第三話 【アヤノアオイと初代勇者】




 気が付けば、白い空間にいた。

 見渡す限り白く、足裏に地面の感覚がなければ平衡感覚すら失いそうになるその世界で、葵はぽつんと立っていた。

 この場所がどこかもわからないし、どうやって来たかも思い出せない。


 そんな疑問だらけの空間に、葵ではない誰かの声が響いた。


『君に伝えたいことがある』


 気配もなく、唐突に声だけ聞こえたことに戦慄し、臨戦態勢で振り向く。

 そして、先ほどまでは葵以外いなかったはずの白い空間に、一人の女性が立っているのをみて、驚愕に陥った。

 葵の視線の先にいたのは、その白い世界に溶け込むような真っ白な装束に身を包んだ人だった。

 装束の形と声音からして女性だとは思うが、頭から足まで全身がその世界と同色な為、目を凝らしている今でさえ背景に消え入りそうだった。

 見渡した際にこの白装束の姿が見えなかったのは、背景と同化していたから、という可能性がある。

 何せ、この白装束からは魔力がまるで感知できなかったからだ。


 今までどんな生物にでも少しはあった魔力それを感じられず、また視覚での認識も困難なことから、戦闘になってしまえば圧倒的に不利な状況になると悟る。

 しかも逃げる場所がない上に、ここから出られるはずもないので、文字通り決死の覚悟をしなければならないだろう。

 そんな葵の心を読んだのか、白装束は慌ててを振った。


『私は君と敵対するつもりはない。そもそも私は、君との繋がりを介して顕現しているだけで、君に危害を加えることもできない』

「その言葉が信用できるとでも?」


 ちゃんと白装束の下には手があり、それが綺麗な白い肌であることを認識しながら、自身の心情を見透かされたことに驚きつつ、表面上は平静を保っているように見せかけて突っぱねる。

 そもそも戦う気がないのなら、もっと視認の容易い服装にしてくれればここまで警戒はしなかっただろう。

 そこまで考えて、いや、と自分の考えを否定する。

 いきなりこんな場所にいて、訳が分からないまま目の前に誰かがいたのなら、綾乃葵おれは確実に警戒する。

 衣装など、警戒度を上げている要因にすぎない。


 葵の言葉を受けて、白装束は少しは困るかと思ったが、なんだそんなことか、と言わんばかりに白装束は笑う。


『証明なら簡単だ。でもその前に、ここがどこかを教えておこう』


 葵が警戒していることを態度と声音から悟ったのか、白装束は最初から、と言わんばかりに説明を始めた。


『ここは言ってしまえば夢のようなもの。そして私は、先ほども言ったように、ここは私と君の繋がりを介して現れた、幻のようなものだ。だから、私は君に触ることもできない』


