第313話 尾口先生の怖い?話~ありがとう。それからごめんね。後編~
お義母さんが亡くなって少しの間、私は自由を満喫していました。
昼間に寝転んでみるテレビ。
近くのデパートへの長時間の買い物。
母の手前、遠慮していたお菓子やハンバーガー。
堪能できるだけ自由を堪能して、そして次第にこう考えるようになったのです。
お義母さんは、幸せだったのだろうか。
私なんかの介護が最後でよかったのだろうか。
本当はもっと、もっともっと感謝するべきだったのではないのか。
一番辛かったのはお義母さんなのに、私はそんなお義母さんに・・・。
そんな疑念にも似た思いが頭の中をぐるぐるし始めた時からです。
家の中、私の視界の端で黒い影が蠢き始めたのは。
「な、何?」
その度にその方向を見ても何もなく、私はどんどんその黒い影に怯えるようになりました。
「また見えた。でも何もない。」
次第に疲弊した私の心は、あの黒い影がお義母さんなのではないかと思うようになりました。
「お義母さんは私を恨んでいるのよ。そうよ許せないんだわ。だって私が酷いことを・・・。」
体が震える毎日。
お義母さんに罪悪感を感じつつも、自分を正当化して、勝手に自分で自分を許していたんです。
そんな私の身勝手な思いが、黒い影を動かしたんです。
買い物から帰ってきた時です。
玄関を開けて中に入ると、茶の間にあの黒い影がいたんです。
「ひっ!?」
私に小さな悲鳴に気づいた黒い影はゆっくりと手を伸ばして来ました。
「ご、ごめんなさい!?ごめんなさい!?わ、私、お義母さんに酷いことを!?で、でも私だって辛くって!?ちがっ!?違うの!ただ、ただ私は!?」
ゆっくりと伸びる黒い手に、私は目を閉じるしか出来ませんでした。
けど、その手は私の想像とは違い、優しく私の手を握ってきたんです。
「・・・あたたかい?」
『A子さん。』
「え?」
握られた黒い手は浄化されたように綺麗になり、目の前に笑顔のお義母さんがいたのです。
「お、かあ、さん・・・?」
『A子さん。あんたにゃ、いっぱい苦労を掛けたね。でも、心の強いあんたはしっかりと頑張れた。ほんとうにありがとう。それと、迷惑をかけてごめんな。』
「お義母さん・・・。」
『ありがとう。それからごめんね。』
そう言い残して、お義母さんは消えていきました。
それからあの黒い影を見ることはありませんでした。
私はというと、毎年必ずお義母さんの墓参りに行っています。
夫と共に。
「これでお話しはお終い。」
ぐすっ・・・ええ話やん。
「う~ん・・・。」
「式子さん?」
「流石は尾口先生。この私でもこの感動的な話しに茶々を入れる勇気はないな。」
いやそれが当たり前・・・。
「皆さんの周りにもこのような不思議な、温かい、信じられない出来事があるのではないでしょうか。だから皆さん、日ごろから感謝の心を忘れずに。」
これは素直に拍手です。
「・・・さぁ!諸君!これで私も合コン王になれるだろ?ね?」
お前が最後に台無しにしなければな!
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