第416話 柑奈パパの怖い話~自称雨女 中編~

それからも講義の度に彼女に話しかけました。

けれど噂通り、彼女は『私、雨女だから』としか行ってくれませんでした。

それでも諦めの悪い私は何度も何度も話しかけました。

講義以外でも見かけるようになって、その度に話しかけました。

けれど、全く話をしてくれませんでした。

それから少しして、趣味のカフェ巡りをしている時に彼女に出会ったのです。

「Aさん!」

カフェの奥の方で読書をしていたAさん。

私は駆け寄って軽く挨拶すると、相席をさせてもらいました。

読書を呼んでいる彼女の姿はかなり絵になっていて、見ているだけでも心が落ち着くような気がしました。

その時です。私が不意にこう言ったことにAさんが反応したんです。

「今日は雨だねぇ。」

「・・・私が雨女だから。だから今日も雨なんです。」

「ねぇ、それってどういう意味なの?Aさんは運が無いってこと?でも私、雨って嫌いじゃないよ?」

「私は嫌いです!!」

突然の大きな声に、私だけでなく店員の方も驚いていました。

私はお店に謝罪して、Aさんに説明を求めました。

「ね、ねぇ、Aさん。その雨女ってどうして自分のことそう言うの?」

「あそこ。あそこにいるでしょ。雨女。」

Aさんが指をさした先には中学生ぐらいの女の子がどしゃ降りの雨の中、傘も差さずに立っていました。

私が慌てて立ち上がると、Aさんに腕を掴まれました。

「え?」

「行かなくていいんです。あれは私にしか見えないんで。」

Aさんはそう言いましたが、私にも見えました。

だから傘を渡そうと思ったのですが、もう一度女の子を見た時、サラリーマンぽい男性が女の子を突き抜けて走っていたのを見て、この世のものではない何かだと分かりました。

言葉にできないでいる私を余所に、Aさんはぽつり、ぽつりと自分のことを話し始めたんです。


私には5歳年上の姉がいました。

けれど姉は家の中ではいない者のような扱いを受けていたんです。

両親は姉を学校にも通わせず、服も自分が着なくなったお古を渡し、ご飯も姉だけは自分の部屋で食べさせ、お風呂とトイレ以外は部屋から出さなかったんです。

だから私は物心つくことから両親に猫かわいがりを受け、特別な存在だって信じて疑いませんでした。事実、私が姉の存在を知ったのは、私が小学校3年生の時でしたから。それまでは姉がいるなんて思いもしなかったです。

けれど、知ったところで私の中では何も変わりませんでした。

ただ、私は姉よりも優れていると思うだけだったんです。

台風の日でした。近年稀に見る大型台風で、私は学校がお休みになったんです。

共働きの両親は仕事に行き、姉は部屋の中に閉じこもっている。

つまらない時間に、私は嫌気がさして外に出て遊ぶことにしたんです。

子供の私は強い雨や強い風がとても面白くって、次第に町がどうなっているのか見たくなってしまったんです。

私が出て行くのが見えた姉が、私を止めようと後ろから大きな声で『家から出ちゃダメ!』って叫んでるのが聞こえました。

それが、私にとって変に楽しくなってしまったんです。

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