもそも確か俺は寝落ちする直前まで、RPGモノのレトロゲームをスマホでプレイしていたはずなんだけど……」

「あっ、それですそれです。寝落ちして頭をスマホに強打してしまったため、死んじゃったんです」


 俺は状況を詳しく理解するため、反論する形として自らの生涯の閉じかたについて語ってくれていた自称女神様だと名乗る美少女に事の詳細を詳しく聞いてみることにした。だがしかし、どうやら俺の死因はスマホの落下による脳挫傷が原因とのこと。当然のことながら、俺は目の前の少女に疑問を呈することにした。


「スマホに頭をぶつけて死んだって……どれだけ俺の頭は軟らかかっただよ?」

「たぶんですが、絹豆腐を固める前くらいの強度だったのではないのかと思われますが……どうですか、とりあえずそのあたりで手を打ってみませんかね?」

「いや、この機に乗じて絹豆腐のことあんまり馬鹿にするなよな。それだと俺はこれまでどうやって高校生活を送ってきたんだよ? むしろそっちのほうが断然疑問だわ。オチオチ寝落ちもできねぇなんて、そんな馬鹿なことあんのかよ!?」

「まぁ例えどんな名医であろうとも『あの人、頭の打ち所が悪くて死んじゃったよね(笑)』としか死因を書けませんよねぇ~。HAHAHAHA」


 少女は俺の死因が可笑しいのか、外国人ばりの発音で盛大に笑っている。


 兎にも角にもどうやら俺は死んでしまい、ゲームの世界へと転生してしまったとのこと。それも直前までプレイしていたゲームの世界感にひじょ~~~~うに似た雰囲気と手抜き感満載の世界に、だ。むしろ盗作……もといコピペされてこの世界が構成されたと言っても不思議ではなかった。


「それはそうと貴方のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか? でなければ私が勝手に『そこらのゴミクズ』や『モブ』などと、その容姿にお似合いの素晴らしくも卑しい名を付けて差し上げま……」

「お、俺の名は立花祐樹たちばなゆうきって言うんだ!!」

「……ちっ。じゃあユウキさんですね! 渋々ながら嫌そうな表情と心意気を用いて今後はそう呼ばせていただきますね……ちっ」


 前後の舌打ちに挟まれながらも、どうにか俺は彼女に名前を呼んでもらうことに成功する。


「それと私の名前ですが、静音しずね……そうシズネです。一応この世界では僧侶の役職を担ってもいますが、ぶっちゃけこの世界を作った女神でもありますね」

「ぶっ!! ごほっごほっ。い、いきなりそんな大事なことを軽々とネタバラシしてもいいのかよっっ!?」


 俺はシズネと呼ばれる少女がいきなり自分がこの世界の創造主だとバラされてしまい、その驚きから咳き込まずにはいられなかった。

 だがそれなら何故、彼女は今俺の目の前に存在しているのだろうか?


 それでもなおシズネと名乗る彼女は俺の葛藤も何のその、何食わぬ顔で言葉を続ける。


「あっ、そうそう言い忘れていましたが、貴方の役職というか職業はRPG世界における最高峰の知名度を有しているバッチコイの魔王様ですからね♪ そうですね……略して呼ぶならばバッチイ魔王様ですねっ! だからあんまり私の近くに寄らないでくださいね。しっしっ」

「いや、それだとあんまり省略になっていないうえに、ただの汚らしい魔王様じゃねぇかよ。あとその野良犬でも追い払うかのようなモーション、ガチで傷つくからな」


 まるで汚らしい野良犬の相手をするかのように彼女は追い払う素振りをガチでしている。このシズネさんに出会ってからと言うもの、俺の心のライフポイントがゴリゴリ削り取られているのはもはや気のせいだと思い込みたい。


「……で、だ。シズネさんとやら、俺が勇者じゃなくて倒される側の魔王だってのか? もしかしなくてもそこいらに何かしら特別な理由があるんだろうな? じゃないと説明がつかねぇぞ。あとこんな世界が存在する理由も是非とも教えてくれや」

「ええ、実はですね……勇者枠は大変人気のため既に埋まっており、それで余ってる魔王役に貴方が選ばれてしまった。あと昨今の世界的不況と労働者への賃金上昇問題を鑑みるに『あっ、そうだ。勇者に魔物を倒させ金を稼がせてから故意に全滅させて、復活させるのに乗じてその所持金を半分強奪する。それを延々ループさせりゃ世界経済なんて万事解決するんじゃねぇのか?』との謎の見解が世界保健機関WHO世界貿易機関WTOの間に行われまして……」

「いや、いくら俺がアホな存在だったとしても、そんな見え透いた嘘に簡単に騙されるわけねぇだろうが!」

「……ちっ」


 やはり適当な理由をぶち立てて俺のことを煙に巻こうと画策していたのか、彼女は「せっかくこっちが考えた設定だったのに、何で騙されねぇんだよコイツ……」っと残念そうに舌打ちをしている。


(そもそもこの子は女神様とやらなんだよな? なのになんで転生させた俺を魔王の役割に宛がう気満々なんだよ? それに正義の味方というか、そっち側じゃなかったのか。いや、待てよ……確かRPGものでも、勇者側が全滅すると所持金半分強奪されるよな? ま、まさかさっきの理由ってガチなのかよ……)


 ロールプレイングゲーム、通称RPGでは勇者は魔王を倒すため仲間を引き連れ旅に出るのだが、その道中に魔王軍から人材派遣された魔物達と戦うのがセオリーである。

 もちろんそこにはゲームと言えども『生』と『死』とが、そこの草むら周辺を狂乱跋扈ばっこしており、それが例え勇者であろうともまた序盤中盤終盤に限らず、いつ如何なる時でさえも容易に死んでしまうことがあるわけである。


 けれどもそこは創造から作られた世界よろしく、女神様とかいう存在が勇者達を『女神の加護』の名の元に生き返らせ、魔王を倒すその日まで延々に生と死を繰り返すのがゲームにおける理である。

 だがしかし、いくら女神様であろうともさすがに無料で生き返らせるわけにはいかないのか、まるでヤクザの元締めのように所持金の半分を否応無しに強奪する謎のシステムが昔から存在していたのだった。


 まさかまさか、それが現実世界における世界経済の問題と労働者達の賃金上昇問題とが強引なまでに繋がろうとは、一体誰がこんな雑な設定を思い描けたであろう?

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