第七話 【魔術適正】




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 シナンから聞いた、初代勇者の伝説



 曰く、全てを見通す眼を持っている。

 曰く、神に等しい知識を保有している。

 曰く、身体能力と魔力操作の練度において右に並ぶものはいない。

 曰く、物理・魔術・近遠距離の如何なる攻撃も効かない。

 曰く、最大最強として語り継がれている始祖の竜を単身討伐した。

 曰く、過去最強の初代魔王を単身討伐した。

 曰く、魔神に挑み、敗北した。



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 ラディナの先導で辿り着いた訓練場では、騎士団と思しき人たちが静かに瞑想していた。

 座禅を組み目を瞑っている、葵と寸分違わない瞑想の仕方に驚きながら、ここに呼び出した本人の姿を探す。


「おっ、早いな綾乃葵……綾乃葵、か?」

「無音で近寄ってきて背後から声かけてこないでくださいビビります。それと、俺は綾乃葵で間違いないです。なんですか藪から棒に」

「いや、気配は昨日とほとんど変わらないのに、見た目がかなり変わってたからな。メガネの着脱で雰囲気変わるやつはいるが、お前はその中でも説明がなかったら確信が持てないくらいだ。俺は今のほうが好みだぜ」

「褒め言葉として受け取っておきます。あと、いちいちフルネームで呼ばなくていいですよ」

「そうだな。じゃあこれからは葵と呼ばせてもらう」


 後ろから足音や衣擦れの音一つ立てずに接近され、声を掛けられたので、多少驚きながらも取り繕うように言葉を紡ぐ。

 ついでに、訓練場を一瞥して思った疑問を投げかける。


「……それで、他の人たちはまだ来てないんですか?」

「ここにいないってことはまだ来てないんだろうな」

「なら丁度いい。少し聞きたいことがあったんだけど、時間あるか?」

「問題ない。俺に答えられることならなんでも答えるぜ。時間制限付きだが、気が済むまで聞いてくれ」


 折角時間が空いたので、明朝の鍛錬で感じた疑問を解消してもらうことにする。


「昨日の夜……正確には今日の朝だったんだが、寝付けなくて、少しでも精神を落ち着けるために瞑想してたんだ。ちょうど、この人達みたいに」

「なるほどな。それで?」


 現在進行系で瞑想している人たちに視線を向けて説明する。

 ラティーフはそれに頷いて、続きを促す。


「そしたら魔素や魔力ってのを感じ取れたんだ」

「一人でか? そりゃあ凄いな! 才能あるぞ」

「一人で辿り着けた時点で才能があるのは何となく察してたけど、本題はそれじゃないんだ」


 自信過剰とも取れる発言を前にして、ラティーフはそこではなく本題の方に首を傾げた。

 無言で続きを待つラティーフに、焦らさずさっさと告げることで応える。


「さっき、少し時間ができたから瞑想してたんだけど、そしたら魔素を伝ってラディナの行動が手にとるようにわかったんだ。それだけじゃなくて、壁一枚隔てた向こう側の様子も、朧気にだけど理解できた。これってどれくらい凄いものなんだ?」

「……ちょっと待て。魔素を感じられたのは、今日が初めてなんだよな?」

「ああ。俺たちのいた世界には、魔素も魔力も魔術も、全て想像の中にしかなかったものだ」


 驚き、なんとかと言った様子で口を開くラティーフと、昨日中にあまり変わらなかった表情筋が知り合ってわずか一日しか経っていない葵でもわかるくらい強張っているラディナの様子を見て、量産されまくった異世界モノの光景がフラッシュバックした。

 異世界に召喚された、あるいは転生した主人公が、常識知らずに尋常ならざる力を発揮して、周りから称賛されたり、見た目とは裏腹な実力で周囲を圧倒したりと言うような光景。