 そう言って、白装束は手を差し出してくる。

 白い空間にぽつりと浮かぶ白めの肌は、まるで実際に試してみろ、とでも言わんばかりだ。

 どうするか逡巡し、腕を掴まれ引っ張られても対応できるようにしつつ、差し出された手を握った。

 否、握ろうとして、投影機から投映された映像の間に手を入れた時と同じように、何の感覚もなくすり抜けた。

 その事実で、白装束の言葉の信憑性は少しは増した。

 尤も、手を握る際に近づいたおかげでようやく見えたフードの奥の口がしたり顔をしている時のそれだったので、少しムカついた。

 そのしたり顔をもうしばらくみていないな、と結愛の顔を思い出し、悲しい気持ちになりそうだったので、頭を振って意識を戻す。


「あんたの言っていたことが少なからず嘘ではないというのはわかった。それで、確か俺に伝えたいことがあるんじゃないのか?」

『その通りだけど……私の正体とか、私と君の繋がりはなんだとか、聞きたいことはないのかい?』

「あるよ。でもこの繋がりってやつがどれだけ持つかわからない以上、あんたの言いたいことを聞いておかないとスッキリしない」


 それに、結愛ならどんな状況であれ、人の話はちゃんと聞く。

 結愛を目指す葵は必然的にそれに倣う。


 葵の言葉を聞いて、白装束はそっか、とだけ呟いた。


『では君に伝えたいことを伝えよう。端的に、わかりやすく、ね』


 茶目っ気でも出すように、人差し指をフードの上から頬のあたりに当てて、お姉さんぶる。

 白装束の仕草、言動が一々結愛を彷彿とさせ、ここ三か月会えていない大切な人のことを考えさせられることにむしゃくしゃしつつ、無言で顎をしゃくり続きを促す。

 葵のそっけない態度にやれやれ、と言わんばかりにフフッと笑った。

 その態度がなぜか葵の心を刺激し、苛立たせるので、いっそぶん殴ってやろうか、と考えた時、白装束の雰囲気が一瞬で真剣なものへと変わった。

 気などわからない葵でさえ理解させられたその変わりように、思わずごくりと唾をのみ、意識を真剣なものへと切り替える。

 葵の変化を察してか、白装束はふぅと一息ついて、葵の顔を真っ直ぐ見て告げた。


『この国にかけた、初代勇者の呪いを解いてくれ』

「…………は?」


 一瞬――否、何度瞬きしようとも意味が分からない白装束の言葉に、葵は疑問の表情を浮かべる。

 白装束の言葉を理解しようとしていないわけじゃない。

 言っている言葉もわかる。

 しかし、意味が分からない。

 そもそも、この国にかけた呪いなど聞いたことがない。

 ぐるぐると思考だけが空回りする中、白装束は雰囲気を変えないまま、再び葵の心情を読んで答える。


『この国にかけた呪いとは、科学を使用した武器の製造禁止と、それに伴う全ての輸出入の禁止だ』

「そんなもの、聞いたことないぞ」

『その呪いをかけた私が伝えるとでも?』

「言い方からわかってはいたが、やっぱりあんた、初代勇者なんだな。それも、科学の発展した別の世界から来た」

『ええ、その通りよ。そして君は、私がこの世界に来た時に持っていた能力――今は恩寵よね。それを持っている唯一の人間――いいえ、ヒトよ』


 初代勇者は葵を指さし、淡々と告げた。

 指をさされたことなど特に気にならず、白装束の――初代勇者の言葉の内容を何度も咀嚼していた。


「……なるほど。それは理解した。だが俺があんたと同じ恩寵を持っているからと言って、なんで俺に頼むんだ?」

『簡単な話、私がここで自由に話をできるヒトは、君しかいないからよ。留守番電話のように、メッセージを聞くだけなら異世界――地球から来た人間なら誰でもできるのだけれどね』

「そのメッセージには、呪いのことは残してないってことか」

『ええ。メッセージの方に残したのは、この国に託した想いと私が願ったこの世界の在り方だけよ』

「その想いと在り方ってのは、俺は聞けないのか?」


 白装束は、葵の言葉に首を振る。


『伝えられるわ。聞きたい?』

「その前に一つ。この繋がりを介した空間は、この一回だけか?」

『わからないわ。何せ、私と同じ能力を持ったヒトは、あなたが初めてだもの』

「そうか。じゃあ先に聞きたいことだけ聞いておく」

『どうぞ』


 白装束に促されるまま、現状気になっている順番の高いものから質問を投げていく。


「まずは俺の恩寵。三か月前に、ある人から可能性の話として俺の恩寵が言葉を翻訳するものだと聞いたが、これは正しいか?」

『正しいわ。私は“翻訳”と呼称しているわ』

「そうか。じゃあ次、この世界はその“翻訳”という繋がりを通じて創られた世界か?」

『ええ。私の“翻訳”は人と人を繋げることができる。だから、私と少なからず所縁のあるヒトに、メッセージが送られるわ』

「次。“銀狼”のカイにかけた加護を完全に解く方法はあるか?」

『他の“銀狼”に加護を移すのみよ。“銀狼”という種族が絶えない限り、永遠に終わらない呪いよ、あれは』

「次。お前が薄暗い部屋でワタルと話していた、『人柱になる』というのはどういう意味だ?」

『……』


 葵の質問に対し淡々と答える、という流れ作業のように行っていた会話が、唐突に途切れた。

 時間がどれだけあるかわからない以上、少しでも無駄にできない、と質問の候補を何個も何個もリストアップしていくのに夢中だった葵は、初代勇者が俯き、口を噤んでいるのに気が付くのが遅れた。


