第417話 柑奈パパの怖い話~自称雨女 後編~

後ろで姉が必死に叫びながら追ってくるのが楽しくなった私は、聞こえないふりをしてどんどん走って行きました。

そして橋を渡ろうとした時です。

『危ないから!帰ってきなさい!!』という姉の説教が気に入らなくって、私は無視して橋を渡りました。

途中まで聞こえていた姉の声が、橋を渡り終えた時には聞こえなくなっていました。

やってやった。そう思って振り返ると、姉の姿が見えなくなっていたんです。

『おねえちゃん?』そうつぶやくと、途端に怖くなった私は走って家に帰りました。

家には姉の姿が無く、私はまた部屋に籠っているんだって自分に言い聞かせました。

次の日、朝起きると、母親が私にこう聞いてきました。

『ねぇ、誰か出て行かなかった?』と。

私は怖くなって、『そう言えば、お姉ちゃんがコンビニに行くって出て行ったよ。』と嘘をついてしまったんです。

それを聞いた父親は青ざめた様子で警察に連絡したんです。

三日後、姉は川の下流の方で浮いていたそうです。言葉にできないほどに、変わり果てた姿で。

それからです。姉が私にとり憑いて、雨を降らすようになったのは。

最初は修学旅行の日でした。

旅行先でどしゃ降りの雨が降っていて、ホテルで過ごしていた時です。

私が外に目を向けると、雨の中女の子が立っていたんです。

すぐに姉だと分かりました。だってあの日と同じ格好で立っていたんですから。


それだけ言うと、Aさんは黙ってしまいました。

そっと、私は外を見ました。そして寒気がしました。

女の子がニタァって笑っていたんです。

それから私はAさんに関わろうとしませんでした。

怖かった。あの女の子の笑った顔が怖くて怖くて、今でも思い出すだけで震えます。

でも、今は更にあの女の子が怖いんです。

実は、あれからしばらくして彼女が亡くなったことを聞いたんです。

それも、台風の日に川に飛び込んだ自殺だって聞いたから。


「この話をしてくれた女性はな、今でも苦しんでんだ。自分が逃げずに彼女に寄り添ってやれれば生きていたんじゃないかってな。でも、それはその子のエゴだってわしは思うんだよなぁ。寄り添おうが寄り添わないだろうが結局のところ、自分の罪悪感に押しつぶされてしまった奴が立ち上がるには、そいつが自身が向き合わなきゃ意味がねぇんだって。だけどそれをその女性にどう言いえばいいんかわからなくなっちまってな。そん時は気にすんなって無責任に言っちまってよぉ。わし、どうすればよかったんかなぁ。」

「とりあえずあんたが僕に解決案を求めるのを止めてもらっていいですか。僕にできるのは話を聞くことだけなんで。」

「冷てぇなぁ坊主。」

「無責任なことをしたくないんで。」

まだ学生の僕に誰かの責任を背負えるほどの器はないよ。

それも、大人の貴方が悩んでいる責任は特にね。

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