 ラティーフの言葉からも分かる通り、きっとこれは普通じゃないことなのだろう。

 魔術系の初級本にこういった常識が書いてあったかもしれないが、あいにくそこまでの速読技術はなかった。

 そこは後で改善するとして、今はラティーフの言葉を待つ。


「……葵に才能があるって言ったが、訂正――いや、上方修正させてもらう」

「やっぱりか。これ、どんくらいおかしいんだ?」

「いや、おかしくはない。それくらいなら、騎士団の連中でもできるし、何なら冒険者の銅階級でもできるやつはいるくらいだからな」


 “冒険者”という聞き慣れた初耳の言葉に、同じく聞き慣れた初耳の“銅階級”の言葉、そしてラティーフの声音などから察するに、おそらくはあまり凄いものではない。

 あまり凄くはなく、一般的にも普及していそうな勢いまであるこの技術を聞いて、他に上方修正させる理由。


「……そうなのか。じゃあ習得の早さが問題か?」

「その通りだ。そこまでの感知能力を得るには、通常一年程度。俺が知ってる中で一番早いのは、魔術師団団長のアヌベラで、二週間。それをお前は少しの時間で、しかも独学で会得したんだろう?」

「まぁ、魔力の存在をラディナに教えてもらったから、完全に独学ってわけじゃないけど」

「じゃあほとんど独学って言いかえることにして、とりあえず異常だ。そこまでくると、召喚者の能力なのか、あるいは綾乃葵の才能なのかの判別がつけ難い。とりあえず、他の人との比較をするまで、あまり口外はするな」


 こういう場合、外に漏れると色々と面倒なので、素直に頷いておく。

 名を挙げるのは、結愛からこちらの状況を知ってもらうという点において、捜索の手伝いにはなるかもしれないが、悪目立ちするのは変な輩に絡まれるリスクを高めるだけなので避けたいところ。

 クラスメイトに関しては召喚以前から関係値が地を這っていたし、謁見の間の一見でようやく地に落ちたので、これ以上下がろうと問題ないが。


「あともう一つ聞きたいんだけど、ラティーフさんは“気”っての感じ取れるか?」

「俺はできるし、騎士団の中にもできるやつは数名いるが……まさか葵お前、気まで感じられるのか?」

「いや、俺にはその才能ないし、半年努力してもできなかったから無理だ。そうじゃなくて、その気で魔素と同じことできるか?」

「可能だ。才能があるやつであれば、魔素以上に有用な代物だしな。気を纏うだけで、防御力の向上にも繋がるし」

「なんだそれ、魔素よりずっとチートじゃねぇか」

「そんなこと言われてもな。気を体得したのは俺じゃないし、ましてや人間ですらないしな。どうしようもないぞ」


 ラティーフの言い分はごもっともで、同時に自分の無力さを感じると同時、結愛生存への希望が高まった。

 結愛ならきっと、気の使い方も心得ているはず。

 なら、多少の危険に陥っても、乗り越えられるはずだ。


「お、来たようだ。――瞑想止め! 屋外訓練場に出て基礎トレに入れ!」

「「「「「はいっ!!」」」」」


 騎士団長っぽいことしてる~、と当たり前の感想を抱きながら、出ていく団員たちを観察する。

 ラティーフほどではないが、みな鍛えられた体をしている。

 葵と力比べして、互角かそれ以上の人材しかいないと見える。

 これがこの世界の水準なのか、あるいはここの団員たちのレベルが高いのか。


「よーっし来たな。全員いるか?」

「はいっ。確認したので、間違いないです」

「じゃあ時間が惜しい。さっさと始めよう」


 ラティーフの質問に対し、翔がハキハキと応えた。

 それに頷き、クラスメイトを団員と入れ替える形で訓練場に入れる。

 龍之介が集会や始業・卒業式のときのように、男女二列で並べたので、整列はスムーズだった。


 ラティーフは列の長い方が正面になるような立ち位置に移動し、コホンとわざとらしく咳をして注目を集めた。


「さて。これからお前たち召喚者の実力測定を始めるわけだが……先に聞いておく。楽しい方と辛い方、どっちを先にやりたい?」

「……相談しても?」

「構わないぞ。好きにやってくれ」


 唐突に、悪戯な笑みを浮かべてそういったラティーフに、クラスメイトは困惑気味な雰囲気を醸し出した。

 ただ、昨日のことからクラスメイトも学んでいるのか、素早く円陣を組み、相談を開始する。

 時間が惜しいと言ったのに質問形式を採用するとは効率が悪いな、と思いつつ、クラスメイトの相談に耳を傾ける。


「先に辛い方をやったほうが絶対いいって」

「何いってんだ。先に楽しい方をやって、あとに辛いのにしたほうが良いに決まってるだろ!」


 ラティーフの質問に対して意見を出し合うことになったのだが、やはり高校生とは思えないほど話が進まない。

 今も、アヌベラが一名の魔術師らし人間を連れて、透明な宝玉のようなものを持って訓練場に入ってきたし、あれが今日の実力測定に使うものなら、準備が整い始めているということだ。