「何かあったか?」

『……そう。私の想像を超えていたのね、


 何かを呟いたかと思えば、顔を上げた。


『そのままの意味よ。私が言った、この世界の在り方を守るために、私が持っていた全てを魔王に捧げたというだけよ』

「……魔王に捧げた?」


 初代勇者のその言葉で、リストアップしていた質問が吹き飛び、疑問が湧いた。


「伝承では邪神に挑み敗北したとあったが、それは違うのか?」

『そんな伝承があるのね。でも違うわ。邪神、というのはあながち間違いじゃないけれど』

「……そうか」


 葵はそれだけ呟き、空を見上げる。

 もちろん、この世界に空なんて概念があるかどうかも怪しいが、とりあえず上を見た。

 何かが込み上げてきたわけではなく、ただ単に呆然としてしまった。

 理由はわからないが、そうしたくなったのだ。

 ものの数秒ほどそうして、落ち着いたのを確認し、視線を初代勇者に戻す。


「質問の順序を変える。先に、あんたが願ったこの世界の在り方を聞いておく」

『わかった。私が願った世界は――』


 初代勇者がそれを口にしかけた時、ふと世界の端に白以外の色が見えた。

 それはまるで、崩壊する世界を示しているかのようにボロボロと崩れ始め、何もない黒を見せた。

 その勢いは早く、とても会話なんて続けていられるような場合ではなかった。


「時間切れか!?」

『そのようね。でも安心して。この世界がなくなっても、あなたも私も死なないわ。私はまた暗闇の意識の沼へ。あなたは現実世界へと帰るだけだから』

「そうか。じゃあ最後の質問に――」


 葵が話している途中で、初代勇者は頭を振った。

 それに疑問を投げかける前に、初代勇者が口を開く。


『最後に、あなた自身が伝えておきたいことを伝えます』


 その不思議な言い回しに、葵は疑問を抱く。

 だがそれを言葉にする前に、初代勇者は口を開く。


『これから先、あなたはあなたの思うように進みなさい。迷って悩んで苦しんで、その度に周りを見なさい。そこには常に、綾乃葵の心を支えようとしてくれる人がいる。それを忘れないで。それをしていれば、あなたの望む形ではなくとも、あなたの願いは叶います』

「……ちょっと待て! その願いってのは結愛が見つかることか!?」


 肩に掴みかからん勢いで、思わず前進しつつそう尋ねた。

 葵の言葉に、初代勇者は申し訳なさそうに瞼を伏せた。


「すでに、アヤノアオイが知っている未来とは大きく変わっている。だから絶対である保証はない。でも私が言ったことは、あなたにとって――綾乃葵アヤノアオイにとって、とても重要な在り方です」


 崩れ行く世界が、まるで葵の願う未来の結末のような気がした。

 その些末な不安は、焦燥となって葵の心に圧し掛かる。


 俺の願いは、こんな形で崩れるのではないか。

 俺の未来は、光など見当たらないのではないか。


 目に入る崩壊していく光景が。

 耳に伝わる息遣いや衣擦れの音が。

 鼻に漂う不思議な匂いが。

 肌に触れる無の空気が。

 舌に感じる唾の味が。


 五感で感じる全てが、絶望をもたらすものなんじゃないかと、焦燥感を煽る。

 このまま、光を失っていく世界とともに消えてしまうんじゃないかと絶望に囚われる葵に、初代勇者は優しい声音で語る。


綾乃葵あなたは優しいわ。叶うなら、自分の周りの全てを気にかけていたいと思っている。でも綾乃葵あなたは、己の限界を知っている。だから、必要だけしか持たない。綾乃葵あなたという人を取り巻く関係は、それだけしかない』

