第312話 尾口先生の怖い?話~ありがとう。それからごめんね。前編~
「さぁ!最後のお話しです。これは専業主婦の方が体験した不思議な話し。」
最後は専業主婦か。
一体どんな話なんだ?
「彼女は父方の母親の介護をしていたらしい。介護というのは見ている以上の過酷さがあり、本当に好きでもない限り長くはもちません。この方もそうでした。」
介護・・・言葉では良く聞くけど、僕はまだ実際には見たことない。
想像することもできない。
介護は優しいだけの世界じゃないから。
ま、介護だけに言えることじゃないけどね。
「では、実際にお聞きください。」
夫と結婚して20年。
子供のできなかった私たち夫婦をつなげてくれたのはお義母さんでした。
お義母さんは何度も離婚しそうだった私たちを根気よく説得して、引き留めてくれました。
今思えば考えなしの離婚なんて、先行きが真っ暗です。
そんな私たちですが、今は夫との旅行が毎年の楽しみになっているのです。
離婚しなくて良かったって思っています。
そんな私たちの一番の試練は介護でした。
結婚して10何年の時にお義母さんは脳卒中で倒れ、介護の必要な生活になりました。
脳が麻痺し、自分では思うように動けず、思うように話せませんでした。
「あうまう。」
一生懸命何かを伝えようとしているお義母さんの声を無視して、私はきっとこうだろうという自分の考えで介護を続けていたんです。
最初は良かった。
最初はお義母さんに感謝の気持ちがあったから素直に、真面目に、一生懸命にお母さんを介護しました。
けど、それが一年、二年、三年と続くとストレスも相当溜まります。
「あーうま。」
「はいはいわかってますよ。」
毎日続く終わりのない私とお義母さんとのやりとり。
施設に入れて楽になりたいと何度思ったことでしょうか。
何度も思ってたは夫と喧嘩をし、結局介護生活に戻る日々。
次第に溜まっていたストレスを、私はお義母さんで晴らしてしまったのです。
「あ~まま?」
「知りませんよ。」
「あう、うう?」
「だから知りませんって。」
「あーう!」
「だからうるさいって言ってるでしょ!!いい加減に黙ってよ!何言ってるかわかんないんだよ!黙って私の言う通りにしてろよ!!」
夫がいないことをいい事に、私はお義母さんに暴言の数々を浴びせ続けたのです。
それでもお義母さんは変わらずに、私に話しかけようとしてきました。
「あっあ。」
「はいはいわかったわかった。」
「あ~あ、あま」
「ほんっと、黙れよ。」
そんな日々は長く続かず、お義母さんは静かに朝、息を引き取りました。
恥ずかしながら、私が最初に感じた感情は。
「あ~これで楽になった。」
という、酷いものでした。
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