 まだ五分程度しか立っていないから取り立てて言うほどでもないが、埒のあかないこの論議に、時間を無為に浪費しているのは間違いない。

 いっそ、謁見の間のときと同じように一人で話を進めてやろうか、と画策する。


「落ち着きなさい。こんなところで言い争っても意味はない。一つ一つ、メリットデメリットを挙げて、どちらが良いか、決めていこう」


 そんな論争に仲裁に入ったのは、担任の龍之介先生だった。

 召喚者唯一の大人として、クラスメイトを纏める立場にある龍之介は、その仕事を全うにこなす。

 ただ、無為な時間浪費でなくなったとは言え、時間をかけるのは望ましくない。

 しかし、ここで口を挟めば葵自身が火種となって、余計に時間がかかるかもしれない。


 悩ましい。

 実に悩ましいが、よくよく考えてみれば、クラスメイトそっちの意見を聞かずに、葵が勝手に決めて、勝手に進めれば、口を挟んでも時間の浪費は少なく済む。

 クラスメイトとの関係値は、いくら下がろうともう問題ないのだから。


「ところで、綾乃はどう思うんだよ?」

「……は?」


 口を挟んで、さっさと今日の目的に移ろう、と意思決定したところで、名指しで話題を振られた。

 しかも、振ってきたのが昨日、最悪中の最悪な関係になった中村隼人ときた。

 あまりに唐突で、そして以外が過ぎたので唖然としてしまった。


 それに、こちらに視線を向けるクラスメイトの目が昨日までと違う。

 だから余計に、不思議な感覚があった。


「だから楽しい方か辛い方、お前なら先にどっちやるかって聞いてんの」

「……ああ、うん。そうだな、俺はどっちでも構わないからいいとして、お前たちは辛い方からやったら後の方はおざなりになりそうだし、先に楽しい方やったほうが良いんじゃない?」

「なっ……! お前っーー!」

「わかった。じゃあそれで行こう。みんなは何か、反対意見あるか?」


 クラスメイトの見る目が変わった理由は覚えていたら後で考察するとして、中村に再度問われたのでしっかりと考えて答える。

 その言い草に腹を立てたクラスメイトが、勢いそのままで立ち上がり、反論しようとしたが、隼人はそれを自身の言葉で遮った。

 ついでに、話を終わりの方向に持っていく。


 昨日の今日で、この態度の変わりよう。

 何があったのか気になるが、都合のいいように進行してもらっているので深く勘繰るのはやめておく。

 きっと、“変わるきっかけ”があったのだろうし、それを自ら進んで話したいと思わないのは、よく知っている。


「…………ないようだね。じゃあこれで進めよう。ってことでラティさん。楽しいほうが先で、お願いします」

「おっけーだ。今からお前たちには、魔力の適性と魔力量を測ってもらう。少し面倒かもしれないが、知らなければ命に関わることになりかねないので、しっかり説明を聞いてくれ」


