第289話 式子さんの怖い話~跳ねる頭前編~

「じゃあ次は式子君かな。」

「ええ。尾口先生はどのようなお話をご所望ですか?」

「僕かい?そうだね・・・とびっきり怖い話も一応欲しいかなぁ。」

とびっきり怖い話か。

式子さんは豊富そうだなぁ。

「なるほど。では帰り道の恐怖を煽る怖い話でもしましょうか。」

「で、出来るのかい!?」

尾口先生が食いついたーーー!!

「出来ますよ。私の引き出しは様々なシチュエーションに合わせられますから。この話をすればお持ちかえりも夢では・・・。」

「お持ち帰りはいらない。」

「え?」

尾口先生の急なマジトーン来たーーー!!

「そうやって体目当ての女性に何度当たったことか。もう、うんざりだ。」

「それは、その・・・とりあえずお話しします。」

式子さんが折れたーーー!!

「・・・そうしてくれるかい。一応、聞いておくから。」

「はい。えっと、この話は・・・。」

「ねぇ、優。」

「はい。」

「なんか、その、式子が可哀そうね。」

「ですね。」


これは僕が大学生の頃に体験した話です。

獣医を目指していた僕は実家からでは大学に通えない為、アパートに一人暮らしをしていたんです。

「はぁ~。今日もあそこを通らなければならないのかぁ。嫌だなぁ。」

そう、僕が帰る道には雰囲気の悪い交差点があるのです。

その交差点では事故が多発し、週にパトカーを何度も見ました。

特に嫌なのが、交差点近くの電柱です。

電柱には毎日のように花が供えられていて、何かいるような気配がするんです。

「早く帰ろう。」

僕はいつも目を逸らしてアパートに帰りました。

「そんなに嫌なのかよ?」

帰る時間帯、大学でいつものように暗い雰囲気を醸し出していると、見かねた友人が僕に話しかけてくれました。

「嫌だよ。なんか雰囲気最悪だし、何より何かいそうな気がするんだよ。」

「何かって?」

「わかんないけど・・・何かいるんだよあそこは。事故も多いし。」

「ふ~ん。なら、検証してみねぇ?」

「はぁ!?」

「いや嫌な雰囲気に何かいる気配、加えて事故多発。これは心霊的なものがいてもおかしくねぇじゃん!カメラもって写真撮ればなんか映るかもしんねぇじゃん!」

「一人でやれよ。」

「いやいやお前と一緒にだって。場所知んねぇし、なんなら酒を奢るからさ。」

「さ、酒・・・ごくりっ。」

この時の僕は金欠が続いて、大好きなお酒をずっと我慢していました。

そのせいで、友人の甘い言葉にいとも簡単に乗せられてしまったんです。

「ぼ、僕が満足するまでいいの?」

「いいぜ。ただし・・・わかるよな?」

「わ、わかったよ。」

「よーし!決まりな!」

友人と約束してしまった僕が後悔するのに、時間はかかりませんでした。

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