「……」


 そんなことはわかっている、と心の中で同意する。

 俺が優しいということは、数年も前に家族や師範や道場のみんな、それに結愛からも聞いた。

 だから、そんなことは、わかっている。


 でも俺は、全てを守れる強さがない。

 俺に関わる全てを。

 これから関わっていく全てを。

 守り切れるだけの何かを、持っていない。


 だから、最低限しか持たない。

 自分が現状、持っているものだけを守れるようになれば、それだけでいい。

 そうやって諦めて、俺は俺を守っている。

 だから、俺はこのままでいい。

 持ってないものを取ろうとして、俺や俺の大切が傷つくのは、もう見たくないから。


『もう一度だけ言うわ。綾乃葵あなたの周りには、綾乃葵あなたを支えてくれる人が、必ずいます。それを信じ、今は進みなさい』


 今度は強い語気で、葵の心を打ちつけるように。

 だがそれは、葵の心には届かない。

 もう何年も前に諦め、捨てたものを、今更思い出せなんて言われても、そんなのはごめんだ。

 それで今持っているものを失えば、傷つくのは俺だけじゃ済まない。

 だから俺は、今の在り方を変えるつもりはないんだ。


『――葵ならできるよ』


 耳元で、その声が聞こえた。

 優しさと、格好良さと、温かさを感じる声。

 それは、久しく聞いていない最愛の家族の声で――


「ゆ、め……?」


 その声の方を振り向けば、そこには結愛がいた。

 格好良くて、それでいて可愛さを含み、いつでも葵に安寧をくれた、最愛の女性ヒトが。


『私はそう、信じてる』




 ――葵が一番、欲していた声だった






 * * * * * * * * * *






「――様!」


 遠くで声が聞こえる。

 ここ最近、よく聞いている声だ。


「――葵様!」


 今までで、数回しか聞いたことのないくらい、切迫した声だ。

 でもそれより今は、もう少しこの微睡の中にいたい。

 何せ、この世界に来てからずっと欲していたものに出会えたんだから。


「……葵様?」


 途端に、声の調子が変わった。

 なんだか、体も重くなったような気がする。

 だがそんなことはどうでもいい。

 ようやく、三か月もかかったのだ。

 今くらい、この余韻に浸らせてくれてもいいじゃないか。

 叶うなら、ずっとこの微睡てんごくの中で――


「……起きないのであれば、襲われても文句はありませんね?」

「今起きましダッ!」


 貞操の危機を悟り、勢いよく起き上がる。

 いきなり体を起こしたため、葵は目の前にあった固いものと額を衝突させ、鈍い痛みに襲われる。


「っつぁー……ソウファ、大丈夫か?」

「痛いです主。主に傷つけられました。もうお嫁にいけません」

「それはソウファが俺の上に跨ってたのも問題でしょ。というかどこでそんな言葉覚えたの」

「今日行ったお店の人から聞いたの」

「学習能力が高いのは良いことだけど、時と場所と場合は考えようね」


 打ち合った額を擦りつつ、ソウファの赤く腫れた額も撫でる。

 正しい意味での手当てを行いつつ、そんな会話を垂れ流す。

 ひとまずソウファを下ろし、現状を理解しようと周りを見渡す。

 と言っても確認できたのは、今がもう夜であることと、ビル群に囲まれた公園のベンチで寝ていたことの二つだけだが。


「すまんラディナ。現状の説明をしてくれ」

「私が知っているのは、葵様の向かった組合でかなり激しい諍いがあったことと、葵様がここでうなされるように眠られていたことのみしかわかりません。葵様がその諍いに巻き込まれたのではないかと心配していたのが少しアホらしくなったくらいです」

「久しぶりの毒舌ラディナだね。それはそうと、うなされてる俺の寝込みを襲おうとしたのはどういう了見か、聞いてもいいか?」

うなされていたのは本当です。しかしすぐにだらしのない顔になりましたので、これは大丈夫だろうと思い、件の発言をしました。それと、葵様はその手の話題を避けるきらいがあるのは既知でしたので、それを利用させてもらおうかと」


 毅然と言い張るラディナは、まるで自分は正しいことをしたと言わんばかりの態度だった。

 こちらがおかしいんじゃないかと錯覚するくらい、はっきりとした物言いに苦笑した。


「……時折、ラディナのことが分からなくなるよ」

「たかが三か月程度で分かった気になっているとは驚きです」

「なるほど今日は毒舌の日ですか」


 まれに訪れるラディナの毒舌に、懐かしさを覚えつつ茶化すように答える。

 尤も、ラディナも今日のはポロッと出た本心ではなく、冗談を含んだものだったようで、どうでしょうね、と肩を竦めていた。

 ラディナにはああ言われたが、共和国に来るまでにだいぶラディナとの付き合い方もわかってきた気がする。

 王国で旅をした一か月もそうだが、ラディナ意外と馴染めばハマるタイプのようだ。


「……でもそっか。心配してきてくれたんだね。ありがとう」

「葵様を見つけたのはソウファですので、褒めるならソウファを」

「ソウファが見つけてくれたのか! ありがとうな」


 そう言って、頭をわしゃわしゃと撫でる。

 夜の街灯に照らされ、その光を反射する銀髪は、とてもサラサラとしていた。

 葵の思うままに撫でられ、ソウファは嫌がるかとも思ったが、それに身を委ねていた。

 というか、気持ちよさそうにすらしていた。

 小さい子は頭を撫でられるのが好きなのだろうか。

 葵は小さい子の頭を撫でるのは好きだ。

 もちろん、純粋な意味で。


「それで、ここで寝ていた理由はやはり、疲労からですか?」

「いや違う……と思う」


 ラディナの真剣みを帯びた質問で我に返り、その質問の答えを話そうと思考を巡らせたが、葵がここにいるわけが理解できなかった。

 まるで、先ほどまで見ていた夢の始まりを踏襲するような記憶の祖語に、葵は何かあると察しながら明確な答えを出せなかった。


「ここで寝ていた理由が思い出せないのですか?」

「……うん。そもそも、ラディナたちと別れた後の記憶が曖昧なんだよ。組合に向かったはずなんだけど、その道中も、組合で誰と何を話したのかも全部、覚えてない」

「疲労から一時的に記憶障害を起こすって話は聞いたことがある。葵は昨日は寝ていたけど、ここに来るまでは基本寝ずに、ムラトたちと教え教わりしてたろ。それなんじゃないか?」

「あるいは、召喚者特有の障害。他には、葵様ご自身の変化、という可能性もあります。なんにせよ、可能性があるならできることからやっていきましょう」

「やろうと思ってたことができなくなって、挙句ラディナたちの時間を奪うくらいならそうしてた方がいいな」

「では手始めに、睡眠をとるところから。一か月に一度だったものを、一週間に一度にしましょう」

「……そうだね。じゃあそこから」


 少し時間のロスだとも思ったが、そもそもひと月も寝ずに過ごせること自体が異常であり、その以上に任せた結果こうなった可能性がある以上、背に腹は代えられない。

 それに、今までの生活時間から考えれば、圧倒的に有効活用できる時間は増えているのだ。

 本来使えたはずの一夜を使えなくするというのはロスに感じるが、地球にいたころと比較すれば何も損ではない。

 そうやって、意識をポジティブな方向へもっていくのも、精神状態を安定させるのにいいと師範から聞いていたっけな、と今更ながらに思い出し、ラディナの提案めいれいに従う。


「じゃあとりあえず今日は、組合に行って、話を聞いて帰ろう。もう夜だから、帰っちゃってるかもしれないけど」

「承知しました」


 ソウファがどれくらい自分の体を自由に扱えるようになったかを実践してもらいながら、組合までの道を歩いた。

 共和国の夜はとても明るく、かつて王国にいたときに、王城から見た城下町の静かな明るさとは打って変わって、こちらは光量だけでなく熱量も高かった。

 王国の夜を都会よりの田舎、共和国を都会と例えても遜色ないくらいだ。

 そんな感想を抱きつつ、葵たちは組合で、目的の人物に出会った。




 そして、一年前の魔物出没事件のことを覚えていないと知らされた。



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