 ラティーフの真剣な表情と重い言葉に、クラスメイトはゴクリと生唾を飲んだ。


 その一。

 まず、 適性を持つ人間は百人に一人ほどとそこまで多くはない。

 その百分の一の人間は、魔力石と呼ばれる希少な宝玉に手を当てることで、適性に準じた色が発生する。

 滅多にいないが、複数の適性を持つ場合は、適性の高い順で色が変化していく。

 ついでに、魔力石の内部に灯る光量と色の大きさで、魔力の質と量が判別できる。


 適性に対応した色は、赤(紅玉)が火、青(碧玉)が水、緑(翠玉)が風、橙(黄玉)が土で、この四つが四大属性と呼ばれ、適性にのある人間の八から九割を占める。

 一部では、この四大属性に水(ターコイズ)の空を加えた五大属性というものもいるが、空という属性が存在しているのかも怪しい。

 初代勇者が研究していたとされるが、その成果も何も発表されず、初代勇者の時代からただの一人も現れることはなかったほどの属性。

 何もかも不明すぎるがゆえに、どの属性も使える万能の魔術、などと噂されるレベルだそうだ。


 そんな存在の是非すら怪しい属性は脇に置き、その四大属性からは外れたものが、その他として分類される。

 このその他は本当に雑多で、有名なところで言えば治癒魔術や強化魔術などがあり、あまり有名でないもので言えば、屍霊魔術など。

 これら、四大属性に分類されないものが、総じてその他の適性となる。

 尤も、このその他は魔術を扱える人間ならば、しっかりと修練することで誰でも使えるので、この魔力石での判別には関係ない。


 その二。

 適性以外の魔術は使えないわけではないが、適性のある魔術の方が伸びやすい。

 なので、本人の強い要望がない限り、魔術を鍛える際は適性に沿った訓練をしていくことになる。

 過去の例として、先代の賢者は適性でない属性もかなり扱えたらしいので、不可能ではない。


 その三。

 同じ適性以外の魔力を受け取った場合、拒絶反応を起こし、体が内部から崩壊していき、最悪死に至る。

 例えば、火から火は問題なく、火から火・水でも問題はないが、その逆は問題あり。

 ほんの僅かならば大丈夫だし、魔力を適性ごとに分けて渡せるなら問題はないが、そこまでの魔力操作は、初代勇者レベルの技量を有してなお難しい。

 つまり、魔力の譲渡は誰でもできるわけではない、ということだ。


「とまぁ、説明はこんな感じだ。それじゃあ葵から。この魔力石に触れて、その後はそっちの銀盤に触れてくれ。そしたら、魔術の適性と、今保有してる魔力量がわかる」


 実力を測る場面で、楽しいもクソもないだろうと思っていたが、ラティーフの説明で納得する。

 女子はわからないが、少なからず男子ならば、こういった自分の実力がわかるというのは心躍らないわけがない。

 ましてやファンタジー世界の、それも魔法――いや、魔術だったか。

 とにかく、魔術の適性や魔力量などがわかるなんてイベントは、とても心がぴょんぴょんする。


「触れるだけでいいのか?」

「ああ。魔力を持ってる生物なら、何かしらの反応がある。しっかり説明するから安心してくれ」

「わかった」


 その言葉を信じて、徹底的に磨き上げた汚れ一つ無いガラスのような透明感を持つ魔力石に触れる。

 数秒と経たずに、手のひらに熱――魔力が集まるのを感じる。

 どうやら魔力石は、魔力を吸収する力が働いているのかもしれない、なんて考察をしている間に、翡翠色の光が訓練場を照らした。


 光の玉の大きさ自体はそこまでではなく、中心に豆電球くらいの光があるだけだが、それでも訓練場全体を照らせるほどの光量は中々のものだと思う。

 太陽ほど主張するわけではないが、月ほどお淑やかでもない。

 直視を続ければ残像が残る程度の、眩しい部類に入る光。


「ふむ、風の適性か。変化しないところを見るに、適性はこれだけだろうな」

「……なるほど」


 先程の説明から察するに、魔力量は少なく、魔力の質は良い。

 それに、適性の方もあまり芳しくない。

 いや、適性があるだけマシだというものだが、正直心許ない。

 結愛の捜索にあたって、持てる手札は多いほうが良かったのだが、ないものをねだっても仕方がない。


 それにまだ、魔力量と質が残ってる。

 もしかしたら、適性の地味さとは裏腹に、こちらがずば抜けている、なんてことも無きにしもあらず、だ。

 悪目立ちしない程度に、結愛捜索に役立てるくらいの実力であってくれ! と祈りながら、脇にズレて、拳よりも二回りほど大きい銀盤の前に立つ。


 この銀盤は、魔力石とは違って初代勇者時代の遺物、アーティファクトと呼ばれるものだ。

 製造方法は伝承されておらず、36個のみしか発見されていない、希少品。

 魔力石と同じで、限りなく壊れにくい、というか壊れたことがないものなので、紛失しない限りは使える。


 それに触れてしばらくすると、魔力石と同じ感覚が掌に集い、銀盤に光が走る。

 銀盤に右上に向かって走った光はゆっくりと文字を形成していき、最終的に数字になって動きを止めた。

 その浮かび上がった数字を、アヌベラが読み上げる。


「魔力量が28。魔力の質は……凄い! A-ですよ!」

「せっかく驚いてもらってるところ悪いのですが、基準を教えてもらってもいいですかね?」

「ああ、すまない! つい興奮してしまった。そうだな、この国では毎年国が推奨してこれらの数値を測っているのだが、そこでの大人の平均値は量は168、質はC+ってところだ。量の方は6分の1とかなり少ないが、鍛錬次第では平均値くらいにはなるだろうから、そこまで心配はしなくとも良い。それよりも質だ! A-ランクは魔術師団の誰も! 私すらも凌駕している! 高いランクなので、その後の成長にも期待できるだろう! あるいは、初代勇者にすら並び立てるかもしれない!」

「……ありがとうございます」


 クールそうな見た目とは裏腹に、めちゃくちゃにはしゃぐアヌベラは、如何にも興奮した様子で説明をしてくれた。

 その回答を求めた当の本人あおいは、真反対の冷めた感謝を述べる。


 まぁ、知ってたよ?

 だって、魔力石の光量は多くても、光源が小さかったし?

 説明されたとおりに解釈すれば、こうなるのは必然だったし?




 ……ツッコミのないボケは、やっててもつまらないな。


 結愛がいたら、口に出してツッコミ待ちするんだが……


「はぁ」


 結愛を口に出すと、やはり気分が落ちる。

 心配になってしまう気持ちと、結愛なら大丈夫だという相反する気持ちが入り混じり、心情がなんとも言い難いものになる。

 いつもなら、結愛が何をしても、結愛なら大丈夫だ! と宣言できるのだが……。

 やはり、見ず知らずの世界ということが、本来なら感じ得ないはずの不安を加速させているのだろう。


「……」


 己の無力さは、どこに行っても変わらない。

 拳を開閉しながら、それを改めて確認する。

 だが、どれだけため息をつこうと、どれだけ打ち拉がれようと、事実は事実。

 この世界に召喚されたように、変えようはない。

 その事実を真っ直ぐ受け止めて、今まで通り、できる範囲で最大を発揮していこう。


 目下の目標は魔力操作の練度と質の向上だ。

 できないことを伸ばしたがるのが日本人と聞いたが、才能のない人間が才能のある人間の隣に並び立つには、それではいけないと知っている。

 だから、できることを特化させていこう。


 クラスメイトがどんどん測定に入るのを他所に、邪魔にならない位置まで避ける。

 早々に列から抜けて暇になったので、とりあえず先に進むためにの自分の中のなけなしの魔力に意識を向けてみる。

 外の魔素に意識を向けるのと同じ要領でやってみたら、意外と早く、体内を流れる魔力を感じられた。

 血の巡りと同じように全身を流れていて、体全体に薄く感じる。

 きっと、魔力量が多ければ、薄く感じる魔力がもっと濃密になるのだろう。


「おおっ!」

「こっ、これは!?」


 葵が一人の世界に入ろうとしていた時、後ろ――測定場で、両師団長の驚きの声が上がった。

 何事かと視線を転じてみれば、二宮翔が魔力石に手を当てているところだった。

 何を驚いているのかと言えば、その色だろう。

 なにせ、色の変化がターコイズ以外、即ち、空以外の全属性を持っていることになる。

 その上、光の玉の大きさも、光量も申し分ない。

 その後、銀盤に触れて判明した数値では、魔力量が201、質はBだった。


 量も質も平均超え。

 素晴らしい才能だと、アヌベラは称賛していたが、実際そのとおりだと思う。

 俺にもその才能分けてほしかったと嘆きつつ、体内の魔力に意識を向けながら、測定が終わるのを待った。


 その後、小野日菜子が二宮と同じ空以外の全属性持ちが判明し、その他にも、二属性や三属性持ちがゴロゴロ現れた。

 一属性ですら珍しいという事実が、この数分で覆された結果となった。

 きっと、このほとんどが、召喚特典のようなものなのだろうと考察しつつ、次の説明を聞くために列に並び直す。


 最終的に、召喚者の測定での最大値はそれぞれ、属性数が小野日菜子と二宮翔、魔力量が中村隼人で250、魔力の質が綾乃葵でA-という結果で終了